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第600話
沙織に連れられ俺達はタワー・オブ・テラ-の前に着いた。
廃虚ホテルが目の前に聳(そび)え建つ。
「結構、高いよな?」
「そうだな。でも、フリフォ-ルって、どこでも一緒だろ?一気に落下するからアッと言う間だ」
俺と祐一が廃虚ホテルを見ながら話してると、どこからともなく「キャ~~~!」「うおぉ~~!」と叫び声が聞こえた。
祐一と顔を見合わせ ‘やばそうだ’ と、お互い声には出さず理解し合った。
ディズニーでの絶叫系なんて、たかが知れてると思ったが……。
ミキの前で無様な姿は見せられない。
ファストパスを使い短い待ち時間で、心の準備も無しに箱型の古いエレベーターに座り、しっかりと3点式のシ-トベルトを何度も確認し、隣のミキのベルトも確認した。
たまたま8人だった事もあり、3列目の席に皆んな揃って座る事が出来た。
座ってると閉鎖的だが、上昇して行くに連れパ-ク内の景色が見え最上階に着いた時には、空の青さや雲.目の前の海や港街風景と一望でき、なかなか絶景だったが余裕があったのは、ここまでだった。
「ミキ、しっかりバ-に捕まれよ」
「はい! 凄~くワクワク…しますね♪」
「……だな」
ガタッ!
不意を突かれた瞬間に一気に落下!
そしてまた上昇し、また落下!
数秒の間に3回、そんなに事があり気が緩めない。
俺はふわっとした浮遊感と落下に少し胃が気持ち悪いが、隣のミキは別の意味で「キャ~~♪」楽しんでた!
前列じゃないだけ良かったと思ってたが、階段状になっていて最後列はやや高めで、スリルがその分増してる気がした。
他のフリフォ-ルとは違い独特の動きがあり、数秒間の中に高さとスリルと若干の怖さがあった。
お目当ての1つであるタワー・オブ・テラ-に乗り、沙織と真琴君とミキは楽しそうにキャッキャッ…と話してる。
流石に優希さんもその中には入れず、俺達の側で「怖かった~。ディズニーの絶叫系だからって甘くみてた~」
乗った事を少し後悔してる口振りだった。
「優希。次は、ほのぼのとしたのに乗るか?それとも少し歩きながらショップでも見るか?」
龍臣はそんな優希さんの事を気使い労ってた。
それをキッカケに、キャッキャッ…言ってる3人に話し掛けた。
「優希さん達はゆっくりするらしいから。ここで別行動しようぜ。ミキ、行こう! じゃあな!」
ミキの腕を掴んで歩き始めた。
「あ、じゃあ。また後でね~」
他の奴らに手を振り暫くして歩きながら俺を見た。
「伊織さん、そんなに急いで別行動しなくっても」
「俺は一刻も早くミキと2人で回りたかったんだ!あのままじゃ、いつまでも別行動出来ないだろ?ミキは俺と2人で回りたく無かったのか?」
掴んでた手を解かれた。
……早急過ぎたか?
まだ、皆んなと一緒に居たかったのか?
ニッコリ微笑んで、改めて俺の腕に自分の腕を絡め密着し、ミキから嬉しい一言が発せられた。
「皆んなと一緒も楽しかったですけど、俺も伊織さんと2人でも回りたかったです。だって~♪ 皆んなの前だとこんな事も恥ずかしくって出来ないもん」
ギュッと腕を絡め凭れ掛かる様に体をより一層密着してきた。
可愛い~♪
やはり2人っきりになって正解だ!
よ~し! 遠慮せずにイチャイチャしてやる!
「次は?お姫様! どこでもお供しますよ」
クスクスクス……
「じゃあ~、ダッフィ-に会いたいわ♪ 連れてって下さる?王子様!」
ミキもノリノリだ。
「仰せのままに!」
2人とも姫と王子に成り切り2人の世界を楽しむ。
マップを見ながら目的地へ向かう。
ダッフィ-に会えるグリ-ンティングは行列になってた。
「ゲッ! こんなに行列出来てんのか?」
「そりゃ~そうですよ。だって~♪ダッフィ-に会えるのってシ-だけだもん。1時間位かな?」
「そんなに?」
「嫌?違う所に行く?」
楽しみにしてたミキは少し残念そうな顔になったのを見逃さなかった。
「いや、どこ行っても待つだろうしな。待ち時間もミキと一緒なら楽しい」
パァ~と明るくなり微笑む顔が素直過ぎて可愛い~。
「話してると時間経つのも早いしね。見て.見て。可愛い~♪」
ミキが指刺す方を見ると、ダッフィ-に関連した展示物が置いてあった。
待ち時間が長い為に飽きさせない工夫か。
ダッフィ-には興味が無いが、その展示物を見ながらミキの話しを聞いていた。
暫く経ちミキがドレスのポケットからスマホを取り出した。
「ポケットがあるのか?」
「はい。沙織さんが特別にリメイクしてくれた様です。スマホは持ってた方が良いって、ポケットから落ちない様にジッパーつきなんですよ~」
「俺達のズボンにも落ちない様にボタンになってた。凄い凝り性だな」
沙織の力の入りようがここでも解った。
「ポケットに関しては気配りですね。沙織さんの優しさです」
ゲッ! そんな気配り出来る奴が、自分が楽しみたいからって女装させるか?
ミキの人の良さと素直さが出てた。
「そうだな。沙織に感謝しないとな」
俺がそう話すと、ミキはふわりっと花が咲くように笑った。
笑顔が可愛い過ぎてヤバい!!
本当の貴族のお姫様のようだ!
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