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第487話
ガラガラ…ガラ~
「おやじ、来たぞ」
「おっ、お前も来たのか?」
店に入って開口一番に言われた。
「お前も?」
不思議に思って店の中を見ると、カウンターには真琴君と沙織が座っていた。
カシャッ.カシャッ…
ニコニコ笑い合い、カウンターの中のミキの姿を2人で写メを撮っていた。
どこぞのアイドルの撮影会かよ~と内心思った。
「真琴君と沙織も来てたのか?」
夢中になって写メを撮り、それを見て何やら話し込んでる2人に声を掛けた。
「あっ、成宮さんも来たの」
「伊織も来たのか~」
「俺が来ちゃいけねぇ~のかよ。それより、何で2人も居るんだ?」
「ミキから火曜と金曜に大将の所で料理習うって聞いて」
「私はマコちゃんから聞いて」
すげぇ~ネットワ-クだ。
俺も沙織の隣に座って、カウンターの中のミキを見た
何やら一生懸命作っていた。
眼鏡を外し赤のバンダナを被り綺麗な顔が露わになり仕事帰りという事もありス-ツの上着を脱ぎYシャツの袖を捲り、オレンジのエプロンを着けていた。
「可愛い~な」
つい思った事が声に出ていたらしい。
沙織が直ぐに「でしょ.でしょ。もう可愛い過ぎて、マコちゃんと写メ撮りまくり~。見る?見る?」
自慢する様に写メを見せてきた。
恥ずかしそうにする姿.真剣な横顔.笑った顔.眉を寄せ難しい顔と様々だ。
どんだけ撮ったんだ。
「成宮さん、僕のも見てよ」
沙織の次は真琴君かぁ~。
真琴君の写メも凄い数撮っていた。
「伊織さん。お疲れ様です」
俺の前に、おしぼりと箸とお通しを置く。
「どうだ?」
「はい。まだ1時間も経ってませんけど、本格的な出汁の取り方とか教えて貰いました。今は大将の指示に従って動いてます」
「そうか」
「なかなかヨシ君は見込みがあるぞ。野菜を切らせても手際が良い。どれ、伊織に出汁巻き玉子でも作ってやりなさい」
「はい。さっき教えて貰った所なんです。上手く出来ると良いけど」
「何、ヨシ君なら大丈夫だ。火加減だけ気を付けてな卵料理は簡単そうで難しいからなぁ」
「はい」
カウンターの奥に行き作業を始めた。
「ミキ~、僕にも作って」
「私にもお願い」
「うん。練習になるから助かるよ」
真琴君と沙織に声を掛け、また作業に戻った。
俺は沙織に小声で「さっきのミキの写メ、後でLineで送ってくれ」頼むと「良いわよ」って言ってニタ~と笑った。
頼む相手間違えたか?
ガラガラ…
「おっ、今日は賑やかだな?」
常連さんが入って来たらしく、真琴君と沙織はニコニコしていた。
「おっ、ヨシ君。お手伝いか?」
「お手伝いって程じゃないんですけど、仕事絡みで教えて貰ってます」
「おやじさん、良かったな」
「ヨシ君は手際が良いからのぉ。助かっとる」
常連さんに羨ましがられ、おやじも嬉しそうだ。
時間的な事もあるんだろうが、次々に常連さんが入って来ては、ミキやおやじ.顔馴染みの人は真琴君と沙織にも声を掛けてた。
小さな店は平日にも関わらず満席に近かった。
「おやじ、繁盛してんなぁ」
「今日は珍しくな。これもヨシ君のお陰じゃな」
「そんな事無いですよ。大将の料理美味しいからです」
「嬉しい事言ってくれる。本当にヨシ君は良い子じゃ」
目を細めて可愛いくって仕方無いって皺の多い顔で笑っていた。
すっかりミキを自分の孫みたいに思ってるんだろうな
ミキもおやじに甘えてるのが解る。
俺の事とは違った意味で、家族の様に思ってるんだろうな。
爺爺殺し~め。
出汁巻き卵の盛付けをおやじに教わり、微笑んでる姿が見えた。
そんな2人のカウンター内での遣り取りを俺も微笑ましく見ていた。
「はい、伊織さん。出汁巻き卵です、大将に教わったから大丈夫だと思いますけど」
目の前に置かれた出汁巻き卵は、綺麗な黄色で厚みもあり見るからにふわふわしてる。
「綺麗に出来てる」
「食べてから言って下さい。大将に全部並べるだけじゃなく1つだけ断面を上にして盛付けた方が断面の綺麗さが解って良いって教えて貰いました。後、大根おろしも添えた方が良いって。やっぽり家庭で作るのとお店で出すのとは同じ物でも、一手間掛ける事が大切なんですね。実際に作って勉強になりました」
ミキの話しを聞きながら1口頬張ると、口一杯にふわふわの卵と出汁の味が広がった。
「ん~旨い。出汁とふわふわとして旨い」
「え~良いなぁ~、ミキ、僕達には?」
「ごめん.ごめん。直ぐに出すから」
真琴君と沙織の前にも出汁巻き卵が置かれた。
「わぁ~、綺麗には出来てる」「美味しそう」
口に入れ「うわぁ~、ふわふわ~」「美味しいわ。ヨシ君の料理食べられるなんて幸せ~」
本当に旨そうに食べていた。
ミキも照れながらも嬉しそうに笑っていた。
俺達がミキの出汁巻き卵を褒めてるのを聞いて、常連さんから「ヨシ君、わしにも作ってくれ」と声が掛かった。
おやじの顔を見て許可を貰うミキにおやじも嬉しそうに「ヨシ君、頼むね」と言っていた。
それからミキは出汁巻き卵を3つも注文を受けていた。
ミキのここでの人気が解った。
そこにガラガラ…ガラガラ…
誰かが店に入って来た様だ。
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