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第457話

俺の部屋に入っても、暫くお互い無言だった。 そんな空気感を打破する為に、俺が口火を切った。 「ミキ、コ-ヒ-入れてくれ」 「……はい」 キッチンに行き、コ-ヒ-を2人分入れてテ-ブルに置く 俺の前には青いマグカップ.ミキの前には赤いマグカップが置かれた。 自然と、そのマグカップを使うのが当たり前になってる事が、2人の付き合いの長さを感じた。 こんな些細な事でも、今の俺には嬉しく感じる。 「ありがと」 コ-ヒ-に口をつけ「旨いな」と声が漏れた。 「ミキ、今日で何もかも疑問も誤解も解けたが、それでも別れたいのか?浮気って言っても、最後まではシテ無かったんだ。俺は浮気とは思って無い。男同士のマスタ-ベ-ションか相互オナニ-だ」 「……それでも俺が他の人と…やはり自分が許せません。伊織さんは優しいから…それでは…俺が自分に対して1番辛い罰……それは伊織さんと別れる事です。幾ら、不安だったからって…寂しかったからって……俺は伊織さんの事信じ切れなかった。拓海君を傷付けて…伊織さんを裏切って……俺だけが何もなく、このまま幸せでいるなんて……出来ません」 両手を握り締め俯き、ゆっくりと言葉を選んで話していた。 「……ミキ。自分を責めて自分に罰を与えて、ミキはそれで良いかも知れないが、そのミキの罰は俺と別れるって事が俺にとっても罰になるんだぞ、解ってるのか?俺がこの世で1番怖いのはミキと別れる事だ.離れる事なんだ。ミキには重いかも知れないが……ミキを失ったら、俺は色を失くして生きていくしか無い! いや、死んだも同然だ!」 「……伊織さん」 「今回は俺にも落ち度があった。もっと俺を責めても良い、自分だけを責めるな!」 「……でも」 「こんなに言ってもダメか?」 「………」 俺は最後の掛けに出た。 「ミキ……これだけは、正直に答えてくれ」 「……はい……何?」 ミキの手を取り、漆黒の瞳だが良く見ると青味掛かってる瞳を ‘嘘は許さない’とジッと見つめた。 「今でも…今でも、俺を愛してるか?」 ミキの愛は信じてるが、やはり言葉にするまでは不安があった、だからギュッと手を握った。 「……愛してます……それだけは……嘘をつけない!」 ミキの頬に涙が伝っていた。 「泣き虫だな。それだけで充分だ。俺も愛してる」 ミキの目から、どんどん涙が溢れて頬を伝い落ちた。 俺も涙が出そうになり、それを隠す為とミキが愛おしくなり抱きしめた。 「もし……別れても、俺は何度もミキを口説く!そして必ず俺の者にする! ミキに何度断られてもその度に口説くからな。ミキは俺の側に居る運命なんだ、俺から離れる事を諦めろ! 俺は何があっても離れない! だから別れるって言うな! いいな?」 グスッグスッ…ウック…ウウ… 等々泣き出したミキの背中をゆっくり摩ってやると、ミキも俺の背中に手を回ししがみ付いた。 「ごめんなさい.ごめんなさい。……俺…やっぱり…別れられない…ごめん…伊織さんの側に居たい」 やっと素直になった。 嬉しくって俺の頬に涙が零れたが、ミキをギュッと抱きしめる事で、涙は見せなかった。 ミキの泣き声が止むまで、暫く抱き合っていた。 俺の腕の中に居る、やっと抱きしめられた。 抱きしめる腕に力が入ってしまった。 「今日はここに泊まるよな?」 「……良いんですか?泊まっても」 「もちろんだ! 泊まって欲しい」 「はい!」 この週末は片時も ‘ミキを離さない’ と決めていた。

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