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第416話
「波瑠、おい波瑠斗って、起きろよ」
「う~、もう朝?もうちょっと寝たい~」
「寝てるのは構わんが、もう昼前だぞ」
「……伊織~、一緒に寝る?」
「寝ない」
「ケチ~」
一応、声を掛けたし、後は好きにさせようと客間を出てリビングで新聞を読んでいた。
10分程経った頃にリビングに顔を出し
「伊織~、ちょっと頭痛い~」
「2日酔いだな。久し振りに日本酒飲んでたからな。飲み過ぎだ。で、酷いのか?」
「ちょっと頭を動かすとズキズキする位」
「じゃあ、今日は大人しくしてろ」
「やだ~、出掛けた~い。我慢出来るよぉ~」
「無理するな! 我慢してまで出掛ける必要無い! 明日、好きな所に連れて行くから、今日は部屋でゆっくりして、良くなったら近くの店に夕飯食べに行こう」
「ん~、伊織がそう言うなら、今日はゆっくりするけど、伊織も出掛け無いよね?一緒に居るでしょ?」
自分を置いて俺だけどこかに行くんじゃ無いか?と不安気な顔をする波瑠の頭を撫でてやる。
「安心しろ。俺も出掛け無いから、少し書斎で仕事してるから波瑠もゆっくりして頭痛を早く治せ」
「うん、伊織が居るなら良いよ♪」
こうして今日の予定は部屋でお互い好きな事をして過ごし、夕飯は近くのファミレスで食べた。
昨日出掛けられなかった反動なのか、早くに寝室をドンドンと叩かれ起こされた。
「今日は伊織の車で、ドライブ行きた~い」
「東京見物は良いのか?東京なら電車の方が楽だぞ」
車には成る可くミキ以外乗せたく無かった、遠回しに電車で出掛けようと話す。
「買い物も平日に行ったし、東京以外にも行きた~い」
「……どこ行きたい?」
「う~ん……軽井沢?」
「はっ、何で軽井沢?」
「頭に浮かんだのが、軽井沢だから」
「……解った。行きたいなら連れて行く」
「わ~い。やっぱり伊織だ~、大好き~♪」
こいつの我儘は今に始まったことじゃ無いし、こんなに喜ぶなら軽井沢位大した事じゃ無い。
それに波瑠と出掛けるのも今日で終わりだろうからな多分、今週末にはアンディから連絡が来るだろうし……。
「じゃあ、出掛ける用意しろ」
「は~い♪」
喜んで支度をする為に客間に行く波瑠の後ろ姿を見ていた。
あんなに喜んで可愛い~。
高速を使い2時間弱で軽井沢に着いた。
車に乗る時、助手席に置いてあるドナルド&デイジ-を見て
「何これ~?伊織の趣味?乙女チック~」
「良いだろ?」
「退かして良い?」
「ああ」
「後ろに置くね」適当に置かれ
「おい、雑に扱うな」
「そんなに大事なの?」
「いや、別に。ただ可哀想だろ」
「ふ~ん」
俺が後部座席に綺麗に並べて置き直した。
それを疑わしい目で見られ誤魔化す様に
「ほら、出発するぞ」
「は~い♪」
そんな遣り取りがあったが、上手く誤魔化せたかどうかは疑問だ。
俺が縫いぐるみを車に置く事自体が、既に奇妙な事だし……。
深く追求してこない波瑠にホッとし、こうしてミキ以外を初めて車に乗せた。
車を駐車スペースに置き、緑豊かな自然を感じ散歩がてら歩く。
「気持ち良い~♪」
腕を高く上げ伸びをし、深呼吸する波瑠。
「確かに、緑を見てるだけで都会の喧騒を忘れる」
俺も首をコキコキ鳴らし伸びをした。
「うん♪ ここに居ると嫌な事忘れる気がする」
波瑠の一言で、やはりアンディからの連絡が無い事に不安を感じてると思った。
それに気付かない振りをし、努めて明るく話す。
「よし、どこから行く?」
「車の中で、検索しておいたからバッチリだよ。取り敢えず、旧軽井沢銀座通りで美味しいものを食べ歩きするぅ~。その後は美術館行って~、アウトレット行って~、後は滝でマイナスイオン浴びるぅ~」
「解った。波瑠の好きな様にしろ」
「やった~♪ 行こう.行こう」
俺の腕を取り早く.早くと歩きだし、はしゃぐ波瑠。
今日は波瑠の好きにさせようと決め、その日はあっちこっち付き合わされ振り回され疲れたが、波瑠が楽しそうに笑ってる顔で ‘ま、いいかっ’と黙って付き合ってやった。
こんな事で波瑠の気が紛れるなら、お安い御用だ。
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