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第566話 番外編

「ったく、遅っえ~なぁ。何してんだよ!」 待ち合わせの東京駅でイライラ…と、佐藤を待っていた。 時計を見ては来る方向を見て、出発まであと10分しか無い。 「すみません。はぁはぁはぁ…遅くなりました」 息を切らし走って来た佐藤に忙しなく話す。 「時間が無い。ほら切符だ。急ぐぞ」 改札を抜け新幹線乗り場に急ぐ。 発車時刻にどうにか間に合い切符片手に座席を探す。 「佐藤、ここだ」 2人席の窓際に俺は座り、佐藤は通路側に座った。 「ったく、何してたんだ! 寝坊か?」 「……すみません。昨日、寝れなくって……寝坊です」 「寝坊ってなぁ~。仕事だぞ! まあ、良い。どうにか間に合ったから。ほら、お茶!」 ペットボトルのお茶を手渡すと、手が触れビクッとする佐藤にまたイラつく。 「すみません。ありがとうございます」 喉が渇いていたのか?ペットボトルを開けゴクゴク…飲んでいる。 「はあ~、生き返った~」 「良かったな。今の内に、予定確認しておくぞ」 俺が京都着いてからの予定を話すと「はい.はい」と聞いて居た。 「解りました……あのぉ~田口さん」 「何だ?」 「……京都着くまで寝てて良いですか?」 「…ああ、着いたら起こす」 「すみません」 普通なぁ~、先輩より先に寝るか? ったく、仕方ねぇ~奴だ。 そう思ってると、通路側に体を傾け俺との距離をおく佐藤にムカつく。 さっきのペットボトルもそうだが、いやここ最近の佐藤の態度にはイライラしムカつく! 俺が少しでも触れるとビクっとし、話し掛けても返事はするが目を逸らす。 原因は解ってる。 課長がお膳立てしてくれたこの京都出張でどうにかしようと考えてる。 車窓をぼんやり見ながら考えて、チラッと佐藤を見るとスヤスヤ…眠りに就いていた。 寝てねぇ~のは、お前だけじゃねぇ~んだよ~。 余程眠かったのか?新幹線の揺れが気持ち良いのか?スヤスヤ…眠る佐藤の寝顔を見ていた。 黙ってれば整った顔をしてるし、女にもモテそうだが口を開けばチャラいのが減点だな。 千葉工場の帰りに、課長が佐藤を褒めていた。 課長に言われなくっても、課長以上に俺は佐藤の事は解ってると内心ムカついていた。 こいつが1課にきた時から面倒をみてたんだ。 仕事は出来が良いとは決して言えないが、不器用ながらも一生懸命にしてるし、こいつが居るだけで場の雰囲気が明るく和やかになるのも知ってる。 この人懐っこい所が、業者や取引先にも可愛いがられてるのも知ってる。 俺が散々面倒を見てきたんだ、誰より知ってると思っていた、あの時までは……。 佐藤の寝顔から目を車窓に向け、流れる景色をぼんやり見て思い出していた。 あの時は、課長と香坂がアメリカ出張に行って金曜日の終業時間間際だった。 課長達がアメリカ出張に経ってからは、上野さんにずっと1人で留守番は悪いと、交換でどちらかが内勤すると2人で決めていた。 だから、それまでずっとすれ違いで、殆ど2人が顔を合わす事が無かった。 それが最終日の金曜日には、2人共午後からは内勤していた。 終業時間間際に佐藤から誘われた。 「田口さん、今日飲みに行きましょうよ。俺達、今日まで頑張ったんだから」 「そうだな。月曜日から課長も出社するし、明日は休日だし久し振りに飲みに行くか」 「そうこなくっちゃ~。ご褒美.ご褒美~♪」 「奢らないぞ!」 「え~良いじゃん。頑張った俺に、ご褒美下さいよぉ~」 「ったく、仕方ねぇ~な」 「やった~♪」 「じゃあ、残り終業時間まで頑張れ」 「ウッス! やる気出ました!」 「ったく、お手軽だな」 はははは…… この時までは、いつもの俺と佐藤だった。 連れ立って退社し、駅近くの居酒屋で飲んだ。 「もっと良い所で飲みたかった~」 「贅沢言うな! そんな事言うなら奢ねぇ~ぞ!」 「あ~嘘.嘘。冗談ですよ~」 生ビールと何種類かのつまみがテ-ブルに置かれ乾杯した。 カチッ。 「「乾杯~」」 ゴクゴク…ゴクゴク… 「う~美味い!」 「仕事の後は、尚更美味いな」 それから、たわいも無い話しで笑い楽しかった。 生ビールからレモンサワ-になり、話しが盛り上がり酒も進んだ。 俺も佐藤も強い方だ。 酒が進むにつれ、恋愛話になった。 「田口さ~ん、彼女と喧嘩したって言ってたけど~仲直りしたんすっか?」 「嫌な事聞くなよ! あれから連絡無かったんだ。中途半端なの嫌だったから、こっちから連絡した~」 「へえ~、それで?」 「別れたよ! 嫌な事思い出させるなよ~!」 「まだ、傷心中ですかぁ~?原因は?何すっか?」 嫌な事を思い出し、酒をグビグビ…飲んだ。 「別れて、まだ2週間弱か?まだ、良い思い出には出来ねぇ~な。原因?ああ、夏休みに大阪旅行行っただろ?」 「USJですよね?彼女の為に…優しいじゃないですか?」 「まあな。行きたいって言うからな。確かにUSJは楽しかったんだけど…ここ2~3ヵ月彼女の方が結婚話しを匂わしてきてたんだ」 「あっ、良いじゃないですか?田口さん、前にこのまま長く続けば結婚もあり得るって、前に話してたでしょ?何か問題でも?」 佐藤もグビグビ…飲む。 「ああ、確かにそんな事言ったこともあった。前の俺なら適当な所で、そろそろ結婚するかって思ってたかも知れない。でも、今、すっげぇ~仕事が面白いんだ。だから結婚とか考えらんねぇ~」 「タイミングの問題?」 「かもな。前の課長は、事なかれ主義で1課はそこそこ売上が良いから、現状維持って感じだっただろ?」 「そう言う人でしたね。俺は楽で助かりましたけど…」 「だよな?お前、前の課長の時は、遊び歩いてたからな。俺も他部署から1課にきてまだ先輩も居たし、課長もそんな感じだったから仕事覚える事に必死だったしな。そのうち先輩達が移動して、佐藤や香坂がきて、今度は後輩の面倒をみるって感じで、俺も何となく現状維持の仕事してた。けど、成宮課長が赴任して来てから、1課の改革を進めてバリバリ仕事してる姿見てカッコいいって思った。それに俺達に仕事の面白さを教えてくれた。どんな些細な事でもちゃんと汲み取ってくれるし、尊敬出来る上司だ。課長が俺を変えてくれた」 「解ります。課長は仕事出来るし、男から見てもカッコいいっす。でも、田口さんも出来る人でしたよ?俺や香坂の面倒を良く見てくれたし……特に俺ですけどたぶん、成宮課長が良い刺激になったんですよ」 「そうだな。今は仕事が面白くって仕方ねぇ~」 「仕事が面白いのは解りますけど、それが、何で結婚に関係あります?別れる必要あるかな?」 佐藤が疑問に思って聞いてくるが、またグビグビ…飲んだ。 既に、いつもより飲み過ぎて居た。

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