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第450話
「嫌だなぁ~、会社行きたく無いな。伊織さんの顔見るの辛い」
マコの所から帰って来て、自分の部屋で会社に行く準備をしていた。
何とかマコと話す事で、自分的にはもう別れを受け入れ気持ちを切り替えたつもりだったけど……いざ、会社に行って伊織さんと会うと思うと気が重くなる。
「こんな時、同じ職場だと辛いな。どうしよう」
ギリギリまで悩んで、田口さんのスマホに電話した。
♪♪♪♪~♪♪♪♪~
「おはようございます。朝から、すみません。今日、業者さんの所に直行します。何件か回って、場合によっては直帰するからも知れません」
「xxx xxx……… xxx xxx xxx……… xxx xxx」
「はい。解りました。宜しくお願いします」
「 xxx xxx xxx…… xxx xxx」
「はい、失礼します」
これで、今日は会社に行かなくて済む。
「いつまでも逃げてちゃ行けないのは、解ってるけど……今日だけ」
少し考えて、遠くの業者さんから行く事に決め部屋を出た。
「おはよう」
「「「おはようございます」」」
田口.佐藤.上野さんが揃って挨拶するが、ミキの姿が見当たらない。
「田口、香坂はどうした?遅刻か?」
「いいえ、朝一で連絡きました。直行で業者の所に行き、そのまま何件か回って場合によっては直帰するかもと言ってました」
「……そうか」
やはりミキはまだ気持ちが切り替えられないのか?
俺と会うのが嫌なのか?
気持ちの上では、少し落ち込む。
「田口さん、香坂って最近、外回りとか直行直帰多くないですか?」
「まあな。たが、香坂はお前とは違うからな、きちんと仕事してるだろ」
「え~、俺だってやってますよ。それに出版社の方も自分が行くからって、まあ、助かるけど」
「仕事が楽しい時期とかやる気が出る時って、誰にもあるんだ。お前も楽しないで頑張れよ」
「……頑張ります」
田口と佐藤の話を聞いて、やはりここ最近直行直帰が多かったのは、俺を避ける為だったんじゃないか?と改めて思った、と言う事は、最近ミキの様子がおかしくなった訳じゃないって事か?
波瑠に気を取られて、気付かなかった。
「課長?朝礼します?」
「ああ、特に何も無いが週初めだからな」
「「はい」」
朝礼をしながらも頭では、ずっと外回りで逃げても居られないだろうと考えていた。
話すチャンスは必ずある。
月曜日は直行直帰で、部屋には戻らずビジネスホテルに泊まった。
火曜日は覚悟を決め会社に行き、伊織さんが出社しても顔をなるべく見ない様にしてた。
田口さんと話したり佐藤さんと話したりして、伊織さんと話す隙を与え無かった、伊織さんが俺に話し掛けようとした時にタイミング良く部長から呼ばれ、部長と打ち合わせに入ったのを確認して、午前中は課に戻って来ないと思い、溜まっていた経費精算や事務仕事をして、伊織さんが課に戻って来る前に外出した。
自分でも態度が良くないとは解ってるけど……。
そんな感じで、何とか顔を合わす時間を少なくし、部屋にも帰らずビジネスホテルに泊まる日々を3日程過ごした。
その間も伊織さんから、着信が何度もあったりラインも何通も入っていた。
♪*ミキ、話しがしたいから都合が良い時に連絡してくれ♪*
♪*本気で別れるつもりか?♪*
♪*俺は別れる事に納得して無い♪*
♪*会社ではプライベートな話しはしないから♪*
♪*会いたい♪*
♪*連絡くれ♪*
何通ものラインを既読するだけで、返信は出来なかった。
自分でもこのまま逃げてても、何も解決しないし前に進めないと解っていた。
もう、無理かな。
俺は木曜日に、伊織さんに異動届を出す事にした。
会社を辞めて完全に離れてしまう事は出来なかった。
責めて近くにいて、顔を遠くからでも見たいと言う自分勝手な思いから、退職届けじゃなく異動届にした。
今日に限って、田口さんや佐藤さんが内勤で伊織さんは会議で、なかなかタイミング良く異動届を提出する機会が見つからずにいた。
どうしようかな?明日にしようか?でも、そのままズルズルとしてしまいそう。
これを出したら、もう近くで伊織さんを見る事も話す事も少なくなるんだと思うと、俺の中でも躊躇いが出てるのも本心だった。
そのままズルズル出せずに退社時間になり、伊織さんも会議からまだ戻って来ないし。
パソコン画面を見ながら悩んで居たら、結構な時間になったらしく、肩を叩かれた。
「香坂、まだ終わらないのか?」
「あっ、もうそんな時間ですか?」
「退社時間は過ぎてるが……まだなら俺は先に帰るが?」
「田口さん、俺も帰ります」
「えっと、先に帰って良いですよ。私は切りが良い所で帰りますから」
「んじゃ、お先に。佐藤、帰るか?」
「はい。じゃあな香坂」
「お疲れ様です」
1課は俺だけになったが、まだ他の課には何人か残っていた。
もう、今日は諦めよう。
それから20分程仕事をし、切りの良い所まで終わらせ帰りの準備を始めた時に、伊織さんが戻って来た。
「香坂、1人か?」
何だか、久し振りに声を聞くような気がした。
「…はい」
伊織さんが自席に戻った所で、伊織さんの机の前に立ち、徐に異動届を提出した。
「……何だ?これは…」
まさか、異動届を出してくるとは思わなかった。
それ程、俺と一緒に居るのが嫌なのか?
やはり本気で別れるつもりなんだ。
「……異動届けです」
顔を見れず俯いて話すのが精一杯だ。
決心が鈍る前に、もう早く帰りたい。
「……これは、プライベ-トの事と関係あるのか?」
「………お願いします」
何も言えず、それだけ言って自分の机に置いてあった鞄を取り歩き出した。
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