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第510話
ピンポン♪~…ピンポン♪~…
時計を見ると12時前だった。
ガチャッ。
玄関ドアを開けてやると、ボストンバッグを持ちミキが立っていた。
「待ち遠しかったぞ」
「ごめんなさい。掃除や洗濯して荷造りしてたら、こんな時間になっちゃった」
「そうか。早く入れ」
「はい、お邪魔します」
リビングに向かいソファの横に荷物を置き、ソファを背にラグに座るのが、ミキのいつもの定位置だ。
「コ-ヒ-で良いか?」
「はい。序でに、そこのパン屋さんに寄って買って来たから、お昼にしません?」
「解った」
袋から何種類かのパンをテ-ブルに並べ、どれにするか?悩んでるようだ。
「ほら、コ-ヒ-。零すなよ」
「は~い。伊織さんも好きなの食べて。俺は……これにする~」
クロワッサンを手に取り「いただきま~す」頬張ってる
腹が空いてたのか?可愛い~。
俺もコロッケパンを手に取り食べ始めた。
「伊織さんは、俺が来るまで何してたんですか?」
「俺か?荷造りして車のトランクに荷物入れて、それから書斎で仕事してた」
「え~、まだ仕事あるんですか?旅行とか大丈夫ですか?」
「やる事無かったから、ちょっと仕事してただけだ。特に、急ぎでも無い」
「本当に?無理してない?」
うわぁ~、そのお伺いを立てるような上目遣いは止めてくれ。
デレデレしそうな顔を引き締め話す。
「無理してないから大丈夫だ。暇な時に、趣味が無いのも困る、つい仕事してしまうからな。ミキが居ればずっと構い倒すんだが。俺の趣味はミキだからな」
「変な趣味ですね。俺を構って楽しい?」
「楽しい.楽しい♪ ミキの可愛い~反応がな」
「んもう~。でも、俺も伊織さんに構われるの大好きだから良いけど」
照れて2個めのパンを手に取りパクつく。
そう言う所が可愛い~んだ。
俺も2個めを手に取りパクついた。
「初島には明日の朝出るからな。今日、これから出掛けるぞ」
モグモグ…と可愛いく食べてる。
「ん、どこに行くんですか?」
「旅行に行ったり他も予定あるから、今日しか行く時が無いと思ってな。ミキの家族が眠ってる墓地に。
‘2人で、また今年も来れました’ と挨拶しないとな」
食べてる手を止め泣きそうな顔になった。
「伊織さん…ありがと。忘れて無かったんだ……大好き」
隣に座っていた俺の首に手を回し抱き着く。
「忘れる訳無いだろ。ミキの家族は俺の家族だ。2人の姿を見せたら喜ぶだろ、俺にミキを任せても大丈夫だと安心して貰う為にも行こう」
俺の肩口で「うん.うん」小さく呟き、頭を縦に振り、たぶん泣いてるんだろうな。
暫く抱きしめ、ミキが落ち着いたのを見計らい
「食べたら出発するか?花も途中で買わないとな。帰りはどこかで食べて帰ろう[
顔を上げ俺を見る目が潤んで少し赤い。
その表情が健気な感じで庇護欲を唆る。
「うん」
それから中途半端だったパンを食べ、少し話をし出掛けた。
車の中では、前に約束していた家族のと思い出を話して聞かせてくれた。
妹の美香ちゃんが生まれるまで母親のお腹に話掛けて生まれてくるのを楽しみにしていた事や出産の為に母親が病院に入院した時寂しかった事、そんな時におばあちゃんが普段より増して可愛いがってくれた事、実際生まれた美香ちゃんを見て可愛い~とは思ったが、母親を取られるような気持ちもあった事や初めてミルクを飲ませた事.抱っこした事と懐かしそうに話してくれた。
涙は無く懐かしい思い出として、表情が明るかった事に俺もホッとした。
俺と居る事で、少しでも悲しい思い出じゃ無く楽しい思い出になってれば良いといつも思う。
もうミキは1人じゃない、俺が居るって伝わってると信じてる。
ミキの手を握り話を聞いていた。
約一年振りか。
お墓を軽く掃除し花を添え線香を上げ、ミキが手を合わせて拝む。
その後ろ姿を見て、この1年色々あったがこうして今年も2人で来れた。
これからも、すれ違いや誤解.喧嘩もするかも知れんがそうやってお互いの絆が強くなっていくと信じてる。
また、来年も再来年もずっと一緒に来たい。
‘毎年ここに来る' と、そう決心する。
去年も決意していたと思うが、毎年、そう決意を新たにする事が、ここに来たと実感が湧く。
「伊織さん、どうぞ」
俺も手を合わせ心の中で語り掛けた。
‘また、こうして2人で来れました。喧嘩もするかも知れませんが、俺達はずっと一緒です。離れません、いや俺が離しません。安心して俺にミキを任せて下さい。2人を空から見守って下さい’
言いたい事はまだまだあるが、今の俺の心境と決心だけを語り立ち上がった。
ミキの横に並び手を繋ぎ暫く墓石を見つめていた。
ミキもぎゅっと握り返してきた。
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