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第504話
「池谷さんの想像通り、俺の恋人は香坂です。会社で会う前に、先にプライベートで知り合いました。正直会社で会った時には驚きましたが、運命だと思いました。知りたかったのは、俺の恋人が香坂かどうかですか?」
お代わりを頼む池谷に合わせ俺も頼んだ。
新しい酒に口をつけ話し始めた。
「プロジェクトには、純粋に面白そうだと興味があって参加しました。そこで、成宮課長を見て……成宮課長の恋人の事を思い出したんです。香坂君の会社での格好とプライベートの格好が余りにも違って、最初は解りませんでした。声と目の雰囲気で ‘もしや’ って思って、休憩の時に確かめました。突然、眼鏡と前髪を露わにされて、驚いた顔が可愛いかったなぁ~」
その時の事を思い出したのか嬉しそうだ。
ムカつくが、ここは俺達の仲の良さをアピールする事にした。
「その話は聞いてます。急だったから咄嗟に対応出来なかったって言ってました。そこで、香坂が俺の恋人だと解ったんですか?」
グラスを撫でて話す池谷。
「そう言う事。たぶん、成宮課長より私の方が先に香坂君に会ってます。まあ、会ってると言うより、私が ‘R’moneで見てただけですが。香坂君は気付いて無いと思います」
池谷の話が良く解らない。
何を言いたいのか?
やはりミキ狙いか?
「話が良く解りませんが、1つはっきり聞きたい。池谷さんは香坂狙いですか?もし、そうなら諦めて下さい俺は手離しません!」
真剣に話すと池谷が微笑む。
「成宮課長の気持ちが良~く解りました。すみません。試す様な事言ったり不躾な質問したりして。成宮課長が真剣に香坂君の事を想ってるか?確認したかったんです。私は香坂君の一ファンですからね」
一ファン?何だそれ。
「どう言う事か聞いて良いですか?」
チビチビ飲みながら話は進む。
「私が香坂君を知ったのは、もう2年位前ですかね。私の性癖を知ってる友人の紹介で ‘R’moneに連れて行って貰ったんです。そこで初めて香坂君を見掛けました初めて見た時の衝撃は、凄かったです。こんな綺麗な人が世の中に居るのか?って。友人に聞いたら ‘金曜日の女神(ヴィ-ナス)’ って密かに呼ばれてるらしいと、会えた人はラッキーだと興奮して話してくれました」
何だ?‘金曜日の女神(ヴィ-ナス)’?何つ一ネ一ミングだよ~。
祐一の奴! そんな事、今まで一言も言って無かったぞ。
「それから、私も金曜日には成る可く都合つく時には ‘R’moneに通いました。出会いを求めて来る人や酒を楽しむ為に来る人も居ますが、私の様に彼を見たさに通う人も多かったです」
グッと酒を飲み質問をした。
「香坂を誘う事は、しなかったんですか?」
顔をブンブン横に振り、興奮して話す池谷が何だか可笑しかった。
「滅相も無い! そんな事出来ませんよ。私は見てるだけで充分です。ヴィ-ナスに声を掛けるなんて……恐れ多い。それに、そんな自信有りません」
香坂君からヴィ-ナスに名称が変わってるのにも気付かない池谷は昔の自分に戻ってる様だ。
「それに、マスターや割と一緒に居るお友達のガ-ドが堅かったですからね。なかなか声なんて掛けられる雰囲気でも無かったですけど……たまに、自分に自信がある人が声を掛けてましたけど、マスターのお眼鏡に叶う人じゃなきゃ玉砕してましたね。それこそ、マスターの恋人なのか?と初めは誤解してた程です」
祐一と真琴君だな。
俺と出会う前からミキを守ってたんだと改めて感謝した。
「私はヴィ-ナスの笑顔や楽しそうにしてる姿を見てるだけで充分でした。ファン倶楽部程では無いですが、そんな人はたくさん居ました。‘今日は来てる’ ‘彼氏が出来たらしい’ ‘別れたらしい’とか、情報が飛び交う程ファンは多かったです。誰かと付き合い始めると店には来なくなり、別れるとまた店に通うと言う感じで解り易かったですね。それがここ1年程店にも来なくなり ‘本気の相手が出来た’ と噂になって、私も忙しくなり店にも通う事が出来なかったが、1度だけお2人を見かけました。ヴィ-ナスが本当に嬉しそうにしてたのが印象に残った。直ぐに、お2人は店を出て行かれましたけどね。ファンとしては寂しい気持ちと幸せになって欲しい気持ちと半々ですが、やはり一番はヴィ-ナスが幸せになる事が嬉しい。そんな気持ちで、成宮課長の気持ちを確かめました。すみません」
本当に、ミキが大好きで憧れてる気持ちが解った。
アイドルに憧れるファン心理的な所なんだろう。
池谷の話を聞いて、害は無いと判断した。
「それで俺の気持ちは伝わったかな?俺は全てに於いて香坂を優先し、あいつの笑顔や寂しさを全てを受け止めるだけの男であろうと思ってる。いつも一緒に居て、隣で笑ってて欲しい。俺は香坂から愛する喜びと幸せを貰ってるからな」
池谷はグイっと飲み干してにっこり笑った。
「成宮課長の気持ちは、充分に伝わりました。ヴィ-ナスが幸せならそれで良いんです。それと…どうしても1度だけ、2人っきりで会いたくて、仕事にかこつけて食事に誘った事謝ります。すみませんでした。1度だけ、夢を見させて貰いました。凄く、楽しかったです。残念なのはプライベートのヴィ-ナスと食事したかったですが」
「悪いが、香坂を知れば知る程魅了されてしまう。1度だけの夢で終わらせた方が、身の為だと思う。後、俺は別に自分の性癖は隠すつもりも無いが……香坂はバイセクシャルだ。まだ、世間体やら気にしてるし勇気も持てて無い。悪いが、香坂の為に公言はしないで欲しい。俺との事も会社では内密にしてる」
「解ってます。会社でのお2人を見てたら。大丈夫です、ヴィ-ナスの気持ちに背く様な事はしませんから。但し、私から1つお願いがあります。絶対、ヴィ-ナスを幸せにして下さい! 後、たまに店にも顔を出して下さいね。皆んな、寂しいと言ってますから」
「幸せにする約束は出来るが、店の方は少し考えさせてくれ。これでも嫉妬深いのと束縛もある方だと香坂と付き合って知った。まあ、行くとしても、必ず隣には俺が居るが…」
実際、余り店にも行かない様にしてた。
行ったとしても、人が多くなる時間には帰る様に敢えてしていた、ミキには解らない様にな。
「はあ~、今日、思い切って成宮課長を誘ってみて良かった~。今日が最後かと思うと、やはり成宮課長の本心を知りたいと思って。もし、本気じゃなく遊びなら……と考え過ぎでした、お陰でスッキリしました」
本当に晴々した顔をして話す。
「俺の方も、池谷さんの不可解な言動が気になってたんで。これで解りました。俺達の気持ちがお互い本気かどうか試してたんですね?解って頂けたと思いますが、俺は本気です! そして香坂を離しません!」
「そう何度も言わなくても解りましたから」
それから俺達は腹を割って話した事で和やかな雰囲気で、俺の知らなかった昔のミキの店での話しや ‘金曜日のヴィ-ナス’ って誰が言い出したのか?と笑いながら話し込んだ。
店に来る前とは気持ち的に違い、帰り際には握手をして「タクシーで帰る」と言う池谷とは分かれた。
池谷を乗せたタクシーを見送りながら「一ファンと本人は言ってるが、ファンを通り越してミキの信者じゃね~か」と遠ざかるタクシーに向け呟いた。
ったく、真琴君やら池谷やら、まだまだ信者は居るんだろうなと軽く目眩すら覚えたが、あのミキの美しさでは解らないでも無い。
池谷も1度だけの夢で終わらせて正解だっただろう。
何度も会って行く内に、ミキにハマって身を焦がす事は予想がつく、退き際の良い池谷はそれなりに遊んでも居るんだろうな。
そんな事を考えていたら、思ったより話しが弾み予定してた時間より遅くなったと駅を目指した。
さて、俺の部屋で待ってるだろうミキに何と話そうか考えながら歩いていた。
無性にミキに会いたい。
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