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第498話

そんな事があった翌日に仕事を終え、おやじの店にやって来た。 ガラガラガラ…ガラガラ 「おやじ、また来たぞ」 「本当にいつもは来ん奴が。最近は頻繁じゃのう」 おやじの嫌味か.弄りかは解らんが無視だ.無視。 「成宮さん、お疲れ様~」 「伊織、やっぱり来たのね~」 「成宮さん、お久し振りです」 いつものメンバーに、今日は矢島君もか~。 「お疲れさん。矢島君、久し振り。沙織に連れて来られたのか?大変だなぁ~。あれ、優希さんは?」 「優希さんは仕事でどうしても来られないって残念がってたわ。でも、今日でヨシ君が最後のお手伝いだからって、大ちゃんが来たいって言ったのよ~。ね、大ちゃん♪」 「そうです。前回も前々回も仕事で来れなかったので」 「そうか、ま、ミキは見世物じゃないんだが」 「すみません。そんなつもりじゃなかったんですけど…。沙織さんが楽しかった.楽しかったって言うんで」 「ま、良いか~。久し振りだし飲もう。ミキ、ビ-ルとお勧め出してくれ」 「お疲れ様です。今日は唐揚げと筑前煮がお勧めですあと、生鮭のバターポン酢焼きと大根の梅肉和えもどうです?」 「ミキのお勧め全部くれ」 「は~い♪」 生ジョッキと筑前煮と大根の梅肉和えが置かれ、隣の矢島君と改めて乾杯した。 「ヨシ君が居ると店も明るくなるし、常連さんもいつもより注文してくれる。このまま居て欲しいくらいじゃ」 「おやじ、それはダメだ! おやじの店って事で今回は許してるが、余り人前に出したく無い!」 「やだ.やだ。独占欲の固まり丸出しね」 沙織の嫌味なんて無視.無視。 「でも、成宮さんの気持ちも解ります。ミキって魅力的だから、その上性格も良いし」 その通りだ、流石、真琴君だ。 「解ります。あの家庭的な雰囲気なら尚更ですよね」 おい.おい矢島君。君は男に興味無い筈だよなぁ~、その君が言うならやはり他の奴らもそう思ってるって事だろうな。 「や~だ。大ちゃんまでヨシ君の魅力に惑わされないでね~」 「俺は一般的な話しをしたまでです。俺は沙織さん一筋ですから」 アホらしい~。 人のイチャイチャを見るほどアホらしい~事は無い。 冷めた目で2人を一瞥し、奥の狭い厨房でおやじに教わりながら作ってるミキの姿を眺めていた。 ちょこまかおやじの指示に従い動き、時折おやじに微笑み何やら話している。 おい、距離が近いっつ-の。 あ~、おやじも嬉しそうな顔しやがって~。 黙って見つめていると俺の視線に気が付いたのか?ミキがフっと俺を見て笑顔を見せた。 俺を常に意識して気に掛けてるのが解る。 可愛い~。 何て、可愛い~生き物なんだ。 早く2人っきりなりてぇ~。 「はい、伊織さん。この唐揚げね、すっごく生姜が効いて美味しい~から。こっちの生鮭はバター使ってるけど、ポン酢でさっぱり食べられるから、食べて.食べて♪」 「おっ、旨そう♪」 唐揚げを1つ頬張ると口の中で生姜の味わいと肉汁が広がった。 「ん、旨い.旨い」 「でしょ.でしょ。大将に隠し味教えて貰ったから、今度、家でも作るね」 「ん、頼むな」 俺の言葉を聞いて嬉しそうにし、また作業に戻った。 ‘今度、家でも作るね’って言った言葉が心に響き、本当に夫婦みたいだと思った。 顔に出てたかもしれないが頬が緩んでしまったのは、自分でも解った。 「何か良いですね。成宮さんが入って来てから、ヨシ君、ずっとチラチラ見てましたよ。それに、今の遣り取り申し訳無いですけど聞こえて、成宮さんとヨシ君の雰囲気が凄く良いなぁ~って。お互い、想い合ってるのが伝わってくる」 隣で飲んでた矢島君が俺に語ってきた。 そうか、周りから見てもそう見えるんだな。 あの1件以来、俺は独占欲を隠さなくなったし、ミキも我慢せず前より言いたい事を話す様になった。 雨降って地固まるって事か? 「そう見えるなら嬉しい。俺は付き合いが長くなれば成る程、ミキへの愛しさが募っていく。ま、独占欲も募るがな。ミキを知れば知る程、誰にも渡したく無い。見た目の美しさもそうだが内面も綺麗なんだ。ミキの魅力は人を引き寄せて離さない。困ったもんだよ」 言ってる事は正直な気持ちだが、惚気に聞こえるかも知れ無いが、矢島君は沙織と違って揶揄ったりせず素直に受け止めた様だ。 「解ります。男なのに不思議な魅力があります。綺麗な外見で近寄り難い様な雰囲気なのに、話すと素直で天然な所も可愛い~ですよね?やっぱ、ギャップ萌えですかね?沙織さんなんかヨシ君にメロメロですよ。俺が妬いちゃうくらい」 話の内容に矢島君も牽制対象か?と一瞬考えたが……良かった~、どうもそうじゃないらしい。 「本当に困ったもんだよ。ミキの俺への気持ちは揺るぎないと思ってるが……ミキの魅力に引き寄せられる奴を牽制しまくり、ミキの解らん所で蹴散らしてるんだが……蹴散らしても蹴散らしてもワンサカ吸い寄せられてくる」 愚痴になっちまったか。 「解りますよ。俺には言わないですが、沙織さんも相手にはしませんが口説いてくる輩は多いですからね。俺も早く沙織さんに相応しい男になりたいです」 「そうか、お互い大変だよな~」 「本当ですよ。本人は ‘大ちゃん、一筋だから大丈夫よ~♪’ 何て言ってますけど…。世の中には、俺より良い男はたくさん居ますから」 「沙織は大丈夫だろ?矢島君の頑張ってる姿を良く理解してるし、あいつの我儘を窘められるのは矢島君だけだと思う。振り回されて大変だと思ってるが」 「そうですか?沙織さんは理不尽に我儘言ったり振り回す事はしませんから。それに俺だけに甘えてくるのも可愛い~です♪」 「沙織がねぇ~。ヤバッ、鳥肌立った~」 「それは酷いっすよ~」 はははは…… 酒を交わしながら、矢島君と語り最後には惚気られ笑った。 色々なカップルが居て、それぞれに大小さまざまな悩みがあるもんだと思った。 それから沙織や真琴君も加わり、話が弾み何種類かのつまみと一緒に酒を飲み笑い.揶揄ったり.怒ったりと、働いてるミキには悪いが楽しく過ごした。 いつもの常連さん達も少し話したりと、店の中は賑やかだ。 おやじも楽しそうだ。 「ヨシ君。もう良いから、上がりなさい」 「でも……」 「時間も時間じゃ。ほれ、待ちきれんと顔に書いてる奴もおる。隣で食べて帰りなさい」 俺の顔をチラッと見て、おやじはミキに話した。 「はい。それじゃ上がります」 今日でおやじの店の手伝いは終わりだ。 何となくおやじは寂しそうだ。 荷物を持って俺の隣に座り、おやじが用意した料理をパクパク食べ始めた。 「ん~、美味しい~♪」 「慌てて食べるなよ」 「は~い♪」 美味しそうに食べるミキを俺は暫く見つめていたが、見てたのは俺だけじゃなかった。 おやじも目を細めて嬉しそうに見ていた。 「ヨシ君は美味しそうに食べるなぁ~。今日でヨシ君のお手伝いも終わりか~、寂しくなるのう」 「また、ご飯食べに来ますから」 「待っとるぞ」 「は~い」 本当の祖父と孫みたいだ。 ミキが飯を食べ終わったのを見計らい、待ってましたとばかりに沙織と真琴君が話し始め、また賑やかに過ごした。 明日も仕事があると遅くならないうちに引き上げる事にした。 帰る際におやじが「これ持って行きなさい」と煮物と唐揚げを持たされた。 2人分入ってる食料を見て 「明日の朝食用だな」 今日も泊まれと案に話す。 「そうします」 これで今日の泊まりは決定した。 今日もミキをこの腕の中に抱いて寝れる。

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