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第334話
「夕飯、どうします?」
「ん、出前でも取るか?あっ、ミキはまだ食べられないか?」
「伊織さん、食パンだけでしょ?お腹空いてるんじゃない?」
「まあな」
「それなら、おでんにでもします?その代わり伊織さんにス-パ-に買いに行って来て貰いますけど」
「買って来るのは構わないが、料理するつもりか?」
「ずっと何もしないでいたから、少し体動かします。おでんなら、殆ど買って来た食材入れるだけですし。手を加えるのって、ゆで卵と大根位かな?」
「俺も手伝う」
「じゃあ、買って来て欲しいリスト書きますね」
メモ用紙に食材をスラスラと書き始めた。
「これでお願いします」
「解った。じゃあ買って来るから、ここから動くなよ」
頭を背後からぽんぽんし立ち上がり、部屋着に上着を羽織って部屋を出る。
「行ってくる」
「行ってらっしゃ~い」
可愛く手を振るミキに離れるのが嫌になる。
昨日と違ってだいぶ良くなったと考えながら歩いて近くのス-パ-に行き買物リストを見ながら、買物籠に食材を入れて行く。
「何だか、奥さんに買い物を頼まれた旦那みたいだな」
フッと思い、夫婦みたいで良いなぁ~と思った。
頼まれた食材を買い、部屋に戻るとミキは横になり寝ていた。
「早く、良く慣れよ」
綺麗な寝顔に声を掛けて、食材を冷蔵庫に仕舞う。
30分程経った頃に、ミキが起きだした。
「伊織さん?」
「ああ、こっちだ。キッチンにいる」
ゆっくり立ち上がるミキの側に行き、支えてテ-ブルの椅子に座らせる。
「無理するな。病み上がりなんだから」
「ありがとう。何してたんですか?」
「ああ、ゆで卵を作って大根切ってた」
「大根は、隠し包丁入れました?」
「何だ?それ」
「輪切りに切ったら、十字に少し切り込みを真ん中に入れると味が染み込み易くなるんですよ」
「そうなのか?今から切り込み入れる」
「そっち行きます」
椅子を持って来て、俺が立つキッチンの近くに座らせる。
「じゃあ、ミキはそこから指示してくれ」
「はい」
それからミキの指示に従い切ったり鍋に入れたりし、後は煮込むだけの状態になった。
やってみると割と切る食材が無くて助かった。
「お疲れ様です。後は煮込むだけですから。おでんって簡単でしょ?」
「そうだな。自分では作った事無かったが」
「1人だと買って来た方が安上がりですよ」
「ん、買うか店で食べるかだな。さてと出来るまでソファ-でゆっくりするか」
弱火にし、ミキをお姫様抱きでソファ-まで移動し、俺も慣れない料理で少し疲れた。
「これで伊織さんもおでんは作れますね」
「殆ど何もしてないが……。やはりミキの手料理が1番だ」
「明日は夕飯作りますよ。今日、自分の足を床に殆ど着けてませんから、少し体動かさないと……。そうだ、明日ス-パ-まで一緒に散歩がてら行きます」
「無理するな。食べられるなら出前でも良いんだから」
「少し、体動かしたいんです」
「……解った。その代わり気分悪かったり熱出てきたりしたら遠慮せず言う事」
「は~い」
咳も止まり元気も出て来たミキを見て、やっとホッとした。
夕飯に作ったおでんをメインに、冷凍してあったご飯とミキが前に作ってくれ、やはり小分けに冷凍してくれた南瓜の煮物をレンジで温め食べ始めた。
ミキはまだ食欲が無いと話し、おでんの大根とゆで卵だけ器に盛り食べた。
おでんの中で唯一俺が手を加えたもので、そんなさり気無い優しさが解った。
「伊織さん、大根味染みてて凄~く美味しいですよ」「う~ん、卵も美味しい」
「具材から出汁が出てるから汁も飲めよ。ミキが作ってくれてた南瓜の煮物も味染みてて旨いぞ」
「ほんと?冷凍してたから味入っていったのかな?一口だけ頂戴。あ~ん」
開けて待ってる口に南瓜を1切れ入れてやる。
「どうだ?旨いだろ?」
「本当だ~。味染みてる~」
美味しそうに食べるミキを見て、あの苦しそうな顔を見てるより、やはりこっちのミキの方がいい。
笑ってるミキの回りが華やかな輝きを放っていた。
少しずつ元気になってきてるミキと楽しい食卓に、やっといつもの日常を取り戻した気がした。
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