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第456話
「……拓海君、大丈夫?」
俺より先に彼に声を掛けたのは、気に入らなかったがミキの性格上仕方ないと考えた。
「大丈夫です。話をしただけですから」
「……そう」
「そんな所に突っ立て無いで、座れよ」
少し迷ったようだが、俺の隣に座った。
ここで俺を選んだ事に、嬉しさが込み上げてくる。
「彼と話をした。俺が確認したい事を聞いた。彼も正直に話してくれた」
「???」
俺の話しを聞いても、何の事か?さっぱり解らないって顔をし、俺と彼を交互に見ていた。
「それで、彼がミキに話しがあるそうだ」
俺から話すんじゃ無く、拓海君自身から話す方が良いと判断した。
ミキに向かって、ガバっと頭を下げ口を開いた。
「美樹さん! すみませんでした!」
「えっ…何の事か?取り敢えず、頭を上げて」
「はい。……実は、俺と美樹さん……あの日…最後までシテ無い」
「えっ…だって…朝、起きた時…2人共裸だったし…」
俺をチラっと見て言い難そうにした。
「構わない、話せ」
「……それに部屋の匂いも…充満してたし……使い捨てたテッシュが丸まってあっちこっち……あったし」
‘あっちこっちあった’ と言う言葉に、眉がピクっと動いてしまった。
思わず拓海君をひと睨みし
‘こいつ1回だけじゃねぇ~のかよ。幾ら、最後までシテねぇ~とは言え’
胸の中で拓海君に毒吐いた。
「……すみません。俺、わざと美樹さんにそう思わせるように仕向けたんです。俺の事を彼氏と間違えて、何度も彼氏の名前を呼ぶし……俺の事を男として意識して欲しかったから……すみませんでした。美樹さんとは…その…お互いのを扱き合っただけです」
ミキの緊張してた顔からホッとした顔になったが、それでも自分の犯した罪を考えたんだろう、また真剣な顔になった。
「……そうだったんだ。ごめん…拓海君。正直、今の話しを聞いて…ホッとしてる……あの日の事、良く覚えて無いけど……人肌で ‘伊織さんだ’ と思ったのは、俺の勘違いじゃ無かったんだ……ごめんね…酷い事言ってるよね…ごめんなさい……全て、俺が悪いのに」
「いや……そう思わせるように、俺がしたんだから謝らないで」
埒が明かないと俺が口を挟んだ。
「これで解っただろう?彼とミキは最後までシテ無いんだ。ミキの話しを聞いて、どうしても腑に落ちないと思ってな」
「……それでも…幾ら、伊織さんと勘違いしたとしても…俺」
「その話しは後だ。俺が疑問に感じてた事が解ったし祐一達も心配してる。そろそろ終わりにしよう」
「……はい」
「君も正直に話してくれて、ありがとう」
「……いいえ」
俺が席を立つと2人も席を立ち、俺を先頭に3人で祐一達が待つカウンターに向かった。
「話しは、済んだのか?」
「ああ」
「ミキ! 大丈夫だった?」
「……マコ……うん」
俺達4人の輪に入れず、少し離れた所に居た拓海君が近寄って来て、ミキの前に佇む。
「美樹さん!」
「……拓海君」
「もう美樹さん、俺と会うつもり無いんだよね?」
「………うん。ごめん」
「やはりそうか……これで最後だから言いますね。俺…美樹さんと出会えて良かった……楽しかったし……美樹さんは俺の理想の人です!……
好きでした!」
堂々と俺達の前で話す拓海君に、祐一も真琴君も驚いていた。
「……ありがとう。俺も拓海君には凄く助けられたし楽しかった。俺も拓海君と出会えて良かったと思ってる。それと……拓海君には可愛い彼女と明るい恋愛して欲しい。ありがとう」
少し涙声で話すミキの素直な気持ちが伝わった。
「本当に、これでお別れです。美樹さん、自分に素直になって下さい。後悔だけは、しないように……」
チラッと俺を見て話す拓海君に俺は ‘ミキの事は任せろ’ と言う意味を込めて頷く。
「それじゃあ、お騒がせしました」
祐一と真琴君にも挨拶し、爽やかに出て行った。
「祐一、ウ-ロン茶くれ」
俺がスツ-ルに座るとミキと真琴君も座り、3人横並びにカウンター席に座った。
「ほら、ミキもな」
ゴクゴクゴク……ゴク…
自分では感じて無かったが、緊張してたのかも知れない、喉が渇いていた。
「で、どうなった?」
「ああ、端的に話すと……」
チラッとミキを見ると俯いていたが、心配掛けてる祐一や真琴君に話さない訳にはいかない。
「ミキと彼とは最後までシテ無かったんだ。ミキの話しを聞いて、どうしても腑に落ちなかったから確認したんだ」
「ええ~、良かったねミキ!」
「…………」
「良かったな、伊織」
祐一と真琴君は ‘良かった’ と言うが、俺は最後までシテ無かった事にやはり嬉しかったが、ミキは複雑らしい。
「これで成宮さんと元通りになれるじゃん。別れる必要無いね」
「……それでも……最後までシテ無いとは言え、伊織さんを裏切る行為はしてる……一緒には居られないよ」
「……ミキ」
「ミキ! その事は、ここを出てから俺の部屋で話し合う」
「……今日はマコの所に泊まります」
俺は ‘逃がさない’ と真琴君に目配せをすると、俺の意図を解ってくれたらしい。
「今日は泊まらせないよ! 今日、全て解った上でちゃんと成宮さんと話し合った方が良い!」
「……マコ」
真琴君に縋るような目をして訴えていたが、真琴君もミキの為と心を鬼にして話す。
「そんな目をしてもダメ! どんな結果になっても話し合った後なら、いつでも話し聞くから」
渋々と言った感じで「……うん」と返事をしていた。
「それにしても、爽やかなイケメンだったな」
それまで黙って成り行きを見守っていた祐一が拓海君の印象を話した。
「祐さんもそう思った?」
「ああ」
2人の話を聞いて、俺は渋顔をしたが話しはまだ続く。
「まだ若いが、礼儀もきちんとしてたしな。自分に自信がありそうな感じだな。どうしてミキに寄って来る男はそう言う奴ばっかりなんだろうな。まあ、あれは女にモテるだろうからな」
「うん.うんモテそうだもん。ミキ、惜しい事したんじゃない?後、何年かしたらもっとイイ男になってたよ、きっと」
「真琴君!!」
冗談で話してるだろうが、俺には冗談じゃ無い、つい声を荒げてしまった。
「こら、マコ! マコも爽やかイケメンが好みなのか?……ん」
珍しく祐一が眉を上げ、真琴君を問い詰めていた。
「違う.違う。そうじゃなくって一般論だよ.一般論! 僕は祐さんだけだから」
「俺もだ」
俺達の事を放って何だかラブラブモ-ドになりつつある2人に呆れた。
「アホらしい、勝手にしてろ! ミキ、帰るぞ!」
席を立ち、逃げないようにミキの腕を掴み立たせると観念したように小さな返事が聞こえた。
「……はい」
「帰るのか?」
「ああ、これからミキとじっくり話し合う。今日は開店前なのに悪かった。また改めて礼をする。じゃあな」
「…祐さん.マコ、ありがとう」
直ぐに、ミキを伴い ‘R’moneを後にした。
コインパ-キングまでの道のり.車中と、お互い無言で気まずいがそれももう少しだ。
‘別れる’ と言い張るミキをどう解きほぐすか?俺はそれを考えていた。
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