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第503話
「待ちましたか?すみません」
池谷は既に来ていて、待ち合わせしていた六本木のxxxバ一のカウンターで1人飲んでいた。
隣のスツ-ルに座り、カウンター内のマスターにバ-ボンを頼んだ。
直ぐに目の前に、丸い氷が入ったバ-ボン.レモンとナッツ数種類が乗った小皿が置かれた。
「すみません。急にお呼び立てしてしまって。取り敢えず、乾杯しませんか?プロジェクトの成功を祈って」
「はい。乾杯」
「お疲れ様。乾杯」
レモンをグッと口に含みバ-ボンを流し込む。
あ~、旨い。
「先に飲んでて、すみません。あの後取材があって、思ったより早く終わったので」
「いや、構いません。今回は本当に忙しい中、アドバイザー役を引き受けてくれて助かりました。池谷さんのお陰でスム-ズに事が運びました」
一応、仕事での礼を改めて話す。
「最初、出版社の方からお話があった時に、面白そうだと思ったので引き受けました。やはり楽しかったですね。引き受けて良かったです」
「そう言って下さると、こちらも嬉しいです」
「教室や料理番組.出版社など、何となくいつも関わる人が一緒で、職種の違う人達と仕事するのは刺激があります」
「そうですか。うちの課は少人数ですが、なかなか纏まりが良いと自負してます」
「そうですね。本当に、チ-ムワ-クが良いと思います」
そう言って田口.佐藤.ミキの良い所を口にする池谷の話を、バ-ボンを口にしながら聞いていた。
それから、池谷から「なぜ?このプロジェクトを立ち上げたのか?」「器を取引きして貰う為に、ここまでするメリットがあるのか?」と疑問に思ってたんだろう事を聞かれ、それに俺の考えを話した。
池谷が酒のお代わりを頼み、俺も頼んだ。
純粋に、仕事の話をしたかったのか?
それなら別に飲みに誘う必要は無い筈だ。
なかなか本題に入らない池谷に少しイラつく。
お代わりの酒のグラスを軽く回しながら、少しの沈黙の後に、やっと本題に入る様だ。
「成宮課長は恋人居るんですよね?噂では、遠距離で凄い綺麗な彼女で、成宮課長は彼女一筋らしいですね?本当ですか?成宮さんの方が夢中って話も聞きましたけど?」
やはりミキが言った通り、俺狙いか?
やけに彼女に拘る。
ここははっきりと話をした方が良いだろうと考えた。
「誰に聞いたか解りませんが、恋人は居ます。噂は、勝手に尾ひれ付けて一人歩きしてますが、俺の恋人は外見は綺麗で1度見たら目を奪われる程魅力的です。でも、1番の魅力は性格の可愛さですね。素直で天然で優しく、俺は一緒に居るといつも癒される。俺の一目惚れです。口説いてやっと恋人になれました。恋焦がれて、もう離れる事なんて出来ません」
熱く語り、名称も私から俺になってた。
ミキの名前は言わなかったが、俺がどれだけミキを愛してるか解ったはずだ。
「成宮課長って情熱的なんですね。イメ-ジがちょっと違いますね。噂は、所詮噂で、割と淡白な恋愛なのか?と…う~違うなぁ、もっとドライな感じ?だと思ってました」
確かに、ミキと出会う前の俺はそう言う恋愛(?)をしていた。
「はははは…。確かに、今の恋人と出会う前はそんな感じでした。自分でも信じられないくらい変わりました。こんなに恋愛って良いもんだと教わりました。今の恋人には全てに於いて感謝してます。出会えた事.恋人になってくれた事.愛すると言う喜びを教えてくれた事。大切な人です」
俺が語ると、少し驚いた顔をしていたが、直ぐに納得すると言う顔に変わった。
「凄いですね。成宮課長にそこまで言わせる人って。所で、さっきから彼女じゃなく恋人って言ってるけど…やはり相手は男性?」
最後の方は、気を遣い声を潜めて話す。
「……さあ?どうですかね~」
否定して無いのが、認めてるようなもんだ。
「ふ~ん。相手は……香坂君でしょ?」
俺の顔をジッと見て話す。
ミキの事も考え、直ぐには返事をせずバ-ボンを口にした。
「どうして、そう思うんです?確かに、可愛い部下ですが」
会社では、そんな素振りを見せた事が無いと自負してる。
どんな事があっても、プライベートは会社には持ち込まない。
「成宮課長。‘R’moneってバ一知ってます?」
「……友人が経営してるバ一です」
「あっ、そうなの?ふ~ん、実は、そこで見ちゃったんですよ。成宮課長と香坂君が2人で仲良く飲んでる所。確か、帰りも一緒でした。凄く仲の良い恋人同士って雰囲気でしたよ」
‘R’moneで見られたのか。
友人が経営してると言ったが、店が店だけに言い逃れできないか?
池谷の様子を伺うと、嘘を見破る様にジッと俺の表情を見ていた。
俺は別に隠しては居ないが、ミキの事を思うと……それに、池谷がなぜこの話をするのか?真意も知りたい。
ミキ、悪い。後のフォローは必ずする。
心で詫び正直に話す事にした。
そうでもしないと話が進まない。
今までの不可解な池谷の行動と考えてる事を知りたい
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