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第618話
着物関係だけの展示会で、こじんまりしてるのか?と思ったが……。
「思ってたより、大々的なんだな」
割と広めの会場で、なかなか見応えありそうだと思った。
俺もアメリカ転勤前には、着物.陶芸.絵画.版画.彫金などの展示会は機会があれば良く行ってたなぁ。
そう言えば、盆栽も見に行った事があったが……どうも自然のメカニズムに反してるようで余り興味は惹かれなかったが……。
本当に久し振りだ。
ミキとは旅行で、その土地の美術館に行ったりはしてたが……東京でも ‘行こう.行こう’ と思ってたが……忘れてた。
「もう、明日が最終日だから余り人が居ませんね。これなら、ゆっくり見られますね」
「そうだな」
確かに、最終日が明日と言う事と俺達が着いたのが午後と言う事もあり人が疎らだった。
早速入り口付近で開催趣旨や着物の歴史の説明書きがあった。
「へえ~、仕事柄もあって解ってたつもりだったけど……改めて、着物の奥深さを知りました。勉強になりますね」
「そうだな」
それから会場の中を進んでいくと弥生時代から現代に至るまでの時代.時代の着物の写真がパネルで紹介してあり、その時代の着物の流行りや変化が見られた。
弥生時代や飛鳥時代にはまだ着物とは程遠いが、平安時代から着物の原点とも言うべき平安装束、そして江戸時代には今の着物が庶民にも普及していく過程が見られた。
10枚程の写真を1つ1つ感想を漏らしゆっくり眺めた。
それから3体程のマネキンに着物が着せられ、正装着物.晴着.袴とその下にはTVで反物ができるまでの過程と着付けが映像で流れていた。
手作業で絵を描き川で水洗いし乾かす手法も職人が少なくなり、今はインジェットを用いた製法か友禅を用いた製法が主になってる。
昔ながらの手法では時間も掛かるし値段が高く一般庶民では手が出ないし、着物を着る人が居ない現代では仕方ない。
ま、これも時代の流れだな。
その作業や着付けまで流れるTVの画面を暫くそこで立ち止り見ていた。
「厳しい仕事だ」
「本当ですね。だからこそ、いざって言う時には着物なんですかね?成人式や卒業式.結婚式.お葬式とか」
「そうだな。人生の節目や転機で気持ちを一新するのかもな。普段は洋服だからな、厳かな感じで気持ちが新たになるもんだ」
「そう考えるともっと着物が普及しても良いような」
「普段は動き難いし大変だからな。そこを考えていくのも、これからの俺達の課題だな」
「そうですね。また、勉強になりました」
本当に素直な性格は何でも素直に吸収するのがミキの強味だ。
以前に1人でこう言う展示会に来て居た時には黙って見て進んでたが、こうやって感想を言い合い話しながらって言うのも良いなぁ。
次に進むと浴衣がメインのブ-スだった。
こちらも着物同様にマネキンに着せていた。
浴衣の歴史と説明書きがあり、やはりTVで昔ながらの浴衣から現代のカラフルなプリント彩色の浴衣のショ-の模様と着付けが画面に流れていた。
2体のマネキンには昔からある白地に紺の古典柄と現代の鮮やかな彩りのブランド柄が着せられ浴衣の変革が解り易い。
「伊織さん、浴衣って平安時代に蒸し風呂に入る時の火傷しないように着た事が始まりなんですって。知ってました?」
「ああ、前に行った展示会で知った。それまでは、てっきり湯上りに着るもんだと思ってた。その時に汗を吸い取り風通しの良さで湯上りに着るようになったとか、就寝の時も着るようになった事もな。現代の旅館なんかはこれが名残なのかもな」
「俺もてっきり湯上りだと思ってました。昔、白地と紺地が多かったのって、白地は昼用で真夏でも涼しく過ごす為で、紺地は夜用で藍染の匂いを嫌う虫除けだったって~。凄いですよね~、エアコンも無い時代だから、暑い夏を過ごす為の知恵ですね。またまた、勉強になりました」
「ああ、俺も初めて知った時には、昔の人の知恵は凄いと感心したもんだ」
改めて昔の人の知恵の凄さが解った。
「今はそう言い事も関係無くデザインと華やかな浴衣が多いですね。やはり時代なんですね」
「そうだな、暮らしもエアコンが普及したり豊かになったからな。着物は着付けが大変だが浴衣の方が着易いしカラフルだし、艶やかな彩りでもっと若い人が着ても良さそうだがな。今じゃあ日本人より外国人の方が浴衣や着物を着て浅草を歩くのが流行りらしい」
「派手なプリント柄で華やかだから、浴衣の方が外国人受けしそうですもんね」
俺はミキの耳元でコソッと囁いた。
「俺はミキの浴衣姿が1番だな。また着て見せてくれよ」
夏の花火大会の日を思い出したらしく頬を染め小さく呟いた。
「……伊織さんがどうしてもって言うなら」
ここが展示会場じゃあなければ…少ないとは言え人は居る。
可愛いミキを抱きしめたいがグッと堪えた。
そんな俺の事には気付かずに自分で言って恥ずかしいのか?「次、行きますよ」とスタスタ…歩いて行く。
可愛い~な。
俺も頬を緩めミキの後を追った。
帯や帯留め.和柄ハンカチ.手拭い.風呂敷.草履.かんざし.髪飾りなど…着物関連の小物商品がずらっと並んであった。
TV画面には風呂敷の色々な包み方が流れていた。
じっくりと小物商品を見て周り、手拭いの所では素材.プリント柄.染め物など、やはり仕事柄興味は惹かれるようだ。
手に取り触り、近くに居るスタッフらしき人に話を聞いてた。
俺はその間に風呂敷包みのTV画面をジッと見ていた。
暫くすると、ミキが俺の隣に並び一緒に画面を見る。
「風呂敷って色んな使い方が有るんですね。鞄にもなるしお酒の包み方ってそう言う風にするんだ。柄に寄って包むと雰囲気が変わりますね」
「本当だな。風呂敷ってただ包むもんだと思ってたが奥深いな。布だからか?包み方も自由自在で何通りもの包み方があるって初めて知った」
「前にちょっとだけTVの情報番組で風呂敷の事をやってたんですけど、その時に柄の種類の多さと包み方も少しだけ実演してたけど……数分で終わってしまって残念に思ってたから、ここで見れて良かったです」
「ん、風呂敷なんて悪いが普段使う機会が無いからな俺も勉強になった」
こうして3時程ゆっくり見て、最後に実演で着付けをしてる所も見学し展示会を後にした。
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