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第338話
「今日は、定時で帰れよ」
「もう、伊織さん。同じ事言って~、何度めですか?」
「先週休んだからって残業するなって言ってんだ。しそうだから何回も言ってるんだ。絶対、残業するなよ」
「……解りました。伊織さんこそ、俺の事気にしないで残業して来て下さいね」
「ああ、悪いが今日は遅くなる。俺を待たないで早く寝てろ。いいな?」
「……はい。俺の事は大丈夫ですから、残業して来て下さいね」
「何だか、何度も残業して来いって言われると ‘亭主元気で留守がいい’って、言われてるみたいだな」
クスクスクス……
「世の奥様方はそう思ってますよ。俺は違いますけどね」
「当たり前だ。ミキにそんな事思われたら俺は泣く」
くっくっくっくっ……
クスクスクス……
会社行くまでの車中は、楽しい会話と元気になったミキの笑い声に包まれた。
「おはよう」
「「「おはようございます」」」
ミキとパ-キングで分かれ時間差で出社した。
「香坂、もう良いのか?」
一応、上司らしく素知らぬ顔で聞く。
ミキは一瞬ピクッとし
「はい。ご迷惑お掛けしました。風邪でしたが、もう大丈夫です」
「そうか。大事を取って今日明日は、残業しないで定時で帰れよ」
今日だけじゃなく明日もと言われ、話が違うという顔をして見せたが、仕方ないと素直に「はい」と返事が返ってきた。
「香坂、無理するなよ。病み上がりなんだから油断大敵だぞ」
「香坂、誰か看病してくれる人居たか~?誰も居なかったら、俺呼んでも良かったんだぞ」
佐藤の奴。
何で?お前を呼ばなきゃ何ねぇ~んだよと顔に出さず聞いていた。
「お前呼んだら、煩くってゆっくり出来ないだろうが」
よく言った田口。
「ありがとうございます、佐藤さん。大学の友人が来てくれましたから」
真琴君の事を言ってるんだな、嘘つくのが下手なミキだが必死に言って誤魔化すミキが可愛い。
「ま、今度、俺が病気になったら香坂、頼むな」
ミキの肩にポンっと手を置く佐藤に、馴れ馴れしいと不愉快になる。
「あら.あら。佐藤さんが病気になったら、私が母親代りに看病しますよ。香坂君も遠慮せず言ってくれればお粥ぐらい作りに行ったのにね~」
母親のような上野さんでも、ミキの事は任せられないし誰もミキの部屋には入れたくない、そろそろこの話題は終わりにするか。
「よし。香坂も復帰したし、そろそろ仕事しろ」
「「「はい」」」
それからは仕事モ-ドになり、田口は外周りに行き夕方帰社予定、佐藤は午後から外周りで直帰、ミキは内勤で電話対応や事務処理等雑務を熟していた。
昼休憩も「食欲が余り無いから」と言って、佐藤の誘いを断っていたのを見て、俺は近くのコンビニに行きおにぎりを2種類買って渡し、俺も自席でコンビニ弁当を食べた。
定時になり帰りそうも無いミキに声を掛ける。
「香坂、定時で帰れって言っただろう?病み上がりなんだからな。無理して振り返して、明日休む事になるぞ」
「そうだぞ。香坂、もう良い。後は明日にしろ」
田口の口添えもあり渋々机の上を片付け「お先に、失礼します」と言って、トボトボと帰って行った。
可哀想だと思ったが、まだ本調子じゃないと言い聞かせ送ってやれない事も気になり、こっそりLINEした。
♪*ミキ、部屋に無事に着いたらLINEくれ。疲れただろうから、早く寝てろ♪*
1時間経ってもLINEが無く、気が気じゃ無い。
まだか.まだかとLINEを何度も確認する。
30分程経って待ち焦がれていたLINEがきた。
♪*今、部屋に着きました♪*
♪*遅かったな?具合でも悪くしたか?♪*
♪*ごめんなさい。帰りにス-パ-寄って来たから♪*
♪*そうか、余り無理するなよ♪*
♪*はい、お仕事頑張って♪*
♪*了解♪*
短いLINEだが無事に着いた事にホッとし、ス-パ-に寄ったと言うミキの言葉に、本当の家族のような気がした。
帰ったら明るい部屋とミキが待ってると思うと、俄然仕事もやる気になるから不思議だ。
それからの決算の資料作りやら来期の売上目標やらとやる事はたくさんあるが、仕事の進みが違った。
先週の木.金と定時に帰った事で仕事も溜まっていた事もあり、帰りは11時近かった。
リビングに入ると明るい部屋と良い匂いがした。
「ミキ?」
見渡すとソファに横になり寝ていた。
たぶん、待ちくたびれて眠くなったんだろう。
「待つなって言ったのにな。おい、風邪引くぞ」
それでも俺を待って居てくれた事が嬉しく笑みが零れる。
「ん…お帰り…なさい」
「ここで寝るな。また、風邪が振り返すぞ。ほら、ベットに連れて行くから」
首に手を回させ、寝室のベッドにそぉっと下ろし布団を掛けてやる。
「おやすみ」
頭のてっぺんにキスし、クロ-ゼットにス-ツを終い部屋着に着替えリビングに戻る。
ダイニングテ-ブルには、ブリの照り焼き.しらすの大根おろし.キャベツのおかか和えがラップして乗っていた。
レンジで温めようとキッチンに行くとコンロに鍋が乗っていた、中を見ると味噌汁を作ってくれていた。
味噌汁を温めてブリの照り焼きをレンジで温めて1人で食べる。
「やはり2人で食べる方が、美味しいな」
独り言を言い、それでもミキの手料理を食べられる幸せをヒシヒシと感じた。
まだ、本調子じゃないのに、俺の為にス-パ-に寄り手料理を作ってくれた事に感激し、ミキの家庭的な所が本当に俺の癒しになっている。
一緒に暮らしたら毎日こんな日々が続くんだろな。
凄え~幸せだな。
そんな事を考えて、旨い料理にアッと言う間に食べ終えて片付けシャワ-だけ浴び、ミキが待ってるベッドへ潜り込み背後から抱きしめて、幸せな気分のまま眠りについた。
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