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第441話
「ミキ、急で悪かったな」
「……そんな…大丈夫です」
昨日の夜に、伊織さんから電話があって ‘迎えに行くから、食事に行こう。その時に会わせたい人が居るから’ と話された。
拓海君との事も解決出来ず、ここ1週間わざと直行直帰や外出を多くしたり、伊織さんが会議や打ち合わせの時に内勤したりと、顔を合わせない様にしてた、違うな、合わせる顔が無いから…伊織さんの顔を見たら、罪悪感で涙が出てしまいそうになるから。
平日は何とか誤魔化せても、休日はそうはいかないと覚悟を決め、伊織さんの誘いに乗った。
伊織さんが ‘会わせたい人が居る’ と言うのは、あの人の事何だろう、やっとどんな関係か解る。
もし伊織さんの元彼で元鞘(もとさや)に納まったと言われたら、黙って身を引くつもりでいた。
俺に何も言う資格は無いから。
俺からは結論も出さずにいるから……返って良かったかも知れない。
そんな思いを胸に抱いて、伊織さんの車に乗っていた
案内されたのは、隠れ家的フレンチレストランで、個室のドアを開けて、そこに待っていた人は、やはり ‘あの人’ と金髪の男性?だった。
座って仲良さそうに話しをしてた2人がドアの方を見て、直ぐに ‘あの人’ が伊織さんに駆け寄り抱き着いた
「伊織~、昨日振り~」
伊織さんはそれを当然の如く受け入れ頭を撫で
「ん、元気になったか?波瑠」
愛おしそうに微笑んでた。
その光景を目の前で見せられ ‘やっぱり…’ と、現実を見た気がした。
伊織さんが後ろに居た俺を部屋の中に招き入れ
「ミキ、何してる?入って来い。ほら、波瑠。いつまでも抱き着くな」
首に回した手を外して、俺を伴い金髪男性の待つテ-ブル席に座った。
俺と伊織さん、目の前にはあの人とさっきは良く見えなかったけど、外国人特有の堀の深い整った男らしい金髪の男性と向かい合う形で座った。
‘あの人’ は、俺と会った時とは別人の様にニコニコと可愛い笑顔を見せていた。
笑うとこんなに可愛いんだと思っていた時に、自己紹介が始まった。
「ミキ、こっちが俺の弟の成宮波瑠斗だ。今、アメリカの大学に行っている。隣が恋人のアンドレアだ、俺達はアンディって呼んでいる」
「弟?えっ、弟?」
驚いて、心の声が言葉に出てたのは気が付かなかったそのくらい予想外で驚いた。
「ああ、前に話しただろう?年の離れた腹違いの弟がいるって」
あっ、そう言えば1度だけ、家族の話しをしてくれた時に……でも、それ以来弟さんの話しは出なかったからすっかりその存在を忘れていた。
伊織さんと会う事も無かったし、連絡もして無いのはアメリカに居たからだったんだ。
全体的には似てないけど、言われて見れば口元だけは似ている気がすると考えていた。
「波瑠、アンディ。香坂美樹だ。…俺の恋人兼家族だまあ、奥さんだな。俺の大切な人だ、宜しくな」
伊織さんにしては、照れて話すのも珍しい。
「…香坂美樹です。宜しくお願いします」
俺が挨拶すると
「香坂?」
少し考えてハッとした顔をして、マズイと言う顔に変わったのを俺は見逃さなかったけど、伊織さんはアンディに揶揄われて気付いて無い。
俺だけに聞こえる声で「…あの時と全然違う」と一人言を話す。
あっ、そっか~。
初めて会った時は、会社帰りだったから。
「ん、どうした?」
伊織さんに聞かれたけど、マズイって顔をする波瑠斗さんを見て
「ううん、何でも無い。ちょっと驚いただけ」
「波瑠の事言わなかったのは悪かった。波瑠がアンディと離れてピ-ピ-泣いて煩かったからな。ご機嫌取るのも大変だった」
波瑠斗さんを揶揄う様に話す。
「伊織~、ピ-ピ-泣いて無いよぉ~だ。伊織と観光出来て楽しかったから、平気だったもん」
@「ハル、泣く程寂しかったんですね」
@「そんな事無い。伊織が大袈裟に言ってるだけだよ」
2人イチャイチャ始まりニヤニヤして俺は見ていたら、波瑠が「伊織、何?」「イヤ、何でも無い。良かったな、波瑠」と、ニヤニヤして話すと照れてプイっと横を向く。
可愛い~奴だ。
「スイマセン、ヨシキ」
2人の世界に入っていた事を、カタコトの日本語で話すアンディに
@「アンディ、ミキは帰国子女だから、英語はペラペラだから、英語で大丈夫だ」
@「良かった~。日本語は聞く事は、まあまあ出来る様になったのですが、話すとなると難しい」
@「英語で大丈夫ですから」
ミキの英語を聞いてアンディも納得した様だ。
@「あの…アンディさんの仕事は解りました。どうして波瑠斗さんは伊織さんの所に?」
どんな関係か?は、解ったけど、まだ疑問に思ってる事を聞いてみた。
@「私の仕事が当初2週間で終わる予定だったんですが私が早く終わらせて残りの日数でハルと日本を満喫して過ごそうとしたのが悪かったんです。ハルを構う事も出来ずに居たら、ハルが拗ねてイオリの所に行ってしまったんです。でも、イオリの所なら安心なので頼みました。ハルの我儘は、イオリか私ぐらいしか対応出来ませんからね。ま、ハルの我儘も可愛いんですが」
@「…そうだったんですね」
話しを聞いてて、心の中では ‘俺は…何て事しちゃったんだ。伊織さんを信じきれなかった’ ‘ごめんなさい、伊織さん’ と、何度も誤っていた。
食事が運ばれ、美味しそうなフレンチも味がしない様な気がした。
食事を楽しみながら、波瑠斗さんやアンディさんから俺達の馴れ初めを聞かれ、照れながら伊織さんは大まかに話し自分がどれだけ俺を大切に思ってるか、今まで人を愛した事が無かったが初めて愛する人と出会ったと、力説する伊織さんを波瑠斗さんは「信じられない! 伊織じゃ無いみたいだ!」と驚いていた。
俺も恥ずかしくなり、今度は波瑠斗さんとアンディさんの馴れ初めを聞いた。
照れながら2人の馴れ初めを話すアンディさんと嬉しそうに笑う波瑠斗さん。
幸せそうな顔をする波瑠斗さんが羨ましかった。
俺は表面上は、にこやかに雰囲気を壊さない様にしていたけど、心の中では ‘後悔と罪悪感’ そして謝罪でいっぱいだった。
和やかに終わった食事会も波瑠斗さんとアンディさんが温泉に1泊しに行くと言うので、3時間程でお開きになった。
帰り際に波瑠斗さんが近づいて来て、俺の耳元で小さな声で話す。
「意地悪な事言ってごめんね。あの時は、てっきり伊織のスト-カ-か?と思って。本当にごめんね。伊織の事宜しくね」
そうか、スト-カ-と思ったんだ、俺、あの時仕事帰りだったから印象が暗かったのかも…。
一瞬言葉に迷ったけど、波瑠斗さんを安心させる為に「…はい」それだけ返事をするのが、今の俺には精一杯だった。
「水曜日には日本を発つから。もしアメリカ来た時は連絡してね」
そう言って波瑠斗さん達とは、レストランで分かれて伊織さんの車に乗った。
帰りの車は来る時とは違った意味で、俺には重苦しく感じた。
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