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第447話

「はっ?」 ミキから言われた「別れて下さい」と言う言葉を理解するのに、数秒掛かった。 反射的に、リビングを出て行くミキを追いかけ、心の中では ‘何でだ?’ ‘何かあったのか?’ ‘どうして、別れ無ければならない?’ 訳が解らず疑問ばかり頭を過ぎっていた。 靴を履いて玄関ドアを開けようと、ドアノブに手を掛けたミキを間一髪で腕を掴んだ。 「離して下さい!」 「訳が解らずに、一方的に ‘別れる’ と言われても納得しない! どうした?理由を話せ!」 俺の顔を見ずに、ドアノブに手を掛けた状態で、絞り出す様な涙声で話すミキ。 「すみません…俺…俺…浮気しました!……もう伊織さんの顔を見れません!……別れて下さい!」 浮気?浮気って言ったのか? 予想外の返答に、ショックで思わず掴んでいた腕を離した、その隙にミキは玄関を飛び出して行った。 ガチャ…。 閉まったドア音でハッとし、直ぐに玄関を出てエレベ-タ-の辺りを見渡したが、既に姿は無かった。 頭がパニックになり追い掛ける事はせず、そのままリビングに戻りソファに力無くドガッと座り、ミキに言われた事を整理しようとしたが、何かがガラガラ…と崩れ落ちたような目の前が真っ暗になった。 浮気って言ったよな? 信じられず何度もミキが放った ‘浮気’ ‘別れて下さい’と言う文字が頭に浮かんだ。 あのミキが浮気?嘘だろ?何故だ?相手は誰だ?俺の知ってる奴か? 疑問ばかりが頭に浮かぶが、その答えを返す人は居ない。 フラフラとキッチンに行き、冷蔵庫から数本ビ-ルを持ち出し、震える手でプルトップを開け、一気にビ-ルを流し込んだ。 ゴグゴグゴグ…グビッ…ゴクゴグ…… 直ぐに、次のビ-ルを開け余りのショックで現実を受け入れられないとまた飲んだ。 浮気.浮気ってあのミキがか? 信じられ無かった、いや信じたく無かった。 この3週間程で、何があったんだ?俺の知らない間に……どこで?相手は?何故そうなった? 何度も浮かぶ同じ疑問と、知らず知らずに増えていく空の缶ビ-ル。 飲んでも飲んでも酔わない。 「くそぉ! どうして!」 空の缶ビ-ルを壁に叩きつけカンカン……と転がる缶ビ-ル。 「くそ.くそ.くそぉ~」 床を拳で叩き付け、怒りを露わにした。 缶ビ-ルを手に取ると、空でそれにも腹が立ちまた投げ付けた。 冷蔵庫に行き、今度は赤ワインを持ち出しグラスに並々注ぎ半分程一気に飲み干した。 「全然、酔えねぇ~」 返って疑問が次々と浮かび、それを打ち消すように飲んだ。 相手は誰なんだ?どうやって知り合った?そいつを好きになったのか?あのミキの白い肌を触ったのか? 「くそぉ~!」 俺だけが知ってるミキの妖艶な姿を、他の奴も見たのか? 浮気って言ってたな?じゃあ本気では無いのか? あのミキが浮気をするとは信じられなかった、いや信じたく無かった。 ‘俺、浮気するような人とは、付き合えません。信頼出来ませんから’ いつかミキが言った言葉が浮かんだ。 そう言ってたミキが何故? ゴグゴグゴグ……またワインを飲み干す。 ‘もう伊織さん、飲み過ぎですよ’ ミキが居たなら、言いそうな言葉が頭を過ぎる。 ミキ.ミキ.ミキ……ここに居ないミキの名を心で呼ぶ。 ミキが離れていく? ’別れる’と言ってたな? いつだったか?誤解が解け ‘もう二度と別れるとどんな事があっても言わない。ずっと離れない’ と約束していたが、その約束を破ってまでも別れたいのか? そんなにそいつが良いのか? 知らず知らずに、涙が流れた。 グビッゴグゴグゴグ…… ‘伊織さん’ ‘もうエロ親父~’ ‘伊織さん、大好き~’ ‘余り無理しないで’ ‘伊織さん、愛してます’ ミキが俺を呼ぶ声.怒った顔.可愛い顔.心配する顔.照れる顔や言葉が走馬灯のように浮かぶ。 俺のミキ! ミキを失う?これから先、俺の側には居ないのか? 今度は、ミキを失う恐怖が沸き起こり、誤魔化すようにワインを煽る。 何も解らない状態で、ミキの浮気も別れる事も何も考えられない。 今日は酒に溺れよう。 明日にはきちんと考える…今日だけは…今日だけ……。 俺はさっきの出来事を酒で忘れてしまうように、酒を飲み干した。 それ程ショックと何も考えられなかった。 ただミキ…ミキ.ミキ…愛しい人の名を呼び、涙が流れるのも構わず酒を煽った。

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