414 / 858

第415話

伊織さんとやっぱり会いたい。 会社で会ってるけど……。 会って話がしたいと会社帰りに、伊織さんのマンションに来ていた。 俺が会社に戻った時には、もう退社した後だったから帰ってるに違いない。 エレベ-タ-に乗っている最中も‘どうしよう、あの人が出て来たら……。どうか伊織さんが居ます様に’と心で祈り降りた。 ドキドキ…して、胸の前で手を当て深呼吸しインタ-フォンを鳴らした。 ♪♪ピンポン…♪♪ 「…………」 ♪♪ピンポン…♪♪ 「居ないのかなぁ?どうしよう。勝手に入って待ってて、あの人と鉢合わせになるのも気不味いし……マンション前で、待ってようかな?」 マンションに入る前に声を掛けようと、またエレベ-タ-で下に降りる事にした。 なかなか帰って来ない伊織さんを待ち、外で不審者に思われない様に気を付けていた。 それから1時間程で、いつもの道から人影が見えて来た 伊織さん? 遠目でまだ解らなかったけど…何となくシルエットで伊織さんだと思った……けど1人じゃ無かった。 笑いながら顔を寄せ楽しそうに歩いて来る2人。 伊織さんとあの人だと解り、咄嗟に植え込みの影に隠れてしまった。 どうしよう?まさか一緒だと思わなかった。 マンションに近づいて来る2人を、植え込みの影から見ている自分が惨めになった。 マンション前で腕を組み.抱き着き「伊織、大好き~」と声が聞こえ、仲良さそうに腕を組みながらマンションに入って行く2人を見送った。 暫くして植え込みから出て来て「何してたんだろう俺。バッカみたい」惨めさと2人の仲の良さにショックを受け、もう居ないマンションの入り口をボ-然と見ていた。 入り口がぼやけて見え、涙が頬を伝った。 何に対しての涙なんだろう。 手で涙を拭きトボトボ…とマンションを後にして歩き出した。 部屋に帰って来ても、腕を組み歩いて行く2人の姿が脳裏に焼き付いて離れない。 どうして伊織さん?腕を解かないんだろう? その位、気を許してる相手だって事? ‘大好き~伊織’ と言っていた。 ‘一緒にお風呂入る?’とか‘一緒に寝る?’とか言ってなかった? また以前の関係に戻ったのかも……。 何も言わない伊織さんに自信が無くなり不安が募っていく。 会社ではバリバリ働くし俺達にもいつも通りに接してる……あの人は誰?どんな関係?なぜ伊織さんの部屋に泊まってるの?伊織さんじゃなきゃダメなの?聞きたい事はたくさんあるけど…聞くのも怖くて意気地なしの自分に嫌気が差す。 ♪♪♪♪~…♪♪♪♪~…… 「電話?伊織さん?」 伊織さんだと思って、直ぐに電話に出た。 「もしもし、美樹さん?」 「あっ、拓海君?どうしたの?」 「いやぁ~、昨日、焼き肉ご馳走になったからお礼の電話しようと思って」 「わざわざ良いのに~。俺こそ助けて貰ったんだから」 「俺ばっか食べた感じだったから、俺は楽しかったけど美樹さん楽しかった?今、何してたの?」 「俺も楽しかったよ。拓海君の豪快に食べてる姿見たら、何だかお腹一杯になっちゃって~。今?丁度、帰って来てボ-としてた」 「何だか?声変じゃ無い?また、食べてないんじゃ無いの?因みに夕飯食べた?」 「……食べて無い…かも。……忘れてた」 それどころじゃ無かった。 「ったく。また倒れるよ?これだから放っとけねぇ~んだよなぁ~。……明日、何してますか?」 聞かれても予定が無い、伊織さんとは会えないだろうし……。 「……特に、予定無いけど」 「じゃあ、俺と遊びませんか?午後に待ち合わせて遊んで、一緒に夕飯食べません?」 俺が1人だとご飯を抜くから気を使って誘ってくれたんだ、本当に良い子だなぁ。 その気遣いと1人で居たく無い事が重なり返事をしていた。 「うん、良いよ。待ち合わせ場所と時間は?」 「どこ行くか決めてから、後で、ラインします」 「ん、解った。ありがとう」 「お礼は良いですよ。俺が美樹さんと遊びたいんで。じゃあ、また明日。後でラインします」 「待ってる。おやすみ」 「おやすみなさい」 電話を切り、拓海君の優しさに少し気持ちが救われた そうか、俺も伊織さんに今日「会いたい」とラインか電話すれば良かったんだ。 そうすればあの2人の仲良さそうな姿を見ないで済んだのに。 会いたい気持ちが先走って考え付かなかった。 ううん、違うな、電話はあの人がまた出たら…と思うと怖くて掛けられなくなった。 俺は無意識に伊織さんからのラインを待つだけの日々になっていた。 この日も夜遅くまで伊織さんのラインか電話を待っていたけど……等々、俺のスマホが鳴る事は無かった。 あの人が現れてから初めて伊織さんからの連絡が無い日だった。

ともだちにシェアしよう!