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第573話 番外編

暫くの沈黙の後に、俺は佐藤に謝った。 「佐藤、済まなかった」 ビクっとお茶を握り締めてる手に力が入っていたのが見えた。 「……それって…後悔してるって事?俺、言いましたよね?……忘れましょうって。後悔されるなら、何も無かった事にした方がマシだ!」 声を荒げて、ソファから立ち上がりドアの方に1歩踏み出した時に ‘失敗したっ’と直ぐに思って、佐藤の肩を掴んで元の場所に座らせた。 「違うんだ! ともかく座れ! 今日はちゃんと話そう」 「何が違うんですか?謝ったって事は後悔してるって事でしょ?後悔されたく無いから、忘れましょうって言ったのに…」 泣き出しそうな顔を久し振りに見た。 新人の頃は仕事でヘマし泣きそうな顔してたが、今はいつも笑って冗談を言い皆んなを和まし明るい雰囲気にしてくれる。 俺は佐藤のそんな所が好きだった。 こんな泣きそうな顔なんて見たくない! 佐藤に、こんな顔をさせてると思ったら情け無くなった。 「違う! そうじゃ無いんだ! 俺が謝ったのは佐藤の体を労わったりケア-しなかった事を謝ったんだ!」 「えっ……どう言う事?」 「あの時は、確かに俺もお前も酔ってたし、雰囲気って言うか.勢いでヤッちまった感がある。で、朝、起きて…その…2人共裸だし服は脱ぎ散らかしてあったし……俺の…すっきりしてたしで、状況が解ってパニックになったのは、本当だ」 「で、後悔してるんでしょ?俺の体がどうのこうの言ってるけど……結局、後悔してんだろ?……だって…あの時……田口さん、俺から逃げる様にして帰ってったもんね。色々言ってるけど、そう言う事なんだろ?」 「……確かに、あの時は酔ってたからって……それも佐藤と……佐藤が嫌だって言ってんじゃ無いんだ! 可愛がってた佐藤と、今後どう接して良いか.こんな事になって、佐藤を失うのが怖かった。もう、笑って冗談とか言えなくなったり……そうだな、佐藤の言う通りだ! 俺はともかくあの場から逃げたんだ。お前に何か言われる前に…何言われるか怖かったんだ。1人で、今後の事を考える為と自分に言い訳してお前から逃げた。ちゃんと向き合う勇気が無かった」 「……そうだと思った。だから忘れようって言ったんだ。その方が、田口さんが重く考え無くって良いんだと思って」 「そうか、ありがとうな。俺の為に言ってくれたんだな。……帰ってからシャワー浴びて……俺のに…血がこびり付いてた……無理に自分の欲望のまま抱いた……お前の体の気遣いもせず……そう思ったら、逃げて帰ってきた事が情けなくなった。そう言う意味で謝ったんだ」 「……そう…そんな事でバレたんだ」 「部屋出る時に……お前 ‘男とは久し振りだ’ って言ってたけど……嘘、何だろ?俺の気持ちを軽くさせようと言ったんだろ?」 「……そうだよ。男なんて誰がヤルかよ!」 「そうか。それを聞いて安心した。あの時は、相手は誰か?女好きのお前が?とか色々考えた。じゃあ、何で?幾ら、酔ってたとしても……男とはヤらないお前が何で俺とはヤったんだ?正直に話してくれ! 俺の記憶が正しかったら冗談かも知れないが、誘われたような気がした」 俺の顔をジッと見て、引きそうも無い俺に観念したのか?渋々話し始めた。 やっと目を合わせたな。 「初めは……田口さんと飲んだのは…課長達がアメリカ出張で留守番を何の大きな問題も無くやり遂げて、俺的には細やかな打上げのつもりだった。2人共1週間近く殆ど会わずに居たし、久し振りに田口さんと内勤して話もゆっくりしたかったから、楽しく飲んで終われば良いやって感じで。飲んでるうちに、田口さんが彼女と別れた話しになって……彼女の理不尽な別れ方とか.結婚したかったら田口さんじゃ無くても良いのか?って、腹が立った。だから…つい飲み過ぎた」 あの時確かに、佐藤は彼女に対して良くは言って無かったが、それは俺を慰めてるのだと思っていた。 「それで?」 「話しを聞いて、長く付き合ってる割には田口さんの事解って無いんじゃないか?とか、そんな女に田口さんは勿体無い?とか、別れて良かったんだとか、考えてたらどんどん酒の量が増えていった」 それは俺も同じだった。 佐藤に話してるうちに気が軽くなり、酒で忘れるようにどんどん量が増えていった。 酒に強い俺達でも、側から見ればしっかりしてるつもりでも、最後の方はフラフラしてたと思う。 「それから佐藤の部屋で飲み直そうってなったんだよな」 「2人共結構飲んでフラフラだったし……傷心中の田口さんを慰めるって名目で……本当は、田口さんともっと一緒に居たかったんだと思う」 「飲み過ぎてたが、それまではいつも通りの俺達だったよな?それなのに、どうして?」 なかなか本題に入らない佐藤に辛抱強く聞いてたが、そろそろ本音を聞きたい。 肝心な言葉がまだ出てきてない。 俺があの朦朧とした頭で聞いたのは本心なのか?確認したかった。 「………」 佐藤は握り締めていたペットボトルのお茶を開けグビグビ……飲み始めた。 「ふう~………そうだよ、俺が誘ったんだ。お互い酔っ払ってるのを良い事に……傷心中の田口さんを冗談めかして誘って……ダメだと制御する頭の傍で……チャンスだと思ったんだ。もし、拒否されても冗談で済ませるギリギリのラインで……。もう、こんな機会無いと……最低なのは俺の方!」 ペットボトルをギュっと握り締め、悲痛な顔で話す佐藤のあの時の気持ちが表れいた。 まだだ。 まだ感心な言葉が出て無い! 「何でチャンスだと思った?男と何かヤらない佐藤がなぜ俺と?」 素面の佐藤の口からはっきりと聞きたい! 追求を緩め無い俺に悲痛な顔から泣きそうな顔になり見つめてきた。 「もう解ってる癖に……俺の口から言わせるの?」 聞きたい! 「ああ、佐藤の本音を聞きたい!」 また、ペットボトルを開けゴクゴク…飲み、手で唇を拭きキュっと唇を噛み締めてた。 俺の顔を泣きそうな顔で見るが、目だけはキツく睨み数秒後に噛んでた唇が開いた。

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