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第356話

「遅くなったか?」 龍臣の声で来た事が解った。 「いや、丁度だ。俺達は早めに着いて、おやじと話てた」 「そうか、良かった。おう、おやじ久し振りだな。元気にしてるか?」 「元気も元気だ。ほんと、お前と伊織は、年に1.2度位しか顔を見せん。最近は伊織もヨシ君のお陰で顔を見せるようになったが、お前も閉店間際に来んで、たまにはゆっくりと酒でも飲んで行け」 おやじも龍臣が気を遣って閉店間際に来てる事を知っていたんだろう、遠回しに気にせずゆっくり飲みに来いと言ってるように聞こえた。 「その内な。で、伊織。お前の恋人紹介してくれるんじゃねぇ~のか?」 「お前にわざわざ紹介はしたくねぇ~けど、ミキが優希さんにお礼したいって言うから。お前は次いでだ、つ.い.で」 「伊織さん!」 俺の服の裾を引っ張り注意するミキを横に並ばせ、改めて龍臣達に紹介する。 「優希さんは会った事があるが改めて紹介する。俺の恋人の香坂美樹だ。この強面が海堂龍臣。俺の高校の頃からの悪友で、隣がミキが熱を出した時に看病お願いした芳村優希いや違うか?もう、海堂優希さんだ。俺達の高校の時の担任で龍臣の奥さん兼恋人だ」 「優希さん、その節はお世話になりました。お礼を言うのも遅くなり、すみませんでした。熱があって定かじゃなかったので、改めてお礼とお近づきになりたくって食事会させて貰う事にしました。本当にありがとうございます。初めてまして龍臣さん。伊織さんからはお話だけは聞いてて是非1度お会いしたかったので、今日会える事を楽しみにしてました。龍臣さんも今日は忙しいのにありがとうございます」 ミキを見た龍臣を見ると、やはり絶句した顔をして驚いていた。 ミキを一目見た時は、余りの綺麗さと人間離れした美しさで皆同じ表情をする。 百戦錬磨の龍臣も例外では無いらしい。 たぶん、龍臣も外見の美しさだけじゃなく、きちんと挨拶するミキに感心し気に入った事は直ぐに解った、それは優希さんも解ったようだ。 「美樹君、元気になって良かった~。あの時の成宮ったら、心配で心配でしょうがないって顔見せてやりたかった。な、龍臣。言った通りだろ?驚くよな?私も熱出てる時に見たっきりだけど……元気な姿は予想以上だね。あっ、美樹君。改めてまして、海堂優希です。よろしくね」 ほら、龍臣も挨拶と肘で突っつかれ、ハッと気がついた龍臣は強面の顔から表情を崩し、クシャっと笑顔でミキに挨拶をする。 「海堂龍臣です。伊織からは聞いていて、俺も1度会いたかったから、今日呼んでくれて嬉しかった。今後、優希共々宜しく」 握手を求められ手を出そうとするミキの手を掴み、龍臣の手を叩く。 「お前には、勿体無いから触らせない」 「いいじゃね~か?握手ぐらい」 「ミキに悪い虫が付くと困るからな」 「伊織さん!もう冗談が過ぎますよ」 「お前も尻に敷かれてるのか?」 「敷かれるわけねぇ~だろうが、お前とは違うんだよ~」 「取り敢えず、座ろう。後は桐生も来るんだよね?桐生の恋人も見れるとはね。楽しみ~♪」 俺達のじゃれ合いに慣れてる元先生は流石だ、おやじに挨拶し、龍臣を引っ張りおやじが用意してくれた6人席に座る。 俺達も席に座り祐一達を待つ事にした。 俺はさっき龍臣が挨拶した時に、あいつが親しい人にしか滅多に見せない親愛を込めたクチャッとするあいつ特有の笑顔を見て、ミキが目を見開いていたのが解った。 高校の時も、ほんとにたまに見せる子供みたいなクチャッとする笑顔と普段の強面の顔とのギャップで龍臣に惹かれる奴もいた、龍臣も解ってて使う時があった まさか、ミキもギャップにやられたりしなかっただろうな、龍臣も俺以上に強引なタイプだ。 ミキが強引なタイプに弱い事は重々承知だ。 やはり龍臣には会わせたく無かったが、優希さんに首根っこ掴んで貰って、俺もミキの恋人アピールをするか。 ま、大丈夫だと思うが、念には念を入れるに越した事は無い。 そんな事も杞憂で終われば、それはそれで良い。 俺1人だけが、そんな考え過ぎの事を思っているとガラガラガラ……祐一達が入ってきた。 「悪い、少し遅れた」 「んもう、だから早く行こうって言ったのに~」 「悪かったってば。ほら、皆んな席着いてるぞ、俺達も座ろう」 おやじに挨拶し、真琴君と一緒に席に着き、やっとこれで6人揃った。 宴の始まりだ。

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