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第445話
「ごめんね。待ったかな?」
「いや、それ程待ってませんよ。俺は学生なんで、美樹さんこそ仕事大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ、ありがとう」
拓海君と会うのに、俺が仕事を無理に終わらせたんじゃないか?と心配してくれる拓海君、本当に良い子だと思った。
そんな拓海君を俺は傷付けてしまうかと思うと、心が痛かったけど長引かせて期待を持たせるのも…と、心を鬼にした。
「コ-ヒ-で良いですか?」
「うん」
店員さんを呼んで、俺の分を注文してくれる。
「……拓海君」
「この間の返事ですね。逃げないでくれて嬉しいです」
「……うん。ちゃんと返事するって、約束したから」
そこで俺のコ-ヒ-が運ばれて1度中断になった。
心を落ち着かせる為にコ-ヒ-を一口飲み、意を決して口を開いた。
「……拓海君。俺、この間酔ってて記憶無かったけど…ごめん、言い訳だよね。その事は忘れて欲しい。あと、拓海君とは付き合えない、ごめん。拓海君には、本当に救われて居たし楽しかった」
「……なんとなく返事は予想してたけど…。で、俺との事は忘れて、美樹さんをずっと寂しい想いさせて放って置いた彼氏と素知らぬ振りで、そのまま付き合っていくんですか?2股掛ける様な奴だよ」
拓海君に誤解だった事を説明しないと…と思い、波瑠斗さんが弟だった事.極度のブラコンで俺の事をスト-カ-だと思って嫌がらせをした事.波瑠斗さんにはアメリカの彼氏が居る事.伊織さんがきちんと紹介してくれた事、波瑠斗さんの生い立ちなどは隠して大まかに説明した。
「ふ~ん。で、全部誤解が解けて元鞘に収まるって事?美樹さんが男同士の良さを教えてくれたんだ、忘れる事なんて出来ない!」
「……その事に関しては、本当にごめんなさい。俺、拓海君の事好きだよ。でもね、それって ‘学生の時に、こんな友達いたらな’ とか ‘弟みたいで可愛い’ とか、そう言う意味の好きなんだ。ごめん。伊織さんへの気持ちは…愛してるんだ。それに拓海君には、男同士の恋愛の辛さや日陰の恋愛はして欲しくない、堂々と明るい恋愛して欲しい。俺の身勝手な気持ちだけど」
「……俺はlikeで…彼氏はLove…か。勝ち目は無い…か」
「ごめん」
「俺の事は無かった事にして明るい恋愛を勧めて、彼氏と今まで通りに恋愛するんだ?」
自分でも嫌味っぽいとは思ったが、言わずにいれなかった。
美樹さんの悲しそうな顔をみても。
「……ううん。拓海君を傷付けて、自分だけ知らない振りして幸せになろうと思って無いよ。ずっと伊織さんには言えなかったけど…何も知らない伊織さんと一緒に居るのが心苦しいんだ、俺…もう一緒に居る資格なんてない。伊織さんと別れる。1人になって…自分が仕出かした罪を償う」
俺の気持ち解ってくれただろうか?
「……彼氏と別れるなら、俺と付き合って下さい。今は弟みたいな感じかも知れないけど…俺…必ず良い男になる自信がある。付き合っていく内に、振り向かせる自信もある」
ダメ元で俺の気持ちを話す。
「ありがとう、そこまで言ってくれて。確かに拓海君は良い男になると思うよ。でもね、俺…伊織さんと別れてもずっと愛し続ける……愛する気持ちは、俺の中だけで自由にさせて欲しい」
「……解りましたって、直ぐには言えないけど…美樹さんは、俺の理想の人です。忘れて欲しいって言われても忘れられない……でも……俺、振られたんですね」
「ごめんね」
「暫くは、落ち込むな~」
「ごめんね」
「…美樹さんが彼氏さんの事自分の中で愛してるのは自由だって言うなら、俺も美樹さんの事好きで居るのは自由だよね?好きで居る事も止めろって言う権利は無いよね?」
「……それは……」
「直ぐには忘れられない。暫く時間が欲しい。もし……彼氏と別れたら…美樹さんはフリ-だよね?」
「…………」
「もし……時間が経っても、美樹さんの事忘れられなかったら……美樹さんに……ま、良いや。今、もしもの話しても仕方ないからね。……逃げないで正直に話してくれてありがとう。1度気持ちをリセットする努力はしてみる」
「ごめん。こんな事言うのはどうかと思うけど…拓海君なら直ぐに素敵な彼女出来ると思う。拓海君には幸せになって欲しい」
「……今、それを言われると辛いけど…美樹さんと出会えた事は良かったと思ってる。……先、出るね」
「……うん。ありがとう拓海君」
「……もし…また連絡しても無視したりしない?」
「……今は……解らない。ごめん」
「……美樹さん……好きだ」
俯き加減の俺はその言葉に顔を上げると、拓海君の真剣な顔がそこにあった。
最後にそう言って席を立って、カフェを出て行った。
その後ろ姿に、何度も心の中で ‘ごめんね.ごめんね’ と謝った。
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