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第453話
仕事中も今日の事を考えると、気が重く仕事がなかなか捗らなかった。
今日は伊織さんからも、内勤するように言われていたから外出も出来ない。
俺も覚悟を決めなきゃと思いつつ、拓海君と伊織さんそして俺の変な三角形に、どうしたらいいのか頭を悩ましていた。
伊織さんはいつも通りにバリバリと仕事をこなして流石だなと、やはり仕事が出来る人はプライベ-トとは割り切っているんだと改めて思った。
それに対して俺は……集中出来ずにいた。
それでも、時間は一刻.一刻と近づいていた。
「香坂、ちょっと出版社に一緒に行ってくれ」
「はい」
伊織さんに3時過ぎに一緒に外出すると言われ ‘今から?’ と思ったけど従った。
「佐藤、出版社で時間掛かるようなら、そのまま直帰するかも知れん。田口が戻ったら、その旨伝えてくれ。香坂、行くぞ」
「解りました。退社時間までには、田口さんも戻って来るでしょうから伝えて置きます」
「はい、直ぐに出ます」
エレ-べ-タ-で降り会社の駐車場に行き、伊織さんの車に乗り込んだ。
「車で行くんですか?」
「ああ、出版社に寄って要件済ましたら、直ぐに祐一の店に行くからな」
「……はい」
朝と同様に車内は気まずい雰囲気の中、出版社に着いた。
「香坂、ここで待ってろ」
出版社の入口の長椅子で待つ様に言われた。
座って伊織さんの姿を目で追う。
伊織さんは海外向け編集者と和かに挨拶と話し込んでいた。
編集者の女性も嬉しそうな顔をして話している。
伊織さんは男にも女の人にもモテる。
俺と別れたら直ぐにでも……言える立場じゃないのに……自己嫌悪に陥っていた。
「あれ、香坂君?」
担当は違うけど、時々出版社で挨拶する程度には顔馴染みの女性編集者に声を掛けられた。
「あっ、こんにちは」
「どうしたの?こんな所で、担当の人は?」
「今日はうちの課長のお供で来たんです」
「そうなの?珍しいわね、お宅の課長が来社するなんて。うわぁ、いつ見ても男前ね」
苦笑して誤魔化した。
「課長が聞いたら喜びます」
「恥ずかしいから内緒ね。じゃあ」
「解りました。失礼します」
女性編集者が去って、益々伊織さんのモテ振りに自己嫌悪に拍車が掛かった。
直ぐに帰る予定のつもりでいたから、香坂を入口付近で待たせて担当編集者と打合せと頼み事をしていた。
待たせているミキが気になりチラッと見ると、別の編集者と何やら和やかに話していた。
何をニコニコと話してるんだ?
今日の出で立ちは会社用だが、素直な性格の良さでちょっと目を離すと自然と人が集まってくる。
本当に困ったもんだ。
マジで部屋に閉じ込めてしまいたい。
そんな俺の心の内を出さず、編集者の話しを聞いていた。
「香坂、待たせた。帰るぞ」
「はい」
時間を確認すると5時近かった。
出版社の駐車場に向かい歩きながら、後ろから着いてくるミキに話す。
「このまま祐一の所に行くぞ。待ち合わせには、少し早く着くがいいだろう」
「……はい」
また気まずい車内で ‘R’moneに向かった。
近くのコインパーキングに車を置き ‘R’moneの重厚なドアを開ける。
「よっ、祐一。今日は済まない」
開店の準備をしている祐一に挨拶する。
「ああ、気にするな。マコも後から来るって言ってたぞ」
「真琴君にも、心配掛けてるからな」
「マコはミキの事好きだからなぁ」
仕方ないと苦笑する祐一。
「……祐さん、すみません」
ミキも律儀に祐一に挨拶する。
「開店前だし気にするなって。それよりミキ、自分に正直になれよ。ミキも少しは我儘になって、自分の幸せ考えて良いんだぞ?自分が悪いと思い過ぎだ。伊織も悪い! ミキを不安にさせて寂しがり屋だって知ってる癖に、そうさせたのは伊織だ。1人で全てを抱え込むな!」
祐一には珍しく熱くなっていた、それくらい俺達の事を思っていてくれると感じた。
「……すみません」
「ミキと話し合って、腑に落ちない事が全て解った。俺の落ち度だ! ミキは罪の意識で別れるって一点張りだがな。それは後で、ゆっくり話すとして、どうしても相手に確認したい事があってな」
「伊織、冷静にな」
「解ってる! また話は後だ。取り敢えず何か飲み物くれ車で来てるから…そうだな、ウ-ロン茶くれ、ミキもそれで良いか?」
元気無くコクリと頷く。
ミキには酷な場面だが、早く色々と解決したい。
その為には、当事者同士が会うのが一番手っ取り早い
暫く経って
ギイィ…ギィ……
ドアが開いた。
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