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第483話

「ちょっと、上野さんの所に行って連絡事項無いか?聞いて来る。佐藤、皆んなの分自販機でコーヒー買って来てくれ」 「え~、解りました。けど、お金は?」 「それぐらい、お前出しておけよ」 「へ~い」 「俺が行きますよ」 「香坂はいいから。たまには、佐藤にやらせろ」 「すみません、佐藤さん」 「良いって、今回余りやる事ねえ~し」 会議室を出て直ぐにそんな遣り取りがあって、田口さんは課へ.佐藤さんは自販機へ。 俺は……する事無いから、トイレに行こうかなぁ。 トイレで手を洗ってると、誰かが入って来た。 あっ、池谷さん。 用を足すのかと思ってると、ドア付近から手を洗ってる俺を見てるのが鏡越しに見えた。 何してるのかなぁ~。 もしかして、さっき何か失礼な事言っちゃたのかも~。 何と無く気まずい雰囲気の中、池谷さんが近づいて来た。 ス-ツのポケットからハンカチを取り出して拭いていると、行き成り俺の眼鏡を取り外して前髪を手で上げられた。 手をハンカチで拭いてたから、咄嗟に避ける事が出来なかった。 「な.何ですか?眼鏡返して下さい!」 「ふ~ん。やはりね。ねえ、何で眼鏡してるの?吸い込まれそうな綺麗な目してるのに、勿体無い。前髪も邪魔だよ」 そう言って眼鏡を返して、前髪からも手を外した。 眼鏡を掛けて前髪を整えながら、少し強めに声が出た 「これで良いんです!」 「そうなの?勿体無いねぇ~。そう.そう、課長の成宮さん?カッコいいね。仕事は出来るし、見た目も良いし。彼、モテるでしょ?」 何で、ここで伊織さんの話しが出るのか? 訳が解らない。 「ええ、課長はモテますよ」 「だよねぇ~。すっごくイイ線いってる」 伊織さんに興味あるの?この話し振りだと個人的にって感じがする。 「あの…それって…」 どう聞こうか?探りながら話すと、池谷さんの方から爆弾発言が飛び出た。 「仕事とは関係無く、個人的にちょっと興味あるかなって。僕、どっちもイケルから」 俺と同類? 「えっと…どっちもって」 「男も女もって事。別に隠して無いけど、自分から広めてもいないけどね」 なら、どうして俺に話すんだろう? 「そう…何ですか。セクシュアリティな事は、個人の自由だと思ってますから」 「そう」 簡単な返事をして、ドアから出て行った。 トイレにも入らず、何をしに来たのか? 何で、俺にあんな事話すのか? 池谷さんの行動が不可解だった。 池谷さんが出て行ったドアを見つめ「伊織さんに興味持ったのか?」凄く嫌な気持ちになった。 池谷さんの事、テレビや雑誌で知って好印象だっただけに、そんな池谷さんに不信感が生まれた。 嫌だなぁ~気分も沈み始めた。 そんな気持ちで会議室に戻った。 「香坂。今日、池谷さんとの懇親会開くからな」 田口さんに言われ俺が戻った時には、ほぼ決定事項だった。 池谷さんとの懇親会か。 何だか、気分が上がらない。 俺の気分とは別に、その後の会議もどんどん進んだ。 「じゃあ、今日の会議でレシピは春夏と秋冬の2バ-ジョンとする。基本のレシピを決め、後は臨機応変に現場で判断すると言う事で。2週間後に池谷さんのクッキングスタジオで実際に作る過程を撮影する。池谷さんのアシスタントさんも何人かいるが、香坂もアシスタントに入れ」 「はい」 「田口はそれまでに業者に言って、何種かの器を持って来てくれ。実際に器に盛り付けて色と形を考えよう。佐藤は当日撮影してくれ。次回は2週間後の金曜、池谷さんのクッキングスタジオで13時からとする。忘れないように」 「「「はい」」」 「池谷さん、スタジオまで借りてすみません。食材など会社の経費で落としますから、請求書回して下さい」 「教室との繋がりで、食材も比較的安く手に入り易いですから。それでも請求書はしっかり回しますね」 「お願いします」 笑顔で話す伊織さんと池谷さんの姿を見て、また気分がどんどん沈んだ。

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