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第534話
木更津には東京湾アクアラインを使う事にしていた。
その車中では浴衣の裾を気にしてたり、まだ恥ずかしさが残ってるのか?縫いぐるみに話し掛けたりとそわそわしている。
「ミキ、何だか落ち着かねぇ~な」
「だってぇ~、本当に変じゃ無い?大丈夫?」
「大丈夫.大丈夫。綺麗だ」
「心配だなぁ~。今は車の中だから良いけど…」
「あっちに着いたら薄暗いから大丈夫だって。どこからどう見ても女にしか見えない」
それどころか、そこら辺の女共より綺麗だ。
心配なのは俺の方だ。
ヤロ-共に目を光らせておかねぇ~と。
車の中ではずっとそんな感じだったが、アクアラインを通過する時には忘れていた。
「伊織さん、ここ覚えてます?」
「ああ、ミキと付き合い始めて間もなく来たな」
「そうそう、館山から何ヶ所かサ-ビスエリア寄り道して。懐かしい♪」
「足湯もあったよな?海みながら」
「そうそう♪」
懐かしい思い出に話しが弾んだ。
こうやって思い出の場所が増えていくんだろうな。
木更津に近づくにつれ道も混んで来た。
やはり、花火大会が目的なんだろう。
それでも早めに出たお陰で5時頃には着いたが、無料駐車場に入るのにも時間が掛かった。
やっと駐車場に車を止め開催場所まで歩く。
「大丈夫か?」
「はい」
「ほら、手を出せ」
素直に手を出すミキの手を握り、ゆっくりと会場に向かう。
「良いな。こうやって堂々と手を繋ぐのも」
クスクスクス…
「その為でしょ?」
「そうだった」
「もう、開き直って思いっきりイチャイチャします!」
ミキのこういう潔良さは、いつも感心する。
普段では考えられないが、いざって言うとミキの方が潔良い。
薄暗さも要因の1つかも知れ無いが。
「だな。せっかくだし、こんな機会も早々無いからな」
「は~い♪」
そんな話をして歩き、会場には場所取りもあるのかも知れないが、もう人が集まっていた。
「凄い人ですね?」
「そうだな。花火大会は良いが、この人混みがなぁ~。まずは、飲み物と食い物買おうか?ミキの好きな屋台もたくさん出てるし」
「わぁ~い♪ 何、買おうかなぁ~」
「好きなの買えよ」
「は~い♪」
人混みの中をあっちこっちの屋台を見て歩く。
この人混みでも、ミキとすれ違う人は必ず振り返っていた。
「ねぇ、見た.見た?すっごい綺麗な人だったよ~」
「うん、見た.見た。一般人じゃないんじゃ無い?お忍び?」
女の羨望の眼差しでミキを見て話す声や男共の
「すっげぇ~美人」
「めっちゃタイプ~」
「俺達じゃあ無理だろう?」
そんな声が聞こえ、カップルの男は彼女にバレないようにミキを盗み見てる。
そんな周りの事など、天然のミキには解るはずも無く屋台に夢中だ。
マジで天然で助かる。
俺が牽制しまくってる所為で、声を掛けられる事は無かった。
これ見よがしに、ミキの耳元で話したり顔を近づけて俺の者だとアピールしまくった。
綺麗で色香が滲み出ているミキを自慢したい気持ちもあるが、誰にも見せたくない気持ちもあり複雑だ。
当の本人は、お祭り気分を味わっている。
可愛く笑い話し掛けるミキに、俺はデレデレしっぱなしだ。
「伊織さ~ん、懐かしい~綿あめがあるぅ~♪ あっ、あっちにはお面が売ってるぅ~♪ 今時、珍しく無いですか?」
「昔っぽいが、それでも需要があるんだろ?」
「射的もあるぅ~♪ 金魚掬いだ~行ってみよう」
屋台の金魚掬いには、子供が一生懸命に狙っていたがダメだったらしい、それでも、小さな金魚を1匹貰って喜んでいた。
「ダメでも1匹は貰えるんだ」
「やるか?」
「ううん。持ち帰っても、水槽も何も用意して無いんじゃあ可哀想です」
「それもそうだな」
親子で挑戦してるのを微笑ましく見て、その場を離れた。
「見てばっかりじゃなく何か買うか?」
「う~…じゃあ、かき氷~♪」
「解った。行こう」
かき氷の屋台に並んでかき氷を1つ頼んだ。
好きなシロップをかけ放題と言う事で、ミキは苺シロップをかけていた。
「う~冷たくって美味しい♪ どうして1つ何ですか?」
「俺は良い」
「冷たくって美味しいですよ?はい、伊織さん。あ~ん」
かき氷を口の前に出され、俺も口を開け頬張る。
「冷てぇ~。甘~い」
ふふふふ……
「冷たいのは当たり前です。かき氷だもん。こんなに1人では食べられないから交換で食べよ?」
「ん、解った。後で、食べたり飲んだりするからな。1人で食べて腹壊しても困るし」
クスクス…
「それは困ります」
それから歩きながら、ミキに‘あ~ん’され結構食べた。
道行く人が立ち止まり「可愛い~♪」「素敵なカップル♪」「俺もあ~んされてぇ~」とか、こそこそ話してたのは俺の耳には届いていたが、天然ちゃんは自分の口と俺の口にかき氷を入れるのに一生懸命だ。
かき氷も食べ終わり、またフラフラと屋台を見て周った。
「ミキ、そろそろ買って場所取りに行こう。何、買うか決めたか?」
「はい。えっと、たこ焼きと唐揚げとフランクフルトと牛串焼き~♪」
「そんなもんで良いのか?」
「はい、充分です」
「良し、それらを買って周ろう。後は、ビ-ルとお茶な」
「伊織さん、運転だからビ-ル飲まないでしょ?だったら俺…私もいいですよ~」
「せっかくの花火大会なんだ。花火見ながらビールを飲むのも良いだろ?俺に遠慮するな。部屋に帰ったら少し付き合ってくれれば良い」
俺に言われ自分1人で…と、悩んだらしいが ‘帰ってから飲むのを付き合え’ と言われ、納得したらしい。
「それなら飲んじゃいます。ごめんなさい」
「気にするなって」
頭をポンポンし微笑えむと、ミキもふわりと微笑み返した。
心の中では、ほろ酔いのミキが甘えモ-ドになって、今よりもっとイチャイチャできると目論でるのは内緒だ
沢山の女共が着飾り華やかな浴衣を着ている中で、シンプルでモダンなデザインの浴衣はミキにとても似合っていて、その元からの美しさと滲み出る色香は周りとは群を抜いていた。
一目見ただけで誰もが惹き込まれ一瞬立ち止まる程に…。
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