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第565話
「そうか?俺の勘違いか?」
「………」
何だかはっきりしない。
「佐藤も元気無いが、田口も様子が変だと感じたが……。アメリカ出張行ってる間に何かあったか?仕事で、佐藤が何かやらかしたか?」
「……仕事では……特に何もありませんでした」
「だったら、プライベートか?佐藤と喧嘩でもしたか?」
「…………」
そうか、プライベートか。
だったら、追求は出来無いが……。
「ま、俺が居ない事を良いことに、仕事を早く終わらせて飲み会や合コンでも行ったか?それで叱られて佐藤の奴、元気無いってところだろう?」
「ま、そんな感じです」
「仕事をしっかりやってくれれば、プライベートで喧嘩しようが文句は言わないが、今のまま長く続くなら見逃せないぞ。仕事にも支障が出てくる。佐藤か田口のどっちかを移動も考え無いと……」
少し脅しを掛けてみる事にした。
「いや、それは……」
「田口、俺は1課の良い所はチ-ムワ-クだと思ってる。佐藤は仕事では不器用な所があるが、思わぬ所で意外な能力を発揮したりするし、何より人間関係をスム-ズにさせてくれる。チャラチャラした軽さもあるが、佐藤が居ると場の雰囲気が明るくなる。そう言うのは、生まれた天性だからな。佐藤だけじゃ無い。香坂にも香坂の良さがあり、田口にも田口の良さがある。それぞれが欠けてる所を巧く補ってチ-ムワ-クが生まれるだから、早く仲直りしろ」
「ありがとうございます。話しようと思うんですが……佐藤が避けてるようで……」
そうか、田口は一応仲直りする気は有るんだな。
「ん、そうだ! 今年はまだ京都工場に視察に行って無いし。田口、佐藤と一緒に出張に行くか?去年は赴任の挨拶も兼ねて5月に香坂と行って来たが、今年はプロジェクトも始まり今月は仮決算会議も有るし、俺はなかなか行く事が出来無い。籠バックの件では世話になってるし、佐藤を連れて畳サンダルの業者と竹業者に挨拶して来い!」
運転しながら前を見据え、少し考え返事が返ってきた
「解りました。佐藤を連れて京都工場に行きます」
「そうか。じゃあ、今週の金曜日にどうだ?1泊して、次の日は京都観光でもして帰って来い。佐藤も京都観光したいだろうし、良いキッカケになるかも知れない」
「はい!」
「会社帰ったら、俺から京都工場長には連絡しておく佐藤にもその旨で話す」
「……佐藤、行きますかね?」
「行かせるさ! そんなに根深いのか?まあ、佐藤の事だ、京都観光すれば気分良くなるだろう?調子良い奴だし」
「課長に任せます」
「解った」
この京都出張で仲違いが解消すれば良いが。
夕方に帰社すると、ミキが外回りから戻っていた。
「お疲れ様です。千葉工場どうでした?」
「ああ、打合せは済んだし大丈夫そうだな」
「良かったですね。あっ、田口さん。お疲れ様です」
「お疲れ~。千葉は遠いなぁ~」
「電車よりマシですよ」
笑いながら話してる2人を見て、俺は上野さんに留守中に何か無かったか?確認してると、佐藤が外回りから戻って来た。
「佐藤さん、お疲れ様です」
「お疲れ~」
ミキに応えながら自席に着く佐藤を呼ぶ。
「佐藤、戻って来て早々に悪いが、ちょっと来てくれ」
「はい」
俺の席の前に立ち怪訝な顔をしてる。
「何だ?何か、注意される事でもしたか?」
「その反対ですよ。課長に呼ばれる覚え無いんで……自分でも知らないうちに何かしたかなって?」
「面白い奴だな。何も無ければ、堂々としてれば良いだろう?」
「ま、はい」
「用件は、今週の金曜日は大口の商談とか特別な事はあるか?」
「……特に無いですが?外回りと内勤予定です」
「そうか。なら、今週の金曜日に京都工場に出張に行ってくれ」
「えっ、私で良いんですか?」
「ああ、籠バックでは京都の竹業者に世話になってるし、いつも電話だけだろ?今回、挨拶して来い!」
「はい。1度、京都工場に行ってみたかったんですよ」
いつもの佐藤だ。
「遊びとは違うからな?それでだ、本来は、俺が工場視察やら畳サンダル業者や竹業者に挨拶しなきゃいけないが、今月末は仮決算月で忙しい。俺の代わりに田口に頼んだから一緒に出張に行ってくれ」
「えっ、田口さんとですか?」
顔が曇った佐藤に仕事だと強気に話す。
「そうだ! 佐藤は京都の工場は初めてだろ?田口は何度か行ってるし、それに田口も畳サンダル業者に挨拶する目的がある」
「はあ~、あの…香坂は?」
「香坂も去年、俺が赴任の時にも行ってるしその前にも行ってる。アメリカ出張もあったしな。今回は竹業者に挨拶して顔繋ぎしておけ! 良いな?」
あんなに京都の工場出張を喜んでいたのが、渋々って感じで返事が返ってきた。
「……解りました」
「田口と出張の打合せしておけよ」
「……はい」
俺と佐藤の遣り取りを、自分の席から黙って見ていた田口と目があった。
後は頼むぞ! と目で話す。
佐藤は気が重そうに自席に戻って行った。
「佐藤、金曜日の朝早くに出るからな。新幹線の切符は買ってから時間は連絡する。良いな」
顔は田口に向けてるが、目を逸らして返事をしていた
「……解りました。宜しく頼みます」
それから就業時間まで仕事をしたが……あの佐藤の様子だと、どうなるやら?
仕事に関わらない限り、俺の出る幕は無い。
責めてもと仲直りするチャンスは与えた。
後は、2人次第だ。
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