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第588話
それまでドア付近で、成り行きを見守り傍観してた沙織がパンッパンッと手を叩いた。
「じゃあ、決まった所で、時間無いから仮装するわよ! 先に伊織.桐生さん.海堂さんからよ。サクッとやっちゃいましょう。遅くても10時には出発したいから。はい、着いて来て」
俺と祐一.龍臣は沙織の後を着いて部屋から出た。
2階への階段を上がって行く最中も、3人で小競り合いをしながら歩く。
「おい、龍臣! あれは無いんじゃねぇ~のか?」
またまた顔の前で手を合わせ、俺達に謝る龍臣が言い訳を言った。
「悪い.悪い。仮装の事を話すと絶対来ないだろうし、知らない振りで連れて来るのが1番手っ取り早いと思ったんだ。悪かった」
「何で、俺まで謝んね~といけないのか?意味解んね~」
「そんなの同罪に決まってんだろ?お前1人で、知らん振りして逃げようったって、優希さんには解ってんだ! ざま~みろ!」
「ったく、いつもお前達に巻き込まれる俺の身にもなれっつ-の」
「はっ! 何言ってんだ?こいつ!」
「お前がやらかした時には、協力してんだろーが」
俺達の小競り合いに背後を見て一喝する沙織に皆んな恐縮した。
「いい加減にしたら! もう終わった事をいつまでも言って男らしく無いわね! もう、その話は終わりよ!」
「「「……はい」」」
先に部屋の中に入った沙織の姿が見えなくなり、3人で沙織に対してこそこそと話した。
「怖~」
「逆らうの止めよ」
「すっげぇ~な」
「早く、入って! 時間無いんだから!」
「「「はい」」」
もう沙織に言いなりの俺達は素直に部屋に入った。
「そこに掛けてある服を着てね。白が伊織、生成りが桐生さん、黒が海堂さんよ。早く着てね! 髪のセットと眉毛だけ整えるから」
壁に掛けてあった服を見ると。
白の貴族風王子様の軍事服で肩と袖口と胸元に金の刺繍やら飾りがあった、如何にも貴族の王子様って服装だ。
祐一にと言われた服は生成りで、中世貴族風のロングコートジャケットで薄く細やかな模様が浮き上がり、袖口からレ-スが少し見え金ボタンが多くレトロ感があり貴公子って感じだ。
黒の燕尾服だがヴィンテ-ジゴシック中世っぽく、襟元が大きく開き中のベストと襟から胸にかけての模様も銀で描かれたちょっとワイルドで龍臣に似合いそうだ。
普段では決して着ない服装に3人とも絶句した。
「見てないで、早く着てね!」
ワックスやらアイブローなどを用意しながら、急かす沙織に「本当に、これ着るのか?」と、一応、俺が代表して聞いてみた。
「そうよ! 嫌なら、3匹の豚にコスチューム変えちゃうわよ!」
「解った。着るから」
それぞれ部屋の仕切りがある衝立の向こうに、コスチュームを持って行き着替え始めた。
「マジかよ~。俺、王子様って柄じゃないし、これ着るの恥ずかしい~」
「俺もだ。ディズニー以外では着れないぞ! 着くまで、車から出られない!」
「伊織や祐一に比べたら、俺のはまだマシだった~」
沙織が居ない事を良い事に愚痴ってると沙織が急かす
「もう、早くして! 次もあるんだからね。あんた達に時間掛けられないから!」
「今、着替えてる」
そう言いながら、覚悟を決め着替え始めた。
ス-ツとは違い、カッチリしてる服で少し動き難い。
先に支度が出来た龍臣から沙織の方に行き、髪や眉を弄られ、次は祐一で最後は俺だ。
「あら~、我ながら上出来ね♪」
俺達3人を並べさせ上から下まで見て、思ったより良い出来栄えに上機嫌だ。
龍臣はいつも撫で付けてある髪を立たせパンクっぽくし、眉も少し太めにされワイルドさが強調され黒燕尾服に良く似合ってた。
祐一は店に出てる時と大した変わらない髪型で、前髪を両サイド垂らし後ろ髪は1つで結んでるが、違うのは生成りのリボンで結えてあった、眉も綺麗に整えて描かれていた。
俺は自然な感じだが、両サイドが撫で付けられ眉も整え綺麗に描かれた。
少し若く見えた気がした。
それぞれコスチュームと髪型など似合うように沙織が上手くやってくれた。
「皆んな凄くお似合いよ♪ ヨシ君もマコちゃんも優希さんも惚れ直すわよ♪」
沙織が言うくらいだ、似合ってるんだろうと思うが、これを着て歩くには勇気と根性が必要だ。
「さて、お披露目しに行きましょう♪」
「「「…………」」」
何も言えずに黙って沙織の後を着いて、ミキ達が待ってる部屋に歩く。
あ~ミキに見られるの嫌だなぁ~。
恥ずかしい。
ミキもいつもこんな気持ちなのか?
でも、ミキの女装は似合ってるから良いが……俺のは……良い歳して、王子様はねぇ~だろ?
誰が見ても完璧な王子様だが、本人は全然そうは思って無かった。
それは祐一や龍臣も自分では俺と同じように思ってた
部屋の中からは、楽しそうな声が聞こえる。
「私が先に入るから、呼んだら1人ずつ入って来てね♪」
「「「………はい」」」
ガチャッ。
「今からお披露目しま~す♪ 始めは海堂さんからよ。海堂さ~ん」
呼ばれた龍臣は「俺からかよ~」と言い、部屋の中に入って行った。
部屋からは歓声が聞こえた。
3分程経って
「次は、桐生さ~ん」
「………やだ」
そう言い残し渋々と部屋に入った。
またまた歓声が聞こえた。
また少し経って、今度は俺が呼ばれた。
「伊織~」
ドキドキ…しながら部屋に入った。
部屋の外には歓声しか聞こえ無かったから、部屋の中で何が行われて何を言われてるか?は、聞こえず、ミキにどう思われるか?心臓がドクンッドクン…鳴ってた。
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