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第575話 番外編
「佐藤、起きろ」
「ん……まだ良いじゃん…眠い~」
俺の胸に頭を擦りつけてくる。
猫みたいだな。
「チェックアウトの時間だ。早く起きろって」
「ん~田口さんの声が聞こえる~。まだ、夢の中?」
「何、寝言か?俺の夢見る程好かれてるとはな。嬉しい限りだ」
「えっ、何?何で?田口さんが…」
抱きしめてる俺の顔を見上げ、まだ覚醒しない頭で状況が把握出来て無いようだ。
「昨日、散々愛を語り合った仲だろ?」
「………あっ」
「思い出したか?取り敢えず、後30分でホテルをチェックアウトしないと……昨日の話しの続きは、東京戻ってからだ。良いな?」
「………はい」
「解ったら、部屋に戻ってシャワー浴びて、荷物の整理してロビーで待ち合わせな?」
「はい」
照れ臭いのか?直ぐにベットを抜け出し、そそくさと部屋から出て行った。
さて、俺も軽くシャワー浴びて用意するか。
こうして、課長にチャンスを貰った京都出張は、お互いの気持ちを確かめて終わった。
ロビーで待ち合わせて、新幹線に乗っても佐藤は大人しかった。
照れてるんだろうな。
直ぐに恋人同士の雰囲気になるには、またキッカケが必要か。
佐藤の照れが伝染したように、俺も何だか気恥ずかしくなった。
昨日は興奮してたし、何とか佐藤の本音を引き出そうと必死だったが、1夜明けて冷静になると昨日の自分の必死さに恥ずかしく思い始めた。
佐藤が新幹線で通路側に体を寄せ、俺も窓際に体を寄せ目を閉じて居たが、膝だけは触れ合い俺の全神経は佐藤を意識して居た。
新幹線の中では、お互いを意識したまま過ごし東京駅に着いた。
改札を抜け、佐藤が「じゃあ、お疲れ様でした」と頭を下げ話す。
「はあ?何、寝ぼけた事を言ってんだよ?今から俺の部屋に行くぞ。まだ聞きたい事あるからな!」
そう言って腕を掴んでズンズン…歩き出す。
「えっ、あのぉ~俺は何も話す事無いんですけど…」
「お前に無くても俺にはある! 話しは部屋でだ!」
「解りました。行きますから、腕離して下さいよぉ~」
仕方無く腕を離しズンズン…歩く俺の後を足早に着いて来てるのを確認していた。
電車を乗り換え、やっと俺の部屋に着いた。
部屋に入った佐藤は立ち尽くしていた。
「佐藤、上着脱いで楽にしろ。そこのソファに座ってな。今、コーヒー入れるから」
2人分のインスタントコーヒーを入れテ-ブルに置く。
「これ飲んで待ってろ! ちょっと着替えくる」
寝室に行き、俺はスーツから部屋着にしてるTシャツとスエットに着替え、佐藤が待ってるリビングに向かった。
テーブルの角を挟んで隣に座った。
何だかソワソワして落ち着かない佐藤に声を掛けた。
「どうした?落ち着かないみたいだな?」
「……あの~…田口さんの話しって?」
俺からの話しが気になって仕方無いのか?
「ああ、幾つか聞きたい事がある」
「……何ですか?」
「1つは、いつから俺の事好きだったんだ?そんな素振り全然感じ無かった。それに、お前いつも先輩が早く結婚しないと自分もできないとか言って結婚勧めてなかったか?」
俺は思ったままを素直に聞いた。
始めは言い淀んで居た佐藤も少しずつ話し出した。
「……いつからって……ん~気が付いたら…好きになってました。……意識し始めたのは…成宮課長の歓迎会の時かな?………田口さん、課長に ‘彼女居るのか?’ ‘結婚しないのか?’って聞かれて…‘彼女は居ます。このまま付き合っていったら、いずれ結婚するかも’って応えたのがキッカケかも知れない。……それまで田口さん……彼女居たときもあったけど…結婚って言葉出た事無かったから…あ~田口さん、結婚するのか~って考えたら……寂しいような…彼女が羨ましいなぁ~って思った」
何かを噛み締めるようにゆっくりと話す佐藤だが、まだ俺の質問の半分程しか答えて居ない。
佐藤の話しによると、課長の歓迎会って事は1年以上も前になる。
「そんなに前からか。知らなかった。じゃあ、結婚を勧めた理由は?」
「それは……彼女居ない時には、俺が誘うと飲みに行ったり合コンにも来てくれるけど……彼女が出来ると ‘彼女に悪いから’ って、遊びは止めて彼女を大事にするじゃないですか?……俺、前々から、田口さんのそんな所とか良いなぁ~って思って、田口さんの彼女になる人は幸せだなぁ~って。会社でも体育会系だからなのか?面倒見も良いし頼りになる先輩で一緒にバカな話にも付き合ってくれるし……憧れてました。……その……結婚を勧めたのは……田口さんの事を意識し始めて……好きだと解ったら……男同士だし、未来は無いと諦めようと……でも、出来の悪い後輩でも良いから、田口さんの側に居たい気持ちと早く田口さんが結婚して他の人の者になれば……諦めもつくと……」
そうか、そんな風に俺の事思ってくれてたのか。
佐藤の一途な想いが嬉しかった。
だが、もう1つこれだけは聞いておきたい事があった。
「そうか、佐藤の気持ちは良~く解ったし嬉しいが……もう1つだけ聞きたい事がある」
佐藤はコーヒーカップを両手で握り締め1点を見つめ時折、俺をチラチラ…見ながら正直な気持ちを言葉を選んで話している。
その姿を見て…香坂は素直だが佐藤は良くも悪くも正直者だ、たぶん話してる事に嘘は無いと思っていた。
俺の顔をチラッと見て ‘今度は何?’ と、不安な顔をしている。
「……何ですか?」
「………あの日から、お前の態度もビクビクしてるし俺もお前とどう接したら良いか?あの時にお前が酔った勢いで ‘好きだ’ って言われたが、本当なのか?とか色々俺も悩んだ。でも、このままじゃいけないと、お前と話し合う為に次の週の休みにお前の部屋に行った……部屋から出てきたのは…女だった。予想して無かったから気が動転した。自分の部屋に戻って腹が立ってきた。俺の事好きだと言っておきながら、次の週には女とセックスしてるお前に。彼女は居ないと豪語してたが……あの女は彼女なのか?」
俺の質問に目を見開き驚き、また目を逸らす態度にムカつく。
コーヒーカップをギュっと握り締め俯く佐藤。
どんな答えが返ってくるか?内心ドキドキ…していた
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