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第455話
先ずは、大人の余裕を見せるか。
真っ直ぐ目を見つめ、俺から口火を切った。
「先に2つ礼を言う。1つは今日逃げないで来てくれた事と、2つ目はミキが危ない時に助けてくれた事だ。……ありがとう」
俺が礼を話すと驚いた顔をしたが、直ぐに平然とした顔に戻った。
「ふ~ん、余裕だね?浮気相手に、お礼…ねぇ」
「もし君が助けてくれなかったら、ミキが怪我をしたり打ち所が悪かったら……と思うと、俺は後悔しても仕切れない所だった。ミキに何かあったら、俺は廃人と一緒だ」
「大袈裟だなぁ~」
「それ位、大切な人なんだ」
「へえ~、その大切な人を放って置いて、他の人を構ってるなんてね。不安にさせて悲しい想いさせて、どの口が言ってるんだか」
「……それに関しては、俺が悪い」
不敵に笑い、俺に直球で話してきた。
「俺、単刀直入に話すけど、美樹さんと別れて下さいよ。浮気した美樹さんを許せますか?美樹さん、別れるって言ってません?」
「許せる!…それに…確かに別れるとは言ってるが、それは罪の意識からだ。その事に関しては俺達の問題だまあ、俺は絶対に別れないが」
「……自信あるんだ」
「まあな、その位には、ミキと一緒に過ごしてるからな」
「へえ~」
「じゃあ、俺からも単刀直入に聞く。その為に君を呼んだ」
「何ですか?」
「君は過去に男と付き合った事があるのか?男との経験は?」
「はあ?ある訳無いですよ。今まで付き合ってきた人は女の子だけだし。俺は男に興味なんか、今まで1度も無かった。それは美樹さんに会うまではね。初めて美樹さんを見た時、余りに綺麗で男か女か解らなかった男だと解った時はがっかりした位だし。でも、会う機会が増える度に内面の可愛いさに、どんどん惹かれていった。美樹さんだから好きになった」
こいつのミキへの想いも解ったが、それで俺が譲る筈が無い。
「そうか。ミキを1度見ると皆んな惹きつけられる、それ位魅力的だからな。君が好きになるのも仕方無い。それで、男との付き合いも経験も無い君が、ミキとセックスしたとは思え無いんだが…。幾ら勢いでとは言え、最後の挿入まで初めてで出来るとは思えない」
幾ら好きでも、初めて男を相手にセックスするのに躊躇(ためら)わない筈が無い。
少しの希望を胸に、俺は今日会って、どうしても聞きたかった事を聞いた。
そして、どんな些細な事でも見逃さないとジッと目を見た。
目を何度か晒し、若干顔も浮かない顔になった。
「はっきり言ってくれ。ミキは酔っていて殆ど覚えてないって話すが、体は傷付いたり何とも無かったと話していた。初めての男が幾らやり方を知っていたとしても何の用意もせず出来るだろうか?ミキの体に違和感が無いって言うのが、俺には腑に落ちなかった」
俺は一気に考えていた事を話すと、髪を掻き毟り、観念したように話を始めた。
「確かに……最後まではしてません。お互いのモノを扱き合ったのが真相です。美樹さんが酔って覚えて無い事を良いことに、恰(あたか)もセックスした素ぶりをして、俺を意識させようとわざとしました。俺との事も考えて欲しかった。そして、貴方と別れて俺と付き合って欲しかった」
やっと真実を知れた。
「ふう~」
安堵の溜息が自然に出た。
ミキの話しを聞いて、もしや…と少しの可能性があるならと確認したかった。
これで胸に痞えていた事が無くなり、胸を撫で下ろした。
「やはりな。俺の予想が当たった。だが……もし君がミキと付き合えたとしても、いずれ別れていただろうな」
「なぜですか?」
少しキツイ目で俺を見て、腑に落ちないと言う顔を見せた。
「なぜ?男同士のセックス出来ないんじゃあな。確かに、挿入を伴わないカップルも居ると思うが、上手くいってるのは稀だ。ミキは挿れられる行為を知ってるし、君にはそこまでの勇気が無いだろう?女とは出来るが男となったら躊躇(ちゅうちょ)してしまうのが、ミキとの1夜で解っただろう?いずれ女とセックスして浮気して別れるのが目に見えてる。君には、男同士の恋愛は荷が重すぎる!」
「確かに、あの日もそこまでの覚悟が……勇気がありませんでした。でも…美樹さんは俺の理想で一緒に側に居たいと思いました」
「理想は解るが、男同士の恋愛に関しては、現実は辛い方が多い。相当な覚悟がいる。止めとけ。君はそう言う恋愛には向いて無いと思うが」
「……美樹さんにも、同じ事言われました。でも、俺の理想で好きなんです」
「……そうか。好きか?悪いが、俺は愛してる!」
目をしっかり見て、愛してるって言葉を強めに話す。
「……………」
暫くの沈黙の後に話し始めた。
「……俺の負けです……本当は、あの日に解っていたんです。あの時に美樹さん…俺と貴方を間違えていて何度も ‘伊織さん.伊織さん’ って呼んでた……それに…美樹さんの体には、凄え~キスマ-クが付いていて、美樹さんへの執着心と独占欲が解って、少し萎えた位です」
拓海君が苦笑いするのに対して、俺も苦笑した。
「だからって訳じゃないけど……最後まで出来なかったのは、やはり男同士のセックスに踏み込めない自分がいたのも事実で勇気が無かった。精々、お互いのモノを扱き合う事で、既成事実にしようとしたのは、俺の悪足掻きです。……美樹さん、ずっと不安と寂しさに耐えていた。最後の最後まで健気に貴方を信じようとしていた。そんな美樹さんの事を放っておく彼氏がどんな人なのか顔を見に来たのと、美樹さんの事を任せられ無い人なら……俺が……もう1度美樹さんにアタックしようと思って確認しに来た」
「………で、短い間だったが、話して見て俺は合格か?」
不本意って顔に出てるが渋々
「……及第点かな。……美樹さんへの貴方の想いは解った」
「そうか、及第点…か」
「俺は美樹さんの可愛く笑ってる顔が好きです。無理して笑ってる顔や食欲も無くなるような不安な顔をさせた事が減点ですね」
「それに関しては、俺が悪いと反省してる。俺もミキがずっと俺の側で笑ってて欲しいと思ってる」
「1つ聞いて良いですか?美樹さん、俺とも会わないつもりで、貴方とも別れて1人になるって言ってたけど……さっき別れないって言った言葉は本当ですか?どうやって、美樹さんの言葉を撤回させるんですか?」
なかなか撤回しないだろう事は予想できている。
幾ら、挿入までしてないと解っても他の人に体を許した事が、後悔と罪悪感でいっぱいなんだろうからな。
「……俺も考え中だ。案外あれでミキは、頑固な1面も持ってるからな。撤回させるのは至難の技だ。なぜ、そんな事を聞く?」
「……あの人、別れたら色んな人が言い寄ってくるんだろうなって思って……なら、変な奴に盗られる位なら、あんたの方がマシかな?って」
「ありがとう。ミキとは別れないしこれからも離れない……ミキの事は俺に任せろ! 君にも直ぐに彼女が出来る。そうなれば、ミキとの事もその内良い思い出になるだろうから」
「……俺、これでもモテますから」
そうだろうな。
何年か後には、もっと良い男になってると思う。
俺がミキと出会う前に出会っていたら、もしくわ後5~6年早く生まれてミキと同じ世代なら……ミキの側には、俺じゃなくこいつがいたかも知れない。
それ位、認めても良い位には良い男だ。
そろそろ話しも終わりだな。
「俺の方は、もう話す事は無い」
「……俺、美樹さんに謝りたいです」
出来れば話しもさせたく無い所だが……。
「そうか、解った。但し、俺も居るからな」
「……了解」
カウンターの方を見ると、真琴君もいつの間にか来ていた。
ミキ.真琴君.祐一と、心配そうに見つめる3人。
もう話す事は無いと、俺はミキを呼ぶ事にした。
「ミキ! 」
呼んで手招きすると、カウンター席からこちらに俯き加減でトボトボと向かって歩いて来る。
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