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第405話
伊織のスマホが鳴った。
急用なら大変だと手に取ると、画面には[香坂]とあった
また、あいつか~。
シツコイ奴と勝手に電話に出た。
散々言いたい事を言って切った伊織のスマホの着信履歴を消し元通りテ-ブルの上に置き、ソファに寝そべってファッション雑誌を見ていた。
「へえ~、伊織でもこんなの見るだ~」
ったく、しつこい奴。
これで電話も掛けて来ないだろうし部屋にも来ないだろう。
スト-カ-を退治してやった、伊織もはっきり言ってやれば良いのに、ったく変な所優しいんだからと伊織が言えないなら僕が代わりに言ってやった。
良い事したなぁ~と雑誌をペラペラと捲りながら思っていた。
そんな事があったとは知らず呑気に風呂から出て
「まだ、寝て無かったのか?」
「ん~、だってぇ~。伊織と一緒に寝たい~」
起き上がり俺の首に手を回し抱き着いてくるのをそのままにし
「それはダメだ。1人で寝ろ」
「え~、やだ~。僕1人じゃ寝られないよぉ~。寂しい、お願い.お願い」
駄々を捏ねる波瑠に困ったが、今日位は側に居てやるかっと考え直した。
「解った、今日だけだぞ。明日からは1人で寝ろよ」
「うん.うん。伊織、大好き~。やっぱり伊織は優しい♪」
ギュ-ギュ-と強く抱き着くから首が絞まる。
「おい、嬉しいのは解ったが苦しいから離れろ」
「あ~、ごめん。つい嬉しくって」
離れてペロッと舌を出すのが可愛い。
さっきまでは泣いてたかと思うと今度は笑顔だ、本当に喜怒哀楽が激しいなぁ。
「ねぇ.ねぇ。疲れたから早く寝よう」
スタスタ…と俺の前を通り過ぎ、俺の寝室に向かうのを阻止した。
「おい、寝るのは客間だ。ここには入るな。さっき言っただろう、約束だ」
「え~、布団じゃあ狭いよぉ~。伊織のベットは相変わらずキングサイズかクイ-ンサイズでしょ?そっちが良い~」
「ダメだ。なら寝ない!」
「やだ.やだ……解ったから…一緒に寝て?」
シュンとして顔を下げてる頭を撫でてやり
「ほら、顔を上げろ。一緒に寝てやるから」
顔をパッと上げ腕を組んで、早く.早くと素直に客間に歩き始めた。
現金な奴だ、ま、そこが可愛い所だが。
狭い布団に並んで横になると
「伊織、抱き着いて良い?」
「……良い」
腕枕をしてやり抱き着く体を腕の中に抱きしめた。
俺の胸辺りに顔を埋め
「伊織の匂いがする、やっぱり伊織の所が安心出来る伊織……僕を見捨てないでね」
アンディとの喧嘩で今の現状に不安を感じてるんだろう?そんな言葉を口にした。
久し振りに聞く波瑠からの‘伊織だけは見捨てないで’の言葉。
その言葉を聞くと可哀想な気持ちと罪悪感とが織り混ざって‘こいつを守ってやる。俺だけは何があっても見捨て無い’と言う気持ちを思い出した。
安心させる様に細い背中を撫で優しく語り掛けた。
「見捨てたりしないから安心しろ」
「本当に本当?約束だよ」
「ああ、波瑠の我儘も気紛れな所も全て解ってるし。約束するから」
「ありがとう。やっぱり僕が帰る場所は伊織の所なんだ。帰れる場所があるのは安心する」
「……そうか。…明日はどこに行きたい?」
重い空気感に話題をわざと変えた。
「ん~、浅草とかお台場とか。久し振りに渋谷の街や原宿も見たいかも…行きたい所たくさんある~」
「じゃあ、明日は浅草に行こう。そこからスカイツリーまで足を延ばそう」
「うん.うん。やっと日本を満喫出来る♪」
「なら、今日はもう寝ろ」
「は~い。おやすみ♪」
「おやすみ」
俺が離れない様に強く抱きしめる腕に、波瑠の心細さを感じる。
普段は我儘や自分勝手で気分屋の所もあるが、俺にとってはたわいもない事だ、それすらも可愛いと思う。
波瑠が我儘を言うのは、相手を信頼してる証だ。
我儘を言って、どれだけ自分の側に居てくれるか試してる部分もある、それを理解出来ない者はやはり離れて行ってしまう、もっと上手く立ち回れば良いと思うが不器用な奴だ。
解ってやれるのは、やはり俺か?
アンディなら任せられると思ったが……。
早く迎えに来てくれよ、じゃないと俺は………
縋り付く体を腕の中に抱いて、急なゴタゴタに疲れを感じ直ぐに眠りに就いた。
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