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第481話
「こんな感じで、大まかに分けてみました。舌で味わい目で楽しむヘルシー食というのがテ-マだとお聞きしましたので。現地の食材を使う事も考えて、こちらの方は使えそうなレシピですね。でも、ここからまた詰めていきますけど」
15分程で使えそうなレシピをピックアップしたのは流石だ。
「ありがとうございます。仕事が早く助かります」
田口や佐藤、香坂も余りの早さに驚いていた。
「すみません。今日は時間が無いので、これ持ち帰って少し詰めてきます。次回は来週の金曜で良かったですか?」
「はい、持ち帰って構いません、逆に助かります。来週の金曜日の15時から会議する予定ですが、先生の都合が良ければ、ぜひアドバイザーでお願いします」
「解りました。また遅れてしまうかも知れませんが、参加するつもりです」
「ありがとうございます。先生、忙しいとは思いますが、宜しくお願いします」
俺が話すと皆んなも頭を下げた。
「そんな畏まらないで下さい。それと、先生は止めてください。教室の生徒さんじゃないんですから。池谷と名字で呼んで下さい」
「解りました。池谷さん」
「それじゃ、すみません時間がなくって。次回はもう少し時間あると思うので。今日は挨拶だけで失礼します」
「「「ありがとうございます」」」
「ちょっとエレベーターまで送ってくる。皆んなは、そのまま打ち合わせしててくれ」
「「「はい」」」
俺は池谷さんと一緒に会議室を出て、エレベーターまで歩きながら話をした。
「こんな事、引き受けてくれて助かりました」
「新しい事をしたいと思ってたんで。それにしても皆さん礼儀正しく良い部下をお持ちですね」
「本当に、良くやってくれます」
「上司が良いと部下も育ちますからね。あっ、ここで」
丁度、エレベーターが来たので、池谷さんは乗り込んだ。
「お時間無いのに、ありがとうございます。また次回、宜しくお願いします」
「こちらこそ。じゃあ、失礼します」
エレベーターが下りていくのを見届け会議室に戻り部屋に入ると、3人は雑談をしていた。
「あっ、課長。池谷さんは帰りました?」
「ああ」
「てっきり、女性の料理研究家の人が来ると思って期待してたのに残念。料理出来る女の人って良いよなぁ~」
「佐藤は直ぐにそれだ。今、男の料理研究家も多いし大体厨房は男の料理人の方が多いんだ。良かったよ、男の料理研究家で、佐藤が仕事そっちのけでナンパしそうだ」
「それは酷いっす、田口さん。俺だって仕事中は誘いませんよ。仕事終わった後にします」
「結局、誘うんかい!」
田口と佐藤の漫才見たいな言い合いが始まった。
そこに珍しくミキが口を挟んだ。
「佐藤さん。池谷さんって、今、凄い人気の料理研究家なんですよ! 料理番組のテレビにも出てるし料理本も売れてるし、それに料理教室は予約が取れない程殺到してるんですから。OLさんや奥様方に大人気の料理研究家ですよ!」
ミキがこんなに力説するのも珍しいと、俺達は唖然とした。
「香坂、良く知ってるなぁ。でも、あの優しそうなルックスなら、OLや奥様方に人気なのも解るな」
「田口さん! ルックスもそうかも知れませんけど、やっぱり実力がなきゃ教室に殺到しませんよ。あ~、一緒に仕事出来るなんて嬉しい~です」
「香坂って料理に興味あるんだ?それとも先生のファンか?」
「興味って言うか作るのは楽しいです。自己流だけどファンとかそう言う感じでは無いですけど……その時々で違う料理を作って見せるんです。斬新な料理から昔ながらの料理や手頃な料理まで。若いのに凄いなぁ~って」
「へえ~、若いっていくつだよ?」
「確か~……30前?」
「はあ~、30前で若いのかよ~。香坂が若いって言うから20代前半かと思った。でも、あの落ち着きって言うか紳士的な感じはそうかもな」
「料理界では30才位は若い方ですよ。皆さん修行やらで1人前になるのに、結構掛かってますからね」
「ふ~ん。ま、香坂が料理人として憧れるのも解るけどな」
「そうすっね。俺も女なら料理出来て優しそうなルックスだし、ちょっと良いかもって思うかも~」
「佐藤が女でも、あっちは相手しないだろうけど」
「酷いっす!」
泣き真似をする佐藤を2人は笑っていた。
そうか、料理好きなミキの事だ、料理人として憧れてるだけかと考え過ぎの自分に苦笑した。
それまで黙って聞いていた俺だが、雑談の中でミキの真意を聞き仕事モ-ドに切り替えた。
「ほら、そろそろ仕事に戻れ。雑談は終わりだ」
「はい。すみません」
「はい」
「すみません」
それから池谷さん抜きで、出来る範囲の打ち合わせをした。
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