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第476話
「でも、本当に良かったね」
「うん! マコと祐さんのお陰だよ。ありがと」
「ま、こいつがミキと別れる訳は無いとは思ってたけどな」
「当たり前だ! 俺はミキ無しでは生きていけない!」
「お前、言ってて恥ずかしく無いの?」
「はあ?本当の事だろ」
「ったく、聞いてるこっちが恥ずかし-わ。んで、ミキ、こいつに何かされなかったか?」
俺の性格を熟知してる祐一は流石だ。
「えっ、ミキ?何、酷い事されたの?」
心配そうにミキの顔を覗き込んでる真琴君に
「ううん」頬を染め首を振るのが精一杯らしい。
その様子を見て祐一が口を開く。
「どうせ、こいつの事だ。‘ミキが誰の者か体に覚えさせてやる’ とか言って、手酷く抱いたんじゃねぇ~の?」
遠からず正解だ、さすが悪友だ。
「手酷くって、俺はそんなサドじゃない! ちょっと ‘お仕置き’ しただけだっつ-の」
「伊織さん!……俺、料理運びに大将の所に行って来ます」
この会話に耐えられず顔を赤くし、おやじの所に逃げていった、可愛い~奴だ。
それを見てニンマリと厭らしい顔つきで
「へえ~、どんな ‘お仕置き’ 何だか~」
「ふん! お前こそ、あの時帰り際に、真琴君が ‘勿体なかったんじゃ無い。たぶん、良い男になるよ’ 的なこと言ったら、妬いてたじゃねぇ~か?そっちこそ帰ってから、何したんだか~」
「妬いてねぇ~けど、俺以外の男を褒めた事は、きちんと‘お仕置き’した」
今度は、俺がニヤニヤする。
「お前のお仕置きって、ネチネチしつこそうだよなぁ~」
「誰がネチネチだってぇ! な、マコ、ネチネチ何かしてねぇ~よな?」
「……祐さん。…僕もミキの手伝いする~」
真琴君も顔を赤くし、ミキの後を追って逃げて行った
2人が居なくなり言い合いも虚しくなり止めた。
「もう、止めようぜ。アホらしい~」
「だな」
その時、ガラガラガラ~……
「おっ、今日はヨシ君とマコちゃんが居るのか~。良い時に来たなぁ~」
「あっ、杉さん」
「杉さんだ~」
両手に料理を持ち、入口の男に声を掛ける2人を祐一と一緒に見る。
「おっ、お手伝いか?良い子だな」
ミキと真琴君の頭を両手で撫でて親しそうだ。
「お手伝いって程でも無いけど」
「お手伝い.お手伝い~」
「いつもの頼むわ」
「おいよ」
馴れ馴れしい男がおやじに挨拶し、カウンター席に座った。
料理を運び、俺達の席に戻って来たミキにヒソヒソと小声で聞く。
「誰だ?」
「常連さんの杉さんだよ。何回か会って話しするようになりました。面白いですよ~」
「ふ~ん」
チラっとカウンターの端に座る男とおやじが話してるのが見えた。
ミキの言ってる通り常連らしく、おやじとも親しそうだ。
見た目も白髪混じりで、年齢もおやじと変わらないか?少し上ぐらいに感じた。
祐一が聞こえない様に、小声で声を掛けてきた。
「おい、爺さんみたいな年の人にまで嫉妬するなよなぁ~。ったく、どんだけ狭量なんだよ~」
呆れて失笑していた。
もちろん真琴君も ‘ミキ、大変だね’ って、目で見ていた。
「年齢は関係無い! 男は男だ! 俺だけを見てれば良い~んだ!」
「い、伊織さん。恥ずかしい~から。……伊織さんだけしか見て無いから…ね」
可愛く頭を傾げ話す姿にデレデレになる。
「ったく。勝手に家でやってくれっつーの。な、マコ」
「ん~、でも良いんじゃないの」
2人の会話は聞こえたが、ミキだけを見ていた。
どうもあの1件以来、独占欲が強くなった、それにそれを隠す事もしなくなった。
ウザがれ無い程度にしないとな。
そう思っていたが暫くすると、それからも2~3人の常連がミキと真琴君を見つけると、やはり声を掛けて嬉しそうにしていた。
皆んな常連で似たり寄ったりの年齢で、カウンター席で顔見知りなのか?おやじを入れて話してる。
おやじもそうだが、ミキの ‘親父キラ一’ いや、ここでの ‘店のアイドル’ に苦笑する。
本当に、どこ行っても好かれて困る。
だから、目が離せないんだ。
「ねえ.ねえ。今度、4人で1泊で良いから近場に旅行に行かない?」
「うん! 行きたい.行きたい」
おいおい、ミキ~。
2人で話しが盛り上がり場所を検討し始めた。
俺は祐一を見て ‘おい、どうするんだよ’ と目で話すと祐一は ‘諦めろ’ と目で合図してきた。
はあ~、旅行に行くのが嫌なんじゃないが、祐一達と行くとロクな事にならない。
それに、真琴君はミキにべったりになるし。
祐一は何も言わず、真琴君が行きたいならと言うスタンスらしい。
「伊織さん、いつ行きます~」
「祐さんは?」
話を振られ
「俺は休みが日.月.祭日だからな~」
「休み合わないんじゃねぇ~の」
「なら、日曜日と月曜日が祭日なら行けるんじゃない?」
「マコ~、そうしよう。伊織さん、それなら良いでしょ?1泊で箱根とか草津とか、温泉でのんびりしたいね~って話してたんです」
「ん~、直ぐには無理だな。温泉なら寒くなってからの方が良くないか?秋口とか」
「え~、まだまだ先じゃん」
「マコ! 伊織も仕事とかの都合があるんだ、無理言うなよ。秋口で良いだろ?俺が予定立てるから…な」
「……祐さんがそう言うなら。じゃあ絶対! 秋には行こうね」
「解った.解った。マコは聞き分けが良い子だな」
真琴君の頭を撫でる祐一。
上手く手懐けてる。
まだまだ先の話しだ。
真琴君もその内忘れてるかも知れないと微かな希望を持ちつつ、ミキの手前、一応、行くつもりはあると言う風を装う。
「まあ、近くなったら、また打ち合わせしようぜ」
「そうだな」
‘取り敢えずはこの場は流し。また、話しが出たらその時相談しよう’ と俺と祐一は目で会話した。
それからは4人でワイワイ話し楽しい時間だった。
そろそろお開きと言う時に、祐一が俺にだけ聞こえる声で言ってきた。
「良かったな。お前がミキを離す事は無いとは思っていたが……俺もこれで安心した。マコが心配してな。ミキが泣くとマコも悲しむ。今回は何だか色々タイミングも悪かったんだと思うが……これからは、ミキに何でも話せ。ミキは少々の事じゃ負けない芯の強さがある。ま、これからも仲良くしろ」
「ああ、今回は真琴君と祐一には世話になった。ミキに真琴君という親友が居て良かった。俺も今回は反省してる。ミキを傷付けない様にと思うあまり…結果的には不安にさせて……。これからは、言いづらい事も話すとお互い約束した。これまで以上に、ミキを大切にし優先にしていくつもりだ」
「ほんと、ベタ惚れだな」
「ミキ無しじゃ生きていけない位にはな」
「ご馳走さん!」
俺の話しに若干呆れていた様だが、それでも俺達の事を心配してくれてる事は充分解っている。
俺もミキも友達に恵まれた。
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