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第638話 番外編
あれから1週間経つが、朱音さんからは何の音沙汰も無く田口さんはもちろん俺ももう終わった事だと思って居た。
昨日の夜に電話で、今日の夜に田口さんの部屋で夕飯を食べる約束をしていた。
俺は夕方に会社に戻ると、田口さんも香坂も既に会社に戻って居た。
「お疲れ様です」
「お疲れ。香坂、早かったのか?」
「昼過ぎに戻りました」
「そう、田口さんは?」
「俺は、さっき戻った所だ」
「皆んな揃うなんて久し振りですね。いつも誰か居なかったりしてましたから」
「そうだな。事務処理しないと…上野さんに怒られる」
「お前なぁ~。経費は早く纏めておけって、いつも言ってるだろ?上野さんに迷惑掛けるな」
「は~い」
「返事は短く!」
「はい! すみません。直ぐに処理します」
「ったく! 仕方ねぇ~奴」
いつもの俺と田口さんの遣り取りを香坂が笑って見ているのもいつもの光景だ。
それから俺は事務処理をしたりパソコンで仕事したりと、就業時間まで過ごす。
今日は田口さんと夕飯食べるんだ~♪
あとちょっとだから頑張ね~と。
田口さんを見ると、真剣にパソコンと睨めっこしてた
仕事してる姿もカッコいい~♪
よ~し! 俺も頑張って終わらせね~と。
電話で対応してる香坂の声.田口さんのパソコンを打つ音.俺の電卓叩く音。
就業時間間際に内線が鳴った。
「田口さん、受付に八木さんって方がいらしゃってるようですけど。今、内線回しますね」
「えっ! ああ、回してくれ」
香坂が出て田口さんに内線を回した。
八木?……朱音さん?
何で朱音さんが?
また、田口さんに会いに来たのか?
……解らない……この間で終わったんじゃ……。
「解りました。今、下に降りますから待ってて貰って下さい」
田口さんは受付の人に言ったのを、聞き逃さなかった
「ちょっと、知合いが下に来てるから」
香坂と俺に断りを入れ席を外した。
俺も直ぐにトイレに行く振りをして階段で下に降りた
はぁはぁはぁ……余り目立たない所からフロアを見回したが、田口さんと朱音さんの姿は無かった。
広くもないから見逃すはずはない。
会社の外か?
自動ドアを抜け外に出てキョロキョロ見回すと、会社の敷地内の目立たない所に2人向き合って話してた。
それから……朱音さんは田口さんに抱きつき涙を流してた。
田口さんもそっと抱きしめ背中を摩って居た。
……田口さん。
俺はもう見てられなくって、そっとその場を離れ丁度下りてきたエレベ-タ-に乗り課に戻った。
そのままパソコン画面を見ながら仕事をやってる振りをしてた。
それから10分程で田口さんからLineがきた。
♪ピロ~ン…
♪*悪い。今日の夕飯キャンセルで頼む。朱音が会社に来て、相当参ってるようだから話しだけ聞く。今回だけだから。悪いな♪*
やっぱり……。
俺はそうなるんじゃないか?って思ってた。
俺より朱音さんを優先にした……でも、参ってる朱音さんを見捨てられないのも解る。
♪*了解です。この埋め合わせはステ-キでお願いします♪*
どうせ俺の落胆してる顔は見えないからと、文章は飽くまで明るくして返信した。
たぶん、下のフロアからLineしてるんだろうな。
もう少しで戻って来る……普段通りに……。
俺のLineを既読して、数分後に田口さんが課に戻ってきた。
デスクの上を片付けながら、俺と香坂に「悪い。今日は先に上がらせて貰うな」と話し「就業時間は過ぎてますし用事があるなら大丈夫ですよ。お疲れ様です」と香坂らしく話す。
「お疲れ様です」と、俺にしては口数が少なく話すと田口さんと目が合った。
田口さんは ‘悪いな’ って顔をし、そのまま鞄を持ち帰って行った。
朱音さんを待たせてたのか?
田口さんが急いで出て言った後ろ姿を見て、そのままご飯でも食べて話を聞くんだろうな。
田口さんならそうすると思った。
……予定無くなったな。
気持ちが落胆してた所為もあり、仕事に身も入らず捗らなかった。
上野さんに渡す経費精算は終わってるし、このまま仕事しててもなぁ~。
あ~気分転換してぇ~。
「香坂、まだ仕事おわんない?」
「ん~もう少し掛かります。先に帰って良いですよ」
香坂誘って飯でも行こうと思ったけど……だめか。
グダグタ…それから20分程何となく仕事をして、部屋に帰るのを遅らせてた。
部屋に帰っても……田口さん達の事を考えてしまう。
時間を潰してると俺のスマホが鳴った。
田口さん?
画面を見ずに直ぐに電話に出た。
「もしもし」
「あ~俺。山脇だけど、これから飲みに来ない?1人来れなくなっちゃって」
飲みにと言いながらも合コンの誘いだと解ってた。
俺は直ぐに断ったが山脇もしつこく誘う。
俺は山脇の電話を保留にして香坂に話しを振った。
「なあ、香坂。友達が1人来れなくてなったらしく、お前行けない?」
「え~無理です」
さっきも仕事残ってるって言ってたしなぁ~。
山脇には俺も何度もメンツが足りない時に頼んでた事もあり断り辛かった。
「じゃあさあ。俺と一緒に行くってのは?」
責めて、香坂も一緒ならと思ったが「無理です!」香坂にしては、はっきりと断ってきた。
やっぱ無理か。
チラッと、田口さんの綺麗に片付いてるデスクを見た
ん~1次会だけなら……良いか。
田口さんも朱音さんと会ってるし……。
正直、気分転換もしたかった。
「ん~じゃあ、1次会だけな。麻布十番のフォルトゥ-ナか。解る.解る。ちゃんと行くって。でも、今回だけな」
「oxoxox…… oxoxoxox…… oxoxoxoxoxox」
「しつこいなぁ~。行くから、じゃあな」
断り切れずに行く事にし、電話を切った。
「田口さん、これから合コンですか?」
「何度も断ったんだけどな。どうしても1人足りないんだと。で、落としたい子が居るから協力してくれって。俺も何度も頼んだ事あるし今回だけ。盛り上げてやれば顔も立つだろ~から」
「友達思いなんですね。余り飲み過ぎて羽目外さないで下さいね」
「お前は俺の彼女か?母親か?」
素直で優しい香坂は俺を気遣うが、嬉しい癖に照れておチャラけて言った。
「佐藤さんは危なっかしいから心配なんです。彼女になる人は大変ですよ。ずっと、目が離せないから」
そんな事も無い、現に今……目を離されてるし…自虐的な事を思ったが香坂にはいつも通りの俺で返した。
「そんなに魅力的?」
「んもう、バカな事言ってないで、お友達待ってるんでしょ?」
「そうだった。早く行かないとドタキャンか?と、また電話掛かってくる。じゃあ、先に帰るな」
適当にデスクの上を片付けて会社を出た。
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