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第400話
「本屋さんで立読みしてたら思ってたより時間経っちゃった。伊織さん、帰って来てるかなぁ?」
伊織さんのマンションのエレベーターに乗り、俺が会社出る時はまだ仕事していた姿を思い出していた。
伊織さんの部屋で夕飯を作って待っていようと思ってた予定が狂って少し焦っていた。
「夕飯は冷蔵庫にあるもので考えよう。明日、一緒に散歩がてら食材の買い出しすれば良いし」
冷蔵庫の中に何があるか考えながらエレベーターを降り、伊織さんの部屋の前に着いた。
鍵を出すか迷い、一応礼儀だと思ってインターフォンを鳴らした。
♪♪ピンポン……♪
「まだ、帰って無いのかも。良かったぁ」
鍵を取り出そうとバックの中に手を入れた所で、ガチャッとドアが開いた。
「伊織?」
「えっ?」
ドアから顔を覗かせた人に見覚えが無い。
誰?なぜ、伊織さんの部屋に?
「あんた誰?」
自分の事は名乗らず傲慢な態度で言われ、どう言おうか戸惑う。
どうしよう?恋人って言って良いのかなぁ?伊織さんの迷惑にならないかなぁ?と思いつつ名前だけ名乗った。
「香坂と申します」
「ふ~ん。香坂さんねぇ?」
俺を値踏みするように下から上まで見られ渋い顔をされた。
「あの~、伊織さんは?」
「伊織さんねぇ?……伊織なら帰って無いよ。どんな関係か知らないけど。僕がアメリカから帰って来たから、あんたもう用無しだから」
「えっ、それって…あの」
「鈍いねぇ~。あんた僕の代わりって事。僕が居ないからって…もう、誰でも良いんだから…ったく、しょうがない。伊織の事、本気にしないで。お疲れさん」
「あっ…あのぁ~」
ガチャッとドアを目の前で閉められ途方に暮れた。
2~3分ドアを見つめていたが、頭の中が真っ白になり何を言われたのかも理解出来なかった。
このままここに居ても仕方ない、冷静に考えようとドアの前から離れ逃げるよう伊織さんのマンションを後にした。
「伊織かと思ったら、何あれ?ダサい奴」
喜んでドアを開けたら、伊織じゃなく全然知らない人が立っていた。
‘伊織さんは?’と馴れ馴れしく呼ぶのも気に食わないし、外見も目の辺りまで前髪を下ろし黒縁眼鏡をしてダサくて暗そうな奴で、伊織には相応しく無い。
いつもの伊織なら、もっと後腐れ無さそうな遊び慣れてる人を相手にしていたはずだ。
何であんな毛色が違うのを……ダサかったけどスタイルは良さそうだった、体目的で1度か2度遊びで抱いた相手なんだろう?それを本気になってスト-カ-なのかも知れない、部屋まで来るくらいだから。
あんな暗い奴、どちらにしろ伊織は、相手にしない。
恋人のつもりなんだろうか?思い込みでしつこくしてるのかも知れない。
オドオドする態度も気に食わないし。
僕が居ない間に変なのに引っかかって…。
ま、あれだけ言ったんだから馬鹿じゃなきゃ解るだろう。
そんな事より、あ~、早く伊織に会いたい。
びっくりするだろうなぁ~。
やっぱり僕には伊織じゃ無いと……伊織だけは……。
早く帰って来いとソファに座りクッションを抱いて待っていた。
この時、会社帰りの格好じゃ無かったら…きちんと「伊織さんの恋人です」と胸を張って言っていたら……。
この後、拗(こじ)れる事が無かったかも知れない。
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