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第429話
ガチャッ……
ドアが閉まる音を確認して、目を静かに開けジッと1点を見つめていた。
ついさっきまで幸せな時間だったのに。
伊織さん、今日はずっと側に居るって言ったのに。
電話の音で目が覚めたけど動けなかった。
静かにして伊織さんが話す声だけを聞いていた。
流石に相手の話し声は、聞こえなかったけど……話しの内容と波瑠って呼ぶ事で、あの人と電話してると解って余計に動けなかった。
伊織さん……「好きに決まってるだろ」って言ってた「側に居るから」って言ってた。
好き?って何?
俺の側よりあの人の方が良いの?
俺には「悪いな」って言ってた。
悪いなってどう言う意味?
俺よりあの人を選んだから?
なら、どうして抱いたの?
溢れてくる涙で焦点が合わなくなり、枕に涙が吸い込まれていく。
嘘つき…嘘つき…嘘つき……
今まで不安だったカケラが1つに集まり、大きな不安の種が心に植え付けられた。
「伊織さん.伊織さん.伊織さん……まだ信じていいの?」
涙声の小さい声で問うけど答える人が居ない。
もう考えたく無いと現実逃避で大きなベットで、布団を被り丸くなって静かに泣いた。
俺が部屋を出てから、ミキがそんな事になってるとは思わず自分のマンションに着いた。
部屋の鍵を開けリビングに行くと、薄暗い部屋で波瑠がソファでクッションを抱いて泣いていた。
いつもなら俺が帰って来ると、待ち侘びたように抱き着いて来るのに。
相当、参ってるらしい。
部屋の明かりをつけ「ただいま」と声を掛けると、クッションから顔を上げ赤い目で俺を見て、直ぐに抱き着いて来た。
俺の胸に顔を埋め、わんわん泣く波瑠の頭を撫でてやる。
「伊織のバカ。遅いよぉ~」
「悪かった」
「ご飯だけなのに、何でこんなに遅いの~」
やっと帰って来てくれたと抱き着いた時に、伊織の体から石鹸の香りがした。
ご飯だけじゃ無くセックスもしてきたんだと解ったけど、僕が「寂しい」「1人にしないで、側に居て」と言うと、こうやって遅くなっても僕の元に戻って来てくれた。
その相手より僕を選んでくれた事が嬉しかった。
「……悪かった」
「でも、帰ってきてくれたから、許す」
「そうか」
「……アンディから……連絡無かった。もうダメかも」
泣き出す波瑠の背中を摩り励ます。
「そんな事は無い。アンディも仕事頑張ってるんだ。今日は平日だろ?明日か明後日には連絡くるだろ」
ヒックヒック…ポロポロ…涙が流れ頬を伝う。
「だってぇ…も…約束の2週間だよ…もう…僕の事なんて、どうでも良いんだ」
「そんな事言うな!」
「も…いい。僕には伊織が居る。伊織は僕を見捨て無いよね?」
ヒックヒック…ヒックヒック……ふぇ~ん…
頭を撫で「当たり前だろ、波瑠」
「伊織.伊織~」
しがみつきギュッと抱き着かれ、落ち着かせようとソファに座らせる。
隣で座ってる俺の太腿に跨がり、肩に顔を埋め泣き出す。
ス-ツが涙で濡れていく。
黙って波瑠の背中を摩り、泣き声を聞いていた。
どれ位泣いてたんだろ?
暫くすると泣き声も止まりス-ス-……寝息が聞こえた
「泣き疲れたのか」
頬に涙の跡があり、俺が居ない時も1人で不安で泣いてたんだろう、可哀想な事をした。
少し経ってから、客間に運び布団に横たわらせ
「どうするか?今日位一緒に寝てやるか」
こんな時こそ、側に居てやりたい。
朝起きた時に寂しく無い様に。
ス-ツをその場で脱ぎ捨て、パンツ1つで横になると波瑠が俺に抱き着いてきた。
起きたのか?と顔を見ると、目を閉じス-ス-……寝ていた。
人恋しいのかも知れない。
波瑠の寂しさが解り、俺も細い体を抱きしめた。
波瑠と同じ様に泣いてる人が居るとは……この時は目の前の波瑠の事で頭がいっぱいだった。
1番大切な人を泣かしていた事を、後々後悔する事になるとは思いもしなかった。
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