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第570話 番外編

今日ほど、会社に行きたくねぇ~と思った事は無かった。 会社に行く電車の中で、頭の中をぐるぐると同じ事が繰り返し回ってる。 普通に接しろ.普通に.普段通りに……。 会社の前で一呼吸し出社した。 課長と香坂.上野さんは既に出社していたが、佐藤の姿が見当たらない。 体の具合が悪いのか? 不安になってきた。 就業時間ギリギリに出社して来た佐藤にいつもだったら '寝坊か?夜遅くまで遊んでんじゃねぇ~よ’ と軽口叩く所だが、掛ける言葉に詰まった。 そのまま朝礼が始まり、課長のアメリカ出張の話を佐藤が気になり上の空で聞いてたような気がする。 佐藤に話し掛けようと思うが、キッカケが掴めず佐藤も元気が無いのが気になった。 仕事が始まり、数時間後に佐藤が席を立ちトイレに行った。 その数分後に、跡を追うようにトイレに入った。 誰も居ないのを確認してると、佐藤が個室から出で来て俺を見て驚いた顔を一瞬見せたが、直ぐに目を逸らし手を洗う。 俺は意を決して、佐藤の後ろ姿に声を掛けた。 「佐藤…その…体……大丈夫か?」 まさか、声を掛けられるとは思って無かったのか?下を向いてた顔を上げ鏡越しに俺の顔を見て驚いた顔をしたが、直ぐにまた下を向いて手を洗い始めた。 「……大丈夫です」 それだけ話すと手を洗い終わりハンカチで拭きながら鏡越しに俺の顔を見てまた話し出した。 「久し振りだったもんで…男とは。……酔った勢いだし、お互いあの事は忘れましょう」 そう言って、直ぐにトイレから出て行った。 トイレに1人残された俺はホッとする気持ちもあったが、頭の中ではショックが大きかった。 佐藤が無かった事にしようと話すだろうとは予想していた。 'やはりな'って気持ちで、ホッとしたのは事実だ、可愛い後輩をこんな形でギクシャクしたく無かった。 だが……男とは久し振り?相手は誰だ?佐藤は無類の女好きな筈……その事と予想してたとは言え、実際に佐藤の口から '酔った勢いだしお互い忘れましょう' と面と向かって言われた事が、ショックだった事に戸惑った。 佐藤が使って居た洗面台に手を置き 「くそぉ~、何なんだよぉ~」 佐藤がそう言ってくれた事が1番最良だと頭の中では解ってるが……寂しいような突き離されたような複雑な気持ちだった。 ここにずっと居ても仕方無いと、顔を洗い素知らぬ顔で課に戻ると、佐藤は既に外回りに出て居た。 どんな顔をして顔を合わせて良いかと思って居ただけに出掛けてた事を知り、今度は本当にホッとした。 それからの1週間は外回りが多い佐藤、たまに一緒に内勤になっても目も合わせないし、話し掛けても目を逸らし会話をしたり触れたりすると、ビクつく佐藤に ‘どうしろってんだよぉ~’ ‘言ってる事と態度が違うじゃねぇ~かよぉ~’と内心毒付き佐藤の態度にイライラして居た。 部屋に帰っても佐藤の事が頭から離れず、つい考えてしまう。 ずっと、こんな感じなのか? 可愛いがってた後輩を失うのか? 自問自答するが、俺1人じゃあ解決しない。 佐藤ときちんと話さないと……。 1週間悩んだ末に、休日の土曜の昼過ぎに佐藤の部屋を訪ねる事にした。 ♪♪♪♪~…♪♪♪♪~… この時間なら起きて居るだろうと、意を決してチャイムを鳴らした。 心臓がバクバク…鳴ってる。 緊張してるのか? そう思ってると、ガチャッと玄関ドアが開いた。 「は~い。どちら様~」 眠そうな顔でドアを開けたのは、佐藤じゃなかった。 誰だ? 黒のスリップ姿に生足で出て来て眠そうな顔をした女性だった。 固まってる俺に怪訝な面持ちで、落ち掛かった赤い口紅が付いた唇を開いた。 「何?誰?」 高い女の声でハッとし我に返り、咄嗟に誤魔化した。 「すみません。部屋間違えました」 軽く頭を下げると、部屋の中から佐藤の声が遠くから聞こえた。 「美奈さ~ん、誰か来たの~?」 「ううん、部屋間違えたみたい~」 そう言って玄関ドアを閉められ、俺は直ぐにその場を去った。 誰だ?あの女は? 先週の今日だぞ! 幾ら何でも、部屋に引っ張り込む事ねぇ~じゃねぇ~か! カッと頭に血が昇り、そのまま自分の部屋に帰って行った。 クッションに八つ当たりしたり暴言を吐いたりと、カッカッ…と怒っていた俺だが、夜には冷静になる事が出来た。 佐藤にとっては、もう忘れたい事の1つなんだな。 後悔してんだろうな。 でも……俺の事好きだって……。 あの女……口紅は落ち掛かってた…キスしたのは間違い無い!……眠そうな顔と生足……ヤッタんだろうな! 「くそぉ~!」 俺だけが悩んでるのか? 佐藤の行動に、また頭を抱えていた。 何も解決しないまま週が明け、佐藤を見ると部屋に行った時の事を思い出し、ついキツく当たりビクつくのもイラつき睨んでしまっていた。 このままじゃあダメだと思って居ても佐藤は避けるし俺も女の事とか引っ掛かり話し合う気が合っても行動に移せないで居た。 そんな時に、課長と千葉工場に訪問する事になり、会社への帰り道に提案された京都工場への視察を兼ねた挨拶回りを良い機会だと思い了承した。 この京都工場視察で佐藤と話し合うつもりだ。 聞きたい事もあるし、佐藤も言いたい事があるだろう この2週間散々悩み俺も覚悟を決めた! 隣で寝ている佐藤はたぶん昨夜は、俺と2人での出張で緊張して寝れ無かったんだろう。 それは俺も同じだった。 スマホで時間を確認して少しだけ寝るかっと、スマホにタイマーを掛け、俺も今日の話し合いに備えて暫しの休息を取る事にした。 どうなるか解らないが、話し合わないと前には進め無いと、気持ちを新たにした。

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