579 / 858
第580話 番外編
夜中に息苦しさで目が覚めた。
辺りはまだ暗い中、誰かに抱きしめられて居た。
硬い平らな胸に顔を埋めていた俺はいつもなら柔らかい胸か抱きしめて寝てる方だったから違和感があった
恐る恐る顔を上げて見ると、田口さんの寝顔の1部分が見えた。
あっ、田口さんと……。
思い出したら恥ずかしくなったが、それと同時に嬉しくって幸せな気持ちが広がった。
本当に夢みたいだ~。
ずっと面倒見が良くって頼りになるし、結構話しも解る良い先輩だと思ってた。
田口さんを意識したのは、正直言っていつからって定かじゃないけど、田口さんに聞かれた時に話した事がたぶんそうだろうと思う。
俺の中では、自然に良い先輩から男としても憧れて……いつの間にか好きになってた。
男前って言ったら直ぐに課長を思い出すけど、田口さんも男前の部類に入ると思う。
体もがっちりして体育会系で、キリっとした顔立ちだし笑うと目元が優しくなるのが魅力的だが、1番の魅力は田口さんの持ってる雰囲気なんだと思う。
頼り甲斐があって、でも優しさが感じられる雰囲気だ
この人の彼女は幸せだなぁ~て思わせる。
あの日、俺も田口さんも酔っていたのは確かだ。
田口さんの彼女の話を聞いて、彼女に腹が立っていたのも酔う原因だったと思う。
そしてあの時に冗談っぽく迫ったが ‘こんなチャンスもう無いかも’ ‘1度だけ’って、頭の片隅で考えて居たんだ。
俺も初めてで……凄く痛かった。
痛みで叫びそうになるのを、田口さんが正気にならないように必死で耐えて居た。
でも、体は痛かったが心は喜びで一杯だった。
次の日の朝に、田口さんが後悔してるのが解った……だから、俺から ‘忘れましょう’ と言ったんだ。
田口さんの口から後悔の言葉を聞きたく無かったから……それからは、田口さんを意識して何か言われるんじゃ無いかと、ビクビクしてたのは本当だ。
自分でも態度が悪いとは思うが、条件反射になってた
それがなぜか?何がどうなって?
田口さんからの告白信じられなかった。
俺の気持ち知って哀れんで言ったのか?と思ったりもしたけど……。
‘付き合って下さい’と言われた時は、凄~く嬉しくって涙が出た。
もう死んでも良いとさえ思った。
諦めようと何度もした……早く、田口さんが結婚してくれれば諦める事ができるとも思った。
それが……こんな幸せが待ってた。
あの時……チャンスを逃さなくって良かった……勇気を振り絞って…。
今日までの事を振り返っていた。
田口さんの硬い胸に顔を埋め抱き着いた。
この人の腕の中って安心する。
ずっと、田口さんと一緒に居たいなぁ~。
そのまま目を閉じて眠りについた。
次の日、お腹が痛くって目が覚めトイレに駆け込んだ
お腹の調子が良く無い。
トイレから戻ると、田口さんから言われた言葉に顔から火が出る程恥ずかしくなった。
「佐藤、腹の調子悪いんだろ?」
「何で?」
「今、ネットで調べたら、男同士の場合セックスした後はきちんと精液を掻き出さないと、腹の調子が悪くなる事があるって載ってた。昨日、あのまま寝ちまったからな」
「………」
「俺もセックスの仕方は何と無く解ってたが、後処理までは……済まん。俺がきちんと調べておけば良かったんだ」
「田口さんだけの所為じゃないです。俺もそんな事知らなかったし…」
「お互い、男同士の恋愛は初めてなんだ。これから少しずつ2人で知っていこうな。今度からは、セックスの後は俺が掻き出してやるから安心しろ」
「……恥ずかしい」
「何言ってんだ。解す時に、指突っ込んでんだから今更だろ?自分でできるのか?」
「………お願いします」
立ち尽くす俺の前に来て頭を撫でられた。
「おっ、素直で良い~」
嬉しくって抱き着こうとしたら、またお腹が痛くなってトイレに駆け込んだ。
そんな俺を見て田口さんは大笑いしてた。
悔しくてなってトイレから叫んだ。
「田口さんのバカ~」
またまた笑う声が聞こえた。
でも、その日はずっとお腹を摩ってくれていた。
そんな田口さんがやっぱり好きだ!
後日談だが、田口さんに「俺の事はプライベートでは湊って呼べよ」と言われ、ずっと呼びたかった俺は嬉しくって、直ぐに「湊……湊…湊」って何度も呼んだ
そしたら「何だよ?翔」と返事が返ってきた。
‘翔’って呼ばれて本当に恋人気分が上がった。
その日は用がなくっても何度も ‘湊’って呼んだ。
また1つ恋人の自覚ができた。
ともだちにシェアしよう!