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第454話

「あのぉ~、ここ‘R’moneって店ですよね?まだクロ-ズの札が……あっ、美樹さん!」 開店前に入って良いかどうかオドオドした態度が、ミキの姿を見て破顔した。 この男か? 確か、大学生って言ってたよな?大学生にしては大人っぽいか。 背も俺と同じ位か?少し小さい位か? 何かスポーツしてるのか?体も良さそうだ。 ふ~ん、なかなかのイケメンだな。 俗に言う、爽やかイケメン…か。 その男を品定めしてるのに気を取られ、隣のスツ-ルを降りその男の側に駆け寄ろうとするミキの腕を取り損なった。 チッ! 宙に浮いた手を、グッと強く握り締めた。 「拓海君!」 そんな男の名前を呼ぶな! 側に行くな! 心で叫んでいたが平静さを装い、その男に余裕のある所を見せ付けてやるのが精一杯だった。 「……ごめんね。もう会わないつもりだったのに…」 「俺はいつでも美樹さんが呼んでくれれば、どこにでも行きますよ」 「……ごめん」 「そんな顔しないで」 俯いてるミキの頭を当たり前の様に撫でていた その光景を俺は苦虫を噛み潰したような顔で見ていたと思う。 触るな! と、言いたい所を手を握り締め歯を噛み締めて堪えた 冷静になれ.冷静に。 俺の只ならぬ雰囲気を読んで、祐一がミキに声を掛けた。 「ミキ! 取り敢えず、こっちに来て紹介しろよ」 「あっ……はい。拓海君、大丈夫?」 「俺は平気です」 なかなか肝が座っている。 やはりミキに言い寄るだけの事はある、自分に自信があるんだろう。 俺が腹の中でそう思っていると、祐一が俺だけに聞こえる声で「やはりな。ミキの周りには、自信家が寄ってくる」同じ事を思っていたらしい。 ミキの後ろから背筋をピンと伸ばし、堂々と歩いて来る。 ミキが話しずらそうに俺とそいつに紹介した。 「山崎拓海君です、大学生で……。こちらが成宮伊織さんです。カウンター内に居る人が、ここのマスタ-で伊織さんの友人の桐生祐一さんです。無理言って、開店前に場所を借りたんだ」 もう一度、背筋を伸ばし俺と祐一に挨拶する。 「山崎拓海です」 俺もスツ-ルを降り、背筋を伸ばし堂々と挨拶した。 「成宮伊織だ。ミキが世話になったらしいな」 少しの嫌味を込め話すと、ミキは俯きその男は俺の嫌味も気にせず 「ああ、あなたが伊織さんですね。ふ~ん、美樹さん、男前が好きなんだ~。でも……元彼ですよね?」 「はあ! まだ別れてない!」 「えっ、そうなんですか?早く別れて下さい。俺、まだ美樹さんの事忘れられないんで……はっきり言って後釜狙ってるんで」 このヤロー! グッと両手を握り締め堪え、大人の余裕のある所を見せる。 「そこで言い合っても、どうにもならないだろ?取り敢えず、落ち着いて座って話せよ」 良いタイミングで、祐一が声を掛けてきた。 「祐一、2人っきりで話したいから、奥のテーブル使うぞ」 「良いが…頼むから、殴り合いとかは勘弁な」 「大丈夫だ、俺は冷静だ。拓海君、あっちで話そう。ミキはここに居てくれ」 「はい、どこでも構いません」 「……はい……でも…」 ミキが何か言っていたが、俺は奥のテーブルへ歩き出すと拓海君も黙って着いて来た。 テーブル席に向かい合わせで座り、俺からはミキや祐一が見えるが、彼は背中を向ける形になった。 さて、何から切り出そう。 暫くお互い探り合いなのか?無言で相手の出方を見ていた。 俺から見えるミキの姿は、店内の薄暗い中でも心配そうにこっちを見ていた。

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