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第489話

「おい、香坂。池谷さんから電話」 田口に言われ、直ぐに電話に出たミキを何気なさを装い伺っていた。 池谷?なぜミキに電話?まだプロジェクトで会うには2週間後のはず。 池谷からの電話を怪しんだ。 「少々、お待ち下さい」 電話を保留にし、俺の席の前に立ち。 「あの課長。池谷さんが明日の夜に、日本料理の良いお店があるから一緒に行かないか?って誘われたんですけど…。今回のプロジェクトにも勉強になるからって。池谷さんのお知り合いのお店らしいです」 何だか申し訳無さそうに、俺にお伺いを立て話す。 勉強になると言われたら、純粋にミキも行きたいのだろう。 俺が思案してると、佐藤が話しを聞いてたらしく 「良いなぁ~。懐石料理か割烹料理屋かなぁ~。勉強になるなら俺が行きたいくらいだよ。これって、経費で落とせるんですかね?接待?どうですか?田口さん」 「バカか~。一応、勉強になるって誘われても個人的だろ?こっちで誘ってる訳じゃないから、接待でも無いし経費で何か落とせないっつ-の。ま、今回、香坂がレシピやらアシスタントするからなぁ。勉強にはなるんじゃねぇの。お前には無理!」 「酷~いっす。田口さ~ん」 周りの状況から見ても、断る理由が見当たらない。 会社用の顔で仕方無く許可を出す。 「解った。プロジェクトの役に立つなら行ってこい。但し、田口も言った様に、こちらからの接待と言うわけじゃないから経費は落ちないが」 責めて、経費が落ちない事を言うしか無かった。 「解りました」 直ぐに自席に戻り、保留にしてる電話に出た。 「すみませんでした。大丈夫です。ええ、はい。それじゃあ、明日の7時に新宿で。はい、解りました。ありがとうございます」 電話を切ると直ぐに佐藤が話し掛けた。 「良いなぁ~。俺も行きてぇ~よ」 「えっ、じゃあ一緒に行きませんか?」 「やだよぉ。香坂が誘われてんのに、俺が着いてってもしょうがねぇ~じゃん。それに経費で落ちないんじゃ~な」 「お前のは食意地張ってるだけだろ?香坂はプロジェクトの参考にする為なんだから。池谷さんも、その為に誘ったんだからな」 「解ってますよ。言ってみただけです」 「おい、その辺で仕事に掛かれよ」 「「すみません」」 取り敢えず、皆んな仕事に戻った。 俺もパソコンを操作しながら考えてた。 池谷の奴、やはりミキ狙いか? 本当に、仕事としてなのか? 俺にはミキと会う為の口実にしか思えない。 本当は行かせたく無いが、仕事絡みを持ち出されたり会社に電話してこられたら、皆の手前断る口実が見付からない。 そこを解って.計算して行動してるのかも知れない。 俺は池谷がミキを狙ってると確信を持った。 今夜にでも、ミキに電話してさり気なく警戒する様に話してみようと決めた。 仕事絡みの相手が1番対処に困ると考えながら仕事に取り掛かった。 部屋に帰り、買ってきた夕飯を味気なく思いながら食べ風呂にも入り、ミキに電話を掛けた。 ♪♪♪♪~♪♪♪♪~ 「はい」 「ミキ、お疲れさん。今、何してた?」 「えっと、料理本を見てました」 「そうか、飯と風呂は?」 「ご飯も食べましたし、お風呂も入りましたよ」 クスクスクス…… 「何か、可笑しいのか?」 「だってぇ~、お父さん見たいなんだもん」 「誰が親父なんだっつ-の。でも、家族なら当然だろ?」 「ありがとう伊織さん。大好きです」 この言葉だけで俺は心が休まる。 「俺もだ。なあ、ミキ、明日の池谷さんとの食事なんだが…食事だけで帰って来いよ。その後、誘われても行くなよ」 「はい。そのつもりです」 「……その、ん、束縛みたいで嫌か?…ミキを信用して無いとかじゃなく、心配なだけだ」 ふふふ…ふふ… 「何が可笑しい?」 「伊織さんからの束縛は大歓迎です。愛されてる感じがします」 「そうか! それを聞いてホッとした。束縛ついでに悪いが、明日、池谷さんとの会食終わったら俺の部屋に来ないか?話も聞きたいし泊まって欲しい」 「俺は嬉しいですけど、まだ平日で迷惑じゃ無いですか?」 束縛に続いて部屋に来いなんて鬱陶しいと嫌がるかと不安だったが、素直な性格のミキにはそんな風にはとらなかった様だ。 本当に嬉しそうな声に安心した。 「じゃあ、部屋で待ってるな。それと仕事絡みだとしても一応気を付けろよ」 「はい。お酒は飲まない様にします」 そう言う意味じゃ無いんだが……天然には解らないか? ま、取り敢えず言うべき事は言ったから大丈夫だろう 「じゃあ、明日な」 「おやすみなさい」 「ん、おやすみ。愛してる」 「俺も愛してます」 ミキの愛してるって言葉を聞いて電話を切った。 明日、ミキから話しを聞いてみてからだな。 あからさまなアプローチをしてきてるわけでも無いし、取り敢えずは様子を見る事にした。

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