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第623話

本当に、バカな事をしてる。 もう、帰って頭を冷やそう。 残りのカクテルを飲み干し、隣に座ってる人に断りを入れた。 「ごめんなさい。やっぱり帰ります。少し気分が悪いので……ごめんなさい。短い時間だったけど楽しかったです」 「そう。残念だけど…タクシーで帰るなら外まで送るよ」 「悪いですから」 「具合が悪いなら、その位はさせてくれ」 俺の嘘にも優しく接してくれ、それ以上は断れなかった。 それから俺の分も会計を済ませてくれ、一緒に席を立ち出口に向かった。 俺が具合が悪いって言った事もあり、支えるように腰に手を回して歩く。 俺達を睨む伊織さんの近くを無言で通り過ぎた。 ……そのまま店を出た。 ミキに何とか誤解を解こうと必死にあれこれ考え、取り敢えず隣の奴を何とかしないと……そう思い腕を組む手をどうにか離そうとしたり「離れろ!」「どっか行け!」と、散々言っても酔ってるのか?どこ吹く風で全然効果がない。 それでもミキの行動を逐一見てた俺はミキの隣に、優男風のエリ-トっぽい男が声を掛け隣に座った事にショックを受けた。 その内楽しそうに笑って話す2人に、嫉妬で怒りが込み上げずっと見てた。 もう隣の男どころじゃない。 無視しまくり、ミキ達を目を離さず見てた。 自分では睨んでるつもりは無かったが、嫉妬と怒りで自然に睨んでたようだ。 祐一がそんな俺に気が付いたのか?それとも仲を取り持つつもりなのか?ミキに何か話し掛けた。 ミキと目が合う。 遠くだが一瞬見つめあったと思う。 暫くすると、ミキとその男が立ち上がり俺の近くを通り過ぎ一緒に店を出たのを目で追ってた。 「おい! 良いのか?追わないと後悔するぞ!」 嫉妬と怒りで我を忘れてた俺は祐一の声でハッとなり直ぐに席を立つ。 「やだぁ~、どこ行くの~」 離れない男を渾身の力で引き剥がし「いい加減にしろ! 他の奴を見つけろ!」そう言い残し、急いでミキ達の後を追う。 カンカン……一段飛ばしに階段を登り地上に出た。 キョロキョロ…見渡すと10m先位の車道で、ミキと男がタクシーの横で立ち話をし、ミキが乗り込もうとしてた。 俺は走り男を突き飛ばしタクシーに乗り込んだ。 男は驚き何か言ってたが「恵比寿まで」と運転手に話すと直ぐにドアが閉まり出発した。 一瞬驚いた顔をしてたミキは直ぐにまた無表情に戻り「運転手さん、すみません。祐天寺に変更して下さい」と話す。 俺は直ぐに「いや、恵比寿で良い」と運転手に話す。 タクシー運転手は業を煮やし「恵比寿で良いですね」確認され「ああ、頼む」と改めて話した。 「ミキ、このまま帰すわけにはいかない。取り敢えず、俺の部屋に行く」 「………」 返事も何も無く外を見てるミキの無表情の顔が車窓に映っていた。 きちんと話させないと……誤解を解いて……俺の気持ちも話さないと…。 タクシーの中は静かで色々考えるのには充分だった。 タクシーを先に下りミキが下りるのを確認してマンションに入った。 エレベーターには俺達以外に1人居た事もあり無言だった。 先に部屋に入ってリビングに行き、話し合う気満々の俺はソファに座って待っていた。 リビングに遅れて入って来たミキは俺に目もくれずにそのまま俺の横を通り過ぎ客間に入って行った。 何だ?先に着替えるのか? 10分待ってもミキは出て来ない。 俺は客間の前で声を掛けた。 「ミキ」 「…………」 返事がない、まだ怒ってるのか? そう思いドアに手を掛けた。 ガチャガチャ… 鍵が閉まって開かない! 閉じ籠ったのに気が付いた。 ドンドン…ドアを叩き「ミキ、出て来い。話をしたい」と声を掛けても返事がなく、俺もどうする事もできないと出て来る事は諦めた。 「顔も見たくないのか?話しもしたくないのか?」 「……………」 返事しないか。 「それならそれで良いから、俺が話す事をそのまま聞いて欲しい」 物音もしない客間のドアを隔て話し始めた。 責めて聞いててくれ! 「何から話せば良いか。あの男とは本当に何でもないんだ! 誤解なんだ! ミキが男と去って気になり祐一に元彼と聞き更に気なった。それから2人の事がずっと気になり目が離せず、ミキ達に神経が集中して隣に男が座ってたのも気が付か無かった。店の中も騒然としてたし……俺が嫉妬で周りが見えて無かった、いや怒りもあったから尚更だ。何で?今更、別れた男と話す事があるのか?とか俺を置いて行った事にも。あの時は冷静さを失ってた」 「…………」 聞てる事を祈って、更に話し続けた。 「だから、俺の側に戻って来たミキに言われて、初めて隣の男の存在に気が付いた。誤解だと言おうとしたが……もう遅かった。男は何度言っても離れないしで身動き取れなかった。その事は俺が悪かった。済まない。何とかしようと躍起になってたら、ミキが男に声を掛けられ楽しそうに話し始めた事に……また嫉妬と怒りが込み上げてきた。隣の男の存在は無視し、ずっとまたミキ達を見てた、いや目が離せなかった。そして……ミキが男と俺の近くを無言で通り過ぎた事もショックで、目の前が暗くなり頭が真っ白になった。祐一に言われ、我を取り戻し焦ってミキ達を追った。これが全てだ。本当に何も無いし誤解だ。解ってくれたか?」 「…………」 俺の問いにも返事は無かった。 「このままじゃいけないと話し合うつもりだったが……明日にしよう。そこに客間用の布団があるから使ってくれ」 「…………」 「おやすみ。愛してる」 「…………」 返事は無い……か。 客間から離れ、寝室に行き毛布を手に取り 「こいつも連れて行くか」 寝室に置いてあったミニ-の縫いぐるみも持ち寝室を出て、また客間に戻った。 ミニ-を抱き毛布に包巻い客間のドアに凭れ座り、今日はここで寝る事にした。 ミキが部屋を出て帰ってしまう事はないとは思うが……それよりミキの側に居たかった。 「今日はミキの代わりな」 前にミキがミッキ-を ‘伊織さんだと思って、寂しい時は抱っこして寝る’ と言ったのを、ミニ-を見て思い出したからだ。 あの時は可愛い~な♪としか思わなかったが、今の俺ならミキが言ってた気持ちが解る。 ギュッと抱きしめ顔を埋め目を閉じた。 伊織さんが立ち去ったのが解った。 俺は客間の毛布を取り出し、ドアに凭れ毛布に包巻い座った。 伊織さんが話してた事は嘘がないと感じた。 それを聞いて、俺は勝手に誤解して勘違いして怒って.悲しくなり.寂しさも感じて、バカな事をした。 当て付けてると思って……そんな事、伊織さんがするわけないのに……。 タクシーに乗り、徐々に冷静になってそう思った。 腹いせに俺も同じようにしようとした……俺、性格悪い。 伊織さんの話しを聞いて、反省し落ち込んで何も言えなかった。 冷静になったつもりでも顔を見て話し合ったら、また、あの状況を思い出して酷い言葉を言ってしまいそうで、今日は話しをしたくなかったから直ぐに客間に篭った。 話しを聞く前は……あの時はイチャイチャしてると思い込んでたから……。 伊織さん、ごめんね。 今日だけ許して……明日には、きちんと俺の気持ちも話すから。 ドアに凭れ、毛布に顔を埋め目を閉じた。 ドア越しに、お互い毛布に包巻い寝てた事は解らずに居た。

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