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第359話

「おやじ、ありがとうな。お陰で腹もいっぱいだ。おやじも飲めよ」 「じゃあ、頂くか?」 グラスに注いでやるとグビグビ……飲み干す。 「はあ~、美味い。それにしても仲良しになったな」 おやじの視線の先には俺達の恋人が、それぞれ楽しそうに笑っていた。 「ああ、ミキは寂しがり屋だからな。誰とでも直ぐに仲良くなる。だが、人を疑う事を知らないから困る。それが心配の種だ」 「マコも明るいからな。人懐っこいが、ミキと違って良く見てるよ」 「流石に、人間観察が趣味のお前の恋人だ。そうでもないとお前の恋人なんて務まらないしな」 「アホか! マコはミキが天然だから、自然とマコがしっかりせざるを得なかったんだ」 「確かに。その点は、真琴君に感謝してる」 「良いコンビじゃないか」 おやじの言う通りだ。 「それにしても、さっきの龍臣…可笑しかったな」 くっくっくっくっ…… 「本当に、珍しいもん見た~。あんな狼狽える龍臣」 はははは…… 俺と祐一が揶揄って話すと頭をボリボリ掻いて 「俺は優希には、頭が上がんねぇ~んだ」 「先生だけあって、しっかりしてるしな」 「それもあるが、俺と付き合う事で結婚まで考えてた相手と別れたり家族と絶縁状態で、それでも俺と一緒になってくれたからな。学校辞めて尊を育てたり、今度は弁護士として俺を支えようとしてくれてる。本当に、出来た嫁だ」 先生を見てしみじみ話す龍臣の眼差しは、愛しい人を見る目だった。 「でも、龍臣も早い内に夫婦になろうと決めただろう?若いのに一生のパ-トナ-と決めたお前も凄いと思うけどな。そう言えば、この間先生が龍臣の周りは誘惑が多いってボヤいてたが大丈夫そうだな。ま、先生も事実上の夫婦って事が自信になってるみたいで、薬指の指輪を俺に見せつけてたけどな。……正直、俺は龍臣も祐一も羨ましい。龍臣は夫婦になってるし、祐一は同棲してるだろ。俺は……ミキを引き留めて、俺の愛で雁字搦めにして離れないようにする事で精一杯だ。ミキはあの通り、この世の者とは思えない程綺麗だろ。俺は誰にも盗られないように威嚇し牽制しまくりだ。愛されてる自信もあるが、もっともっとと貪欲になる。愛し過ぎて、ミキが離れた時を考えると怖くなる」 グビっと酒を飲み、少し酔って居たのかも知れない、誰にも言えなかった弱音が出た。 「バカだな。俺だって夫婦ではいるが、戸籍上はやはり違う。さっき優希が言ったように、いつどうなるか不安はある。確かに、優希が思ってるように店の子が色仕掛けでアプローチしてくる事も多い。キャバ嬢やクラブの店の子だから、それなりに見映えは良い。だが、一夜の快楽でバカな事して優希と一生離れるくらいなら、そんな事には価値が無いのは解りきってる事だ。そんな周りの環境で、優希が少しでも不安にならないように指輪を贈ったし、俺も肌身離さず着けてる優希が家庭に入ってる時は良かったが、これから社会に出ると誘惑が多くなると思うと、俺もお前と同じだ」 龍臣は会社経営で幅広く事業をしている。 キャバクラ.クラブの店を何軒かと貸しビルと、後は血の気の多い者の為に建設関係の仕事もしていた。 確かに誘惑は多そうだが、今の龍臣の話では大丈夫そうだ。 「俺も同棲はしてるが、マコをいつも1人にさせてるからな。スレ違いの生活を少しでも無くして、成る可く一緒に居られるように同棲したが、マコが寂しくないか不安だ。寂しいからいつも一緒に居られる男でも女でもそっちが良いって言われたらと思うとな。でも、俺の夢でもあったバーだから、それは辞められ無い。同棲してても我慢させてる事が多いのも現状だが、マコも店も手放せ無い。マコの明るさに、俺は毎日救われてるからな」 俺は龍臣の夫婦.祐一の同棲と、いつも一緒に居られて確かな絆があって羨ましいと思っていたが、それはそれで悩む事もあるんだと思った。 語り合って気恥ずかしくなりグビグビ……と3人共飲んだ。 「結局、どんな形でもお互いを信じて信頼出来る関係を作っていく事が大事だ。言葉や態度で愛情表現するのもその1つだし、大切に思ってる事は出し惜しみしないで、いつもしてやると安心出来るんだからな。ほれまだまだ若いんだ。悩んでばかり居ないで出来る事からするんだな」 人生を長く生きて店で色んな人を見てきたんだろう、おやじの言葉は重かったし、心に響いたのは俺だけじゃ無かったようだ。 龍臣も祐一も神妙な顔をしてうなづいていた。 「ほれ、楽しそうに話してる。可愛いじゃないか?」 「そうだな。何だか昔っからの友達みたいだな、年も離れてるのに。優希が嬉しそうにしてる。長年家に縛られていたからな。今日、来て良かった。ありがとうな、伊織」 「いや、俺じゃなくミキが言い出したんだ。たぶん、お礼と言いながら優希さんと仲良くなりたかったのかもな」 「ミキらしいな」 「何だか花に例えると、ミキはトゲが無い薔薇だな。誰から見ても華やかで美しい。皆んな薔薇は欲しがる」 俺がミキを例えると祐一も 「じゃあマコは、向日葵だな。いつも笑ってて明るいし親しみを感じる」 「それじゃあ優希は、百合だな。可憐で潔白な感じなのに芯がしっかりしてる」 それぞれ恋人を花で例えていた。 また、愛しい眼差しでそれぞれ恋人を見ていた。

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