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第712話
「ふう~~」
仕事を終え部屋に帰りソファにドサっと座り、ネクタイの結び目を緩めた。
シ~ンと静まり返る部屋は……寂しさと冷たさを感じた。
「ミキが居ないと、こんなにも違うもんなんだなぁ~」
帰って来た時には、部屋の中は明るく良い匂いが立ち込め「お帰りなさい♪お疲れ様でした♪」と1日の労いの言葉をくれる。
今日は暗い部屋に帰り、その言葉を発してくれる人は居ない。
それと言うのも夏季休暇明けて数日経った今日、沙織達とおやじの店で久し振りに集まる事になってた。
同棲してからも沙織達とは時々会って遅くなる時は確かにあったりもしたが、ここ暫くは沙織も結婚しその頻度は前程では無くなってた事もあり、久し振りにこの寂しさを味わってた。
もうすっかりこの部屋も、俺同様にミキ無しでは考えられなくなってるな。
ミキがこの部屋の住人として馴染んでる事に嬉しさを感じた。
「さてと、こうしてても仕方ねーし。飯食べて風呂にでも入るかな」
誰からも返事が返らないのに独り言を口にした。
今日の俺の夕飯を考え、昨日の夕飯に多めに作ってくれたカレーを温め1人寂しく夕飯にした
何となくTVを点けソファで食べ始めた。
今頃は土産も渡し終えて、沙織達に旅行の事を根掘り葉掘り聞かれてるんだろうな。
何だかあたふたしてるミキの姿が想像つくな。
フッと、会社での事を思い出した。
あれは夏季休暇明けの会社に行った朝だった。
朝礼が終了し、田口と佐藤と一応ミキにも旅行の土産と言う事でドライマンゴーフルーツを手渡した。
俺は「要らないだろ?」と言ったが「日焼けした伊織さんの姿を見れば、どこかに旅行に行ったのかは、一目瞭然ですよ。お土産位無いとケチな上司だと思われます」と力説され、そんなもんかな?と思い了承し、出勤前にミキから手渡すように土産を待たされてた。
「すみません、ありがたく頂戴ます」
「あっ! ありがとうございます」
田口とミキは素直に受け取ったが
「ありがとうございます。どこに旅行行って来たんですか?ドライマンゴーなら南の島ですか?」
余計な事を聞く佐藤に簡素的に応えた。
「ああ、セブ島にな」
「やっぱり! 課長、日焼けしてるから絶対どこか南の島に行って来たんだと思ってました。良いな~.良いな~。彼女とですよね?」
これ以上詮索されたら堪らないと「まあな」と今度は素っ気なく言って自席に戻り仕事を始めた。
佐藤はまだ色々言ってたが、俺が相手にしないと解ると田口とミキに話し掛けてた。
「彼女と南の島か~~。良いなぁ~~」
「課長が誰と旅行に行こうが良いだろ?でも、日焼けして男っぷりがまた上がったな」
「ですよね~~。また女子社員の人気が上がりますね。キャ~! 日焼けしてる成宮課長もステキ‼︎とか絶対に言ってますよ」
俺を揶揄ってるのか?
こう言うのは無視するに限ると俺は聞こえない振りをし仕事をしてた。
そんな2人の話題を変えようとミキが話す。
「でも、田口さんと佐藤さんも日焼けしてるじゃないですか?どこかに行ったんですか?」
「えっと…プールと海に。近場だけどな」
「俺も」
「え~~! もしかして2人で行ったとか?」
「…ああ、佐藤が暇だって連絡あってな」
「そうそう。俺が言い出しっぺ」
「休み中も一緒なんて仲が良いですね。そう言えば、仕事帰りも良く2人でご飯食べに行ってますよね?」
「実家にも帰省したし、佐藤が ‘誰も遊ぶ相手居ない~~’ って、煩く連絡寄越したからな。あとは仕事帰りは偶々時間があった時に行くけど、香坂を誘うつもりで居てもサッサと帰っちまうだろ?」
「そうだよ.そうだよ。香坂こそサッサと帰ってさ彼女出来たんじゃないのか?」
話題を変えたつもりが反撃に遭ったようだ。
「彼女なんて…居ませんよ。偶々、友達との予定が……」
「本当か?」
「先輩を差し終えて、こっそり彼女作ったら承知しないぞ。彼女出来たら言えよ」
「…はい」
あたふたとしてるミキを見兼ねて、俺は助け船を出した。
「おい! そろそろ仕事しろよ。休み気分はそこまで!」
「す.すみません」
「すみませんでした」
「仕事しようっと」
ミキを見るとホッとして、俺に ‘ありがとう’ と
アイコンタクトを送って来た。
あの、あたふたとしてるミキも可愛いかったが、やはり、今日も沙織達に質問攻めに合ってるのかも知れないなぁ~。
想像すると頬が緩む。
食事が済めばする事も特に無いと風呂に入り、缶ビールを飲みながらミキを待つ事にした。
22時を過ぎた頃に「ただいま~~」と、玄関から声がした。
リビングに入って来たミキを「お帰り~」と、ソファから出迎えるとキッチンに行き水のペットボトルを持ち俺の横に座った。
ゴクゴク…喉を鳴らし水を飲む姿に、結構飲んだのか?と思った。
「楽しかったか?帰りは?」
「楽しかったです♪帰りは、沙織さんが矢島さんを呼んでくれてマコと俺を送ってくれました。優希さんは迎えの車に乗って帰りましたよ~♪そうだ! お土産貰いました♪」
紙袋から、お菓子が2つ出てきた。
「これがマコ達からで草津温泉に行って来たみたいです。1泊だけど楽しかった♪って、マコ凄く喜んでました。あとは…こっちが優希さん達からで北海道に行って来たって言ってました」
温泉饅頭に北海道定番の白い恋人…か。
「沙織達は?」
「沙織さん達は新婚旅行に行ったばかりだし、結婚式や新婚旅行でお金使ったから、今回はお互いの実家に遊びに行ったりしたらしいです」
それから集まって話した内容を聞かせてくれた。
楽しそうに良く喋るミキを見て、やはり結構飲んだなと思った。
沙織も多少は心配になり、俺に文句言われる事を考え矢島君に送らせたんだろうな。
「そうか。久し振りだから結構飲んだか?」
「ん~~、楽しかったから~~。ちょっと飲み過ぎたかも…」
「ま、明日は休みだしな。風呂には入れるか?」
もう少し酔いが覚めてからの方が良いか?
そう思い、もう少し話しをする事にした。
「皆んなそれぞれ楽しい夏季休暇だったって訳だな」
「そうみたい! 俺も凄く楽しい旅行だったから、皆んなも楽しく過ごせてたんだと思ったら、嬉しくなりました」
自分だけじゃなく人の事まで心配するのはミキの優しさだな。
特に、真琴君が1泊でも旅行に行けた事が嬉しかったんだろう。
真琴君が嬉しそうに話す顔を見てミキの方が嬉しくなったんだろうな。
ミキらしい。
「伊織さんはお風呂入ったの?良い匂いがします」
ピタっと体を寄せ、俺の首筋や髪の匂いを嗅ぐ。
くすぐって~~。
酔いもあってか?甘えるような仕草が嬉しい。
「あっ‼︎」
急に思い経ったように唐突に声を上げ、隣に座り直したミキの声に俺の方が驚く。
「どうした?」
ミキは暫く俯き考え、俺の方をチロリ…と見て様子を伺いながら話し始めた。
「あの~~……怒らないで聞いて欲しいんですけど…」
この様子なら俺が機嫌悪くなる様な事なんだろうと想像がつくが素知らぬ顔をした。
「怒るかどうかは聞いてみないと、解らない」
またチロリ…と横目で見て
「…話しの流れで……つい…来週の花火大会に行く事を言っちゃって……」
はあ~~⁉︎
また、何で話すかなぁ~~!
もうあとは聞かずとも解る。
少し機嫌悪く低い声で話す。
「どうせ、一緒に行きたいとかって話になったんだろう‼︎」
「えっ! どうして解ったんですか~~。伊織さん、凄い‼︎」
沙織や真琴君が言い出しそうな事だ。
俺としては2人で行きたい‼︎
それに去年と一緒で、ミキが女装する事も確約済みだし。
さて、どうしたもんやら。
俺はどう言って2人で行く方向に持ち込むか! 頭の中で瞬時に考えを巡らせてた。
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