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第547話

「ミキ、少し寝ても良いぞ」 「まだ、眠く無いです。……大丈夫ですか?俺、自信が…」 俺達はアメリカに行く飛行機の中にいた。 隣に座ってるミキはこの1週間ずっと「責任重大です。自信無いです」と、不安がって口にしていた。 その度に俺は「俺が居る。大丈夫だ、何かあっても責任は俺が取る。ミキは最終チェックだけしてくれれば良いんだ」と励まし、気持ちを楽にさせようと話していた。 「ここまで来たらやるしか無い。ミキならやれると俺は上司として見込んで、一緒にアメリカ行きを決めたんだ」 「……そうですね。もう空の上だし、やるしか無いか」 「良し。気持ちを切り替えて、俺はプレゼン.ミキは料理の方でお互い最善を尽くそう。じゃないと日本で留守番してる田口と佐藤に悪い。折角、ここまで皆んなで頑張ったプロジェクトなんだ、結果はどうであれやれる事はやろう!」 「はい!」 ミキはいざとなったら潔いからな、上手く気持ちを切り替えられたようだな。 「伊織さんって、G&Kの店舗部門の売上を伸ばしたって聞いてますけど、信頼されてるって。そのお陰で、うちの食器を納品出来る様になったんですよね?」 「ああ、それな。G&Kはス-パ-や投資やらやってるが、店も20店舗位やってたんだが売上が低迷してた。俺も何とか食器関係の売上を伸ばしたかったから、G&Kに店舗のリニュ-アルと日本食の店舗への展開を話し、器は我が社のを購入して貰うって事でプレゼンしたんだ」 「凄い発想ですね。あっ、今回のヘルシー食にも共通してるかも。お互いwin.winでって事ですよね?」 「そうだ。一方的に器を購入してくれって言っても、あっちには利益無いからな。特に、アメリカはそう言う所はシビアだからな。だから、店舗のリニュ-アルと日本食を勧めた。まだ、その時には日本食ブ-ムじゃ無かったが、必ず来ると思っていたし自信があった」 「凄い。流石、伊織さんですね」 尊敬の目で見られ照れる。 「力説してプレゼンし終わった俺にCEOが ‘そんなに自信があるなら1店舗任せる。リニュ-アルして成功させてみろ。成功したら、全店舗を日本食店にし器を購入してやる’ って言われ、俺も言った手前引くに引けなかった。絶対に成功させてやるって、自分の仕事の他にG&Kの店舗もやった。リニュ-アルオ-プンするまでの半年間は寝る暇も無く我武者羅にやった。そのうちに運良く日本食ブ-ムに乗って成果が出て、売上が伸びてきた時には達成感もあった」 「凄いです」 「遠回しだが、結果的には全店舗に器を納品出来た。それが今に繋がってる」 「今回も頑張りましょうね!」 俺の話を聞いてやる気になったようだな。 「何で、G&Kだったんですか?」 「ああ、俺が住んでた所にG&Kの店がたまたまあって余り客が入って居なかったからな。調べたらG&Kの店だった、店舗数も丁度良かったしな。別に、客が少ない店ならどこでも良かったが、たまたまだ」 「そうだったんですか。何かの巡り合わせなんですね」 ミキの ‘巡り合わせ’って言葉を聞いて、話しておいた方が良いだろうと思った。 「その巡り合わせなのか解んねぇ~けど、ミキには話しておくな」 「はい、何ですか?」 「そのG&KのCEOと副社長とは、仕事と関係無い所で別々に知り合ったんだ。まだ、俺がG&Kを知る前だ」 「どう言う事です?」 「順序良く話すと…赴任して1年は本場の英語に疾苦発掘してたし、仕事にも慣れるまで余裕が無かった。2年目位から英語で話す事も不便無くなり、仕事にも余裕が出てきてプライベートの時間も持てるようになったんだ。それで、ジムに通ってみたりバ-にも酒を飲みに行ったりしてた」 「伊織さんでも大変だったんだ~。そう言えば、英語版のDVDで勉強したって言ってましたね」 「そうだ。今更、学校や習いに行くのも…と思ってな日本では平気で英語話してたが、やはり本場ではまだまだ不十分なのを痛感した。話が逸れた。それで、CEOのGeoff (ジェフ)と副社長のKenny(ケニ-)だがな。ジェフとはジムで顔見知りになり話す様になった、ケニ-とはバ-でたまたま隣同士になりウマがあって約束はして無いが、そこで会った時に飲む飲み友達になってた。その時までは2人がG&KのCEOと副社長だとは知らなかったんだ。何度かアポを取って、やっと会えた時に初めて知った。お互い驚いた」 「そんな奇遇もあるんですね」 「ああ、俺も驚いた。だが、仕事とプライベートは別だからな。仕事面では厳しい事も言われたし、無理難題も言ってくるしで容赦しない」 「アメリカらしいですね」 「そうだな。それでだ……ここからの話は誤解しないで欲しいんだが……」 「はい?」 「ジェフとケニ-は学生時代からの親友なんだ。お互い信頼してるし好き合っていたのは、俺から見ても解る程。だが、まだ当時の2人は付き合ってもなく良い親友関係止まりだった。ジェフはクリスチャンで男同士の行為には踏み切れずにいたし、ケニ-からはバ-で知り合った頃に、好きな人が居るけど女の子しか相手しないから叶わない恋だと悲観し、相談というか話しを聞いていたから直ぐに相手はジェフだと解った」 「そうなんだ」 「それで仕事の面でケニ-と打合せや話す事も多かったし、仕事終わりに飲みに行って恋の相談とか愚痴みたいなのもプライベートでは聞いていたからな。ジェフが俺とケニ-の仲を誤解してた時があった」 「……そう」 「ミキ、本当に何にも無い! 誤解されたく無いからアメリカ着くまでに話してるんだ! ケニ-は良い友達だしジェフもな、2人の仲をどうにかしたかった。だから、俺はジェフが誤解してるのを逆手に取って焼きもち妬かせる芝居をした。最終的には2人が付き合う様になったんだ。好き合ってるのに何年も、前にも後ろにも進まずにいるのが可哀想でな。クリスチャンなジェフがどう出るのか?ケニ-を失いたく無いなら信仰を捨てる覚悟も必要だろ?」 「信仰捨てるのって、アメリカでは相当勇気が必要ですよ。そのくらいケニ-さんの事好きだったんですね」 「色々合ったが収まるところに収まった感じだな。ただ、ジェフは2人をくっつける為の俺の芝居を芝居じゃないんじゃ無いか?って、疑ってる節がある。俺がアメリカで恋人を作らなかったのも一因なんだろう。ケニ-を好きだから恋人を作らないんだって誤解してる」 「そう何ですか?」 「そうならこんな話し、ミキにする訳無いだろう?潔白だから話してる! 確かに、告白されたり誘われたりしたが、アメリカでは仕事中心だったし、息抜きも確かにしたが恋人になる様な相手には恵まれて無いし、ミキと出会うまで俺は人を愛せる人間じゃ無いと思ってた。それに、俺は仕事相手とはそう言う関係にはならないのを信念にしてた、仕事面でやり難くなるからな」 「……でも、俺とは」 「その信念を曲げてまでも、本当の意味で恋人にしたいと思ったのはミキだけだ!」 「解りました。伊織さんの話しを信じます。第一アメリカでの事なのに、俺に嘘付く必要がありませんからね」 「もう、日本に来て1年以上になるし大丈夫だと思うが、一応話しておこうと思ってな。ジェフも親友期間が長かったから、恋人になった途端に箍(たが)が外れてケニ-にこれまで抑えていた分、凄い熱烈なんだ。見たら笑えるぐらいな」 「お2人に会えるの楽しみです」 「俺もだ」 長い飛行機の中で語ったり映画を2人で見たり、毛布の中では手を繋いで寝たりした。 俺はジェフの誤解を解く為にも、この美しい恋人を紹介する事に決めていた。

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