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第501話

「凄え~人だな。逸れるなよ」 土曜日の夜にミキを誘い、前から計画していた花火大会に来ていた。 大きな花火大会で、それなりに人混みは覚悟していたが、これ程とは思わなかった。 人混みが嫌いな俺だがミキの喜ぶ顔が見たいと、パソコン検索し内緒で計画を立てていた。 昨日の夜に話したら、大喜びで俺に抱き着き子供の様にはしゃぐミキを見て、計画を立てた甲斐があったとは思ったが……まだ花火開催前で、この混雑振りに内心うんざりしていた。 まだまだ人は増えるだろう事は予想がつく。 そんな事を人混みを歩いて考え、俺の問いに返事が返ってこない。 後ろから着いて来てるとばかり思っていた俺は振り向くと、ミキの姿が見当たらない。 言った早々逸れたか? 「ミキ…ミキ」 声を出し呼び周りを見渡すと、少し離れた所で高校生らしき浴衣を着た女の子数人に囲まれていた。 またか? 人混みを抜い近寄り声を掛けた。 「おい、逸れるなって言っただろ?悪いが連れなんで返して貰えるかな?」 ミキに苦言を女の子達には優しく話す。 「すみません」 恐縮するミキを気にせず、女の子達は勝手に話し出す 「わぁ~、こっちの人も大人でカッコいい~」 「2人共モデルか何かですか?」 「写真、良いですか?」 ミキをモデルと勘違いして声を掛けたらしい。 まあ、気持ちは解るが……キャピキャピと煩い女の子達から早く離れようと 「いや、一般人だ。悪いが急いでるんで」 ミキの腕を引っ張り、その場をそそくさと去る。 ミキの腕を離さず人混みを歩いて小言が出た。 「ったく、どうして離れるんだ?この人混なら逸れるのが解らないのか?ん…」 「すみません。伊織さんを見失ってキョロキョロしてたら、声掛けられて」 人混みから少しでも抜け出す為にズンズン歩いて行く 「なら、電話すれば良いだろ?女の子に囲まれて…ったく、軽く断れば良いだろう」 「すみません.すみません」 やっと人混みを抜けた。 「ここで良いか?」 荒川の河川敷での花火大会。 少しメインの場所から離れたが、やはりそこそこ人は居る。 「はい」 持って来たレジャ-シ-トを敷き座り、花火が打ち上げられるまで少し待つ事にした。 「少し離れてるが、河川敷だからここでも充分見れるんだろ」 「はい。楽しみ~♪ 花火大会なんて久し振りです。前にマコと行ったの、いつだったかな?」 「俺も人混みが嫌だからな。殆ど行った事が無いな。たまたま旅行とかで運良く打ち上げ花火を見た事があるぐらいか。わざわざ見に来た事無いなぁ~」 「人混みが嫌いな伊織さんなのに……ありがとうございます。凄~く嬉しいです♪」 「買ってきたビ-ル飲んで、花火が打ち上げられるのを待つか?」 「はい。ツマミも広げて置きますね」 袋から缶ビ-ルを出し2人で乾杯した。 「はあ~、外で飲むビ-ルも格別だな」 「ふう~、河川敷だからですかね?風も気持ち良いです」 日中の暑さが嘘みたいに、夜風は涼しさを感じた。 開催時間が迫ってる所為か?人がどんどん増えて来た 穴場だと思っていた俺達がいる場所も、人が集まり出した。 開催のアナウンスが聞こえ、暫くするとドンッと大きな音が聞こえ、夜空に大きな花火が浮かび上がった。 「始まったか」 「うわぁ~、綺麗ですね。何かワクワクしてきます」 「13000発上がるらしいぞ」 「ええ~、そんなに~。凄~い♪」 話してる間にもドンッドンッと大きな音を立てバラバラ…と散る花火。 赤.青.黄色.緑.…色とりどりの色で、大輪の花が咲き輝く空を見上げロマンチックな雰囲気にミキの手を握った。 「伊織さん?」 「ん、暗いし皆んな花火に夢中だ」 「うん、綺麗ですね。ずっと見てられます」 「そうだな」 凄い勢いでどんどん上がっていく花火、Wナイアガラ.スタ-マインと趣向を凝らし、クライマックスの曲に合わせた花火は圧巻の一言だった。 ミキも目を輝かせ「凄い.凄い」「綺麗~」と素直に喜んでいた。 人混みが苦手な俺だが、ミキが喜ぶだろうと無理してでも来て良かった。 まだ、夏は始まったばかりだ。 もう1回ぐらい花火大会に行っても良いかと、ミキの喜ぶ顔を見て考えていた。 ドンッ.ドンッ.ヒュ-.バンバンバン…ドンッドンッ…… 最後の花火がどんどん打ち上げ終わると、静けさの中に開催終了のアナウンスが流れた。 13000発も打ち上がると長い様だが、見入ってるとアッと言う間に終わる。 色を無くした夜空を黙って見上げてるミキの横顔に声を掛けた。 「どうした?ボ-ッとして」 「ん……何か…花火上がってる時はワクワクして楽しかったけど……終わると寂しい~なって。あんなに華やかな夜空が急に暗くなり……夏が終わったって感じが凄くします」 ミキの頭をポンポンしながら 「まだ、夏は始まったばかりだぞ。夏休みには旅行にも行くんだし、他にもミキと行きたい所はたくさんある」 ふふふ…… 「そうですね。俺も伊織さんと一緒に楽しみたいです何か、あんな煌びやかな世界の花火が終わったらセンチになっちゃいました」 可愛いく笑うミキ。 「さて、そろそろ帰るか?電車も混んでるだろうが……早く帰ってミキを抱きたい」 最後の言葉は周りに聞こえない様に、ミキの耳元で囁いた。 頬を染め照れるミキ。 「今日はありがとうございます。伊織さん、人混み嫌いなのに…俺の為でしょ?その気持ちが嬉しいです」 こう言う所が好きだなぁ~。 ちゃんと俺の気持ちも解って話すミキに愛しさが増す。 早く2人っきりになりてぇ~。 それからの俺の行動は早かった。 もう逸れる事が無い様に手を繋ぎ人混みを抜け駅に向かった。 部屋に着いて、がっついたのは言うまでも無い。

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