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第452話

「どうぞ」 「ああ、ありがとう」 ミキの部屋に入り、直ぐにコ-ヒ-を2つ手に持って来てテ-ブルに置き、俺の斜め右に座るミキが他人行儀で寂しく感じた。 まず、落ち着く為にコ-ヒ-を一口飲み、どこから聞こうか考えた。 「ミキ。俺には、どうして別れなければならないのか?解らない。理由は、浮気って言ったが、どうして浮気するような事になったのかも。相手は誰だ?俺の知ってる奴なのか?どうやって知り合った?問い詰めてる訳じゃ無いが、全てが俺には解らない事だらけで、納得出来ない。何を聞いても怒らないから、全て話してくれ。頼む」 伊織さんの縋るような目で言われ、もうこれが最後の話し合いになると思い、マコに話した様に全てを話す決心をした。 「浮気の話をする前に聞いて貰いたい事があります」 そう言って、波瑠斗さんとの出会いから波瑠斗さんに言われた事.見た事.ホテルでの件と、波瑠斗さんに関わる事を全て話した。 「そうだったのか?俺と波瑠が会う前に、既に会ってたのか?波瑠がそんな暴言や嫌がらせをしてたとは知らなかった。前に話した様に、波瑠は情緒不安定な時は、俺を頼る傾向があってそんな時、俺を盗られると思って、ミキに危害を与えない様にと思って黙ってたんだ。時期を見て紹介しようとずっと思っていた。ミキを守るつもりが、ミキを知らない間に傷付けてたんだな。済まん」 ミキが話す波瑠の話を聞いて、空港で波瑠が ‘伊織、ごめんね’ って言った意味が解った。 この事だったんだな。 いつも迷惑掛けても、誤りもしない波瑠が珍しいと思ったんだ。 「波瑠斗さんの事、初めから弟と言ってくれたら良かったのに……俺、波瑠斗さんにどんなに意地悪や嫌がらせされても、伊織さんの弟なら我慢も出来るし仲良くする様に努力したのに……ごめんなさい、伊織さんを責めてる訳じゃないんです。全て俺が悪いのに…」 そうか、祐一が言った意味不明な話しがこれで解った ミキと一緒に波瑠を癒してやれば良かったんだ。 波瑠は俺じゃ無いとダメだと思った事とミキを守ってやると言うのは、俺の傲慢な考えだったんだ。 自分の傲慢さに反省するが、今更だ。 「それに関しては悪かった。波瑠の事は俺が悪い」 「俺が意気地無しで、聞けなかった事も……そんな時に……」 拓海君との出会いから、間違いを犯した日までを全て話した。 ミキの話を聞いて、食欲が無くす程悩ませていたんだと心が痛んだ。 ホテルで抱いた時に、なぜ痩せたのか?もっと聞くべきだった。 良く考えれば、レストランでも肉を細かく切ってただけで、食べてなかったんだ。 なぜ?その時に気付いてやれなかったのか?今になって後悔ばかりする。 「ミキは、その時酔っ払って覚えて無いんだな?」 「……2人で食事がてら飲んだ事までは覚えてます。その後は……断片的にしか…温かい人肌とか……相手は誰かは、その時は解ってたのか?解ってなかったのか?……ただ、俺の部屋に入る人って、伊織さんかマコ位だから……」 「俺と勘違いしたって事か?」 「……解りません」 話を聞いて1つ疑問に感じた事があった。 「……体の方は、何とも無かったのか?相手は男とのセックスは、初体験だったんだろう?傷付いたりしなかったか?」 「……大丈夫です」 「……そうか」 「…………すみません」 項垂れて頭を下げるミキに、何と言葉を掛けるべきか? 「それで……俺と別れて、そいつと付き合うのか?だから、別れようって言うのか?」 そんなに優しくされていたら、浮気だけじゃ無く心まで絆されたかも知れない。 返事を聞くのが怖い。 「そんな事……拓海君に告白されたけど……俺、拓海君の事は…弟みたいな…もし、同じ年代で同級生だったら楽しかったなぁと…そんな風には好きですが、男としては考えられないと、拓海君にも、それは正直に話して断りました。拓海君には救われたのに俺……自分が辛いからって……優しく誘ってくれる拓海君を利用してたんです」 泣きだしてしまうかと思ったが、グっと唇を噛んで堪えているミキを見つめていた。 「……だったら、俺と別れる必要は無いだろう?」 俺が浮気に関して許せば済む事だ。 「そんな訳にはいかないです。拓海君を傷付けて…伊織さんを裏切って……自分だけ幸せに…なんて…伊織さんと別れる事が、自分への罰です。解って下さい」 「………そいつと連絡取れるか?1度だけ話しがしたい」 「……解りません。俺からの連絡は無視されるかも……もう会わないと言いましたから」 いや、たぶんミキの連絡を待ってるだろうと確信はあった。 「連絡してみてくれ。大丈夫だ、殴ったりしない、話しをするだけだ」 「繋がるか解りませんよ」 「それでもいい」 渋々、電話を掛けるミキを黙って見守った。 「なかなか出ない。もういい?……あっ、拓海君?」 相手が出て、俺が会いたい旨を恐縮しながら話し、どうやら時間と場所を聞いてきたようだ。 「伊織さん、会うそうですが……場所と時間は?」 「ん~そうだなぁ。急で悪いが、明日 “R”moneに6時30分でどうだ。祐一に言って開店前に、少しだけ借りるから」 「解りました。伝えます」 それからミキが “R”moneの場所を簡単に説明して、電話を切ったのを確認した。 思ったよりサラ~と決まり直ぐに終わったから、こっちの方が気が抜けた。 俺は1度会って、どうしても確認したい事があった。 その為に、会いたくも無い相手に会うんだ。 それが、俺とミキの為に必ず成ると信じていた。 俺の方も直ぐに祐一に連絡し、明日開店前に場所を借りる事にした。 「後の話は、明日終わってからだ。いいな?」 「……はい」 「何だか疲れたな。……ミキ、今日泊まって良いか?何もしないし、俺はソファで良い」 「そんな、伊織さんをソファって訳には……」 「じゃあ、一緒に寝るか?」 「………それでは、ケジメが……」 「ミキならそう言うと思った。ソファで良いんだ、ミキと一緒の空間に居たいんだ。俺の願いは、叶えてくれないのか?」 「……それなら、俺がソファで寝ますから伊織さんはベットで寝て下さい」 「今の俺には、ミキのベットで寝るのは辛い」 俺がそう話すと、変に誤解したのか?ミキの方が辛そうな顔になった。 ミキの事だ、浮気したベットでは寝られないとそう解釈したんだろう。 「そう言う意味じゃ無い。そりゃあ、全然気にしないと言ったら嘘になるが、俺が辛いって言ったのは、ミキの匂いがするベットで1人で寝るのは辛いって言う事だ。誤解するな! …言い争っても仕方無い、俺がソファで寝るからな。決定事項だ」 「……解りました」 それから、ミキが簡単にチャ-飯を作ってくれ、久し振りのミキの手料理を味わったが、食卓は静かなもんだったが、それは今は仕方無いと思った。 気まずい雰囲気の中、交換で風呂に入り就寝する事にした。 「……狭く無いですか?」 「大丈夫だ」 「……おやすみなさい」 「ん、おやすみ」 寝室に消えて行くミキの後ろ姿を見ていた。 こうして別々に寝る事になったが、近くにミキが居ると思うだけで……それだけで、今は充分だった。 取り敢えずは、明日だな。

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