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第436話
「樹さん…美樹さん」
肩を揺り動かされ、まだ眠いと人肌の温もりを求めて抱き着いた。
「……まだ、眠い。伊織さん、もう少しだけ」
「すっげぇ~可愛いんだけど。時間、大丈夫?会社行くんでしょ?」
頭上から、いつもの伊織さんとは違う声と言い方でハッとし上を向くと、そこには拓海君の姿があって驚いて飛び起きた。
ガバッ。
上半身裸の俺、また驚いて体を隠す様に布団を胸まで引っ張った。
「た、拓海君! な、何でここに?」
「えっ、覚えて無いんですか?2人でデ-トして帰りご飯がてら飲みに行ったでしょ?」
思い出そうと暫く考えてると、拓海君がベットから抜け出し裸の拓海君はベット下の服を持ち着替え始めた
「た、拓海君! 」
全裸の拓海君に、また驚き目線に困った。
「何?今更でしょ?」
「えっ」
俺が戸惑って困惑してる間に、拓海君はサクサク着替え終わった。
ベットに近づき俺の側に来て
「美樹さん、ごめん。俺も今日1時限から入ってるから、このまま帰って用意して行かなきゃ。美樹さんも会社遅れないでね」
「………」
何がなんだか?どうしてこうなったのか?解らず返事に困り黙ってしまった。
そんな俺を見て苦笑し、俺の耳元で囁く。
「昨日はすっげぇ~良かった。また連絡します」
チュッ.チュッと軽くキスされた。
拓海君の行動に驚き固まる俺。
「………拓海君」
「じゃあ、先出ます。美樹さんも遅れないでね」
そう言って寝室を出て、玄関のドアが閉まる音がした
「………」
拓海君が部屋を出たのを確認して、恐る恐る布団の中の自分自身を確認した。
全裸の俺、部屋の中を見回して、ベット下には俺の服と下着が無造作に置かれ、使ったと思われるティッシュが丸めて数個落ちていた。
顔から血の気が引くのが解った。
「……どうしょう?俺…拓海君と」
どう見てもこの状態は拓海君と‘しちゃった’ としか思えない。
全裸の俺と拓海君.使ったティッシュ.さっきの拓海君の行動と言動.まるでセックスした後の恋人みたいだった
頭を抱え ‘どうしょう.どうしょう.…どうしょう.どうしょう’ そればかりが頭に浮かんだ。
昨日の事を思い出そうとするけど、拓海君と飲んだ事は覚えている、そこでこれまで抑えていた不安や愚痴を言った様な気がする。
そこら辺から断片的にしか覚えていない。
ハッと気付き、こうしても居られない。
拓海君が早く起こしてくれたからまだ余裕があるけどシャワ-を浴び会社に行く準備もしなきゃとベットを抜け出した。
部屋の窓を開け、セックスの名残が残る匂いを換気し脱ぎ散らかした服を掻き集め、落ちているティッシュを拾いトイレに行き1つずつ流していく。
流れるティッシュを見つめ ‘確かに精液が付いていた。やはり俺…拓海君としちゃったんだ’ と改めて思った。
ボ-然と何度かティッシュを流し見ていると、涙が頬を伝ってきた。
泣く資格は俺には無いのに……幾ら寂しいからって自分の浅はかな行動に嫌になった。
洗濯籠に服を入れ、浴室で頭からシャワ-を浴び水と一緒に涙も流した。
うっうっうぅ~…うっく…うっうぅ~……
唇を噛み締め声を出さない様に、シャワ-の音が少しの泣き声を搔き消してくれた。
シャワ-の下で暫く浴びていた。
もう伊織さんに会わす顔が無い。
俺……浮気…したんだ。
自分では記憶が無いけど、部屋の状況と拓海君の意味深な言葉が何よりの証拠だ。
俺…俺…バカな事した。
あんなに伊織さんに ‘俺と一緒の時以外は飲みに行くなよ’ って言われてたのに……拓海君に心を許していたのも本当だし。
言い訳をするなら、俺の部屋に入る人なんてマコか伊織さん位しか居ない、酔ってたから伊織さんと思ったのかも……もうそれも言い訳だ。
どんなに言い訳しても……俺は浮気したんだ。
あんなに伊織さんには ‘浮気する様な人とは付き合え無い’ と、言い切っていたのに……それなのに……。
頭を振り全てを洗い流す様にシャワ-を浴びた。
重い気持ちと体に、伊織さんが待ってる会社に行きたくないとノロノロと準備をする。
こんな時間稼ぎしてもどうしようも無いのに。
そんな事をしてると、会社に間に合わない時間になった。
「今日、直行直帰しようかな?余り周れない業者さんとか行ってみようかな?新しい業者さんも探してみよう」
そう決め、上野さんか田口さんが出社する時間を見計らい会社に電話をした。
電車の中で、現実逃避してる自分だと解ってるけど、今日だけは伊織さんの顔がまともに見れない。
これからどうするかも考え無いと……。
美樹さんの部屋から逃げる様に出た。
朝の可愛い美樹さん、本当ならそのままラブラブタイムに突入したかったが現実は甘く無い。
美樹さんは昨日の事も覚えて無い様子だったし、朝から彼氏と間違えていた。
美樹さんが俺を見て驚いて顔色が悪くなるのが解った
拒絶の言葉や否定的な言葉を聞きたくなかったから、美樹さんが口を開く前に何も言わせず部屋を出た。
1時限から大学なんて無い。
このまま自分のアパ-トに帰って少し寝よう。
‘昨日はすっげぇ~良かった’ と、覚えて無い美樹さんが悔しくってわざと耳元で話し唇にキスした。
これは昨日の事を少しでも思い出して欲しいと言う事と、俺の事を意識して欲しい.俺との事も考えて欲しいと言う俺の意思表示だ。
昨日美樹さんの話を聞いて、美樹さんを放って他の奴にうつつを抜かす彼氏なんて止めて俺にすれば良いんだ。
急に恋人とか無理かも知れないが、少しずつそうなっていければ良い。
昨日の夜の事が、俺に少しの自信を与えた。
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