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第721話
電話があった3日後の午後に受付から連絡があり取り敢えず、初めての商談相手と言う事で、俺自らエレベーター前で待ち会議室に通した。
第一印象はモテそうだなと思った。
一旦席を外し課に戻り、上野さんを探したが席に居なかった。
その時に内勤してたのは、ミキだけだった。
「香坂、上野さんは?」
自席でパソコンを打つ手を止め
「上野さんなら、経理に行きましたよ」
「ん~~、そうか。上野さんに、戻って来たら悪いが会議室にお茶持って来てくれる様に言ってくれるか?」
「お客様ですか?」
「まあな。これからどうなるか?解らないが、新規の商談だ。取り敢えず、話しを聞いてみる。じゃあ、頼むな」
「はい」
その時は、上野さんも直ぐに戻って来るだろうとミキに伝言を頼み、客を待たせてもいけないと直ぐに会議室に向かった。
会議室のソファに座り資料を見てた青年は、俺の登場にソファから立ち上がり改めてお辞儀をし挨拶した。
「今日は、お話聞いて下さりありがとうございます。私、IP企画のアメリカ支社の永瀬恭介と申します」
名刺を渡され、俺も名刺交換し座る様に促した。
取り敢えず、世間話で探りを入れた。
「アメリカ支社ですか。若いのに、アメリカは長いんですか?」
「大学卒業し現在の会社に就職し、1年は日本でその後はアメリカで現在に至ってます。我が社の教育方針の一貫で、入社後の若手を社内選考でアメリカ研修と言う形で、懇意にしてくれるアメリカのイベント会社の1員として、本場での実地研修を1年間と言う期間で行い、その後は本来なら日本に帰国するはずだったんです」
「それが、どうして帰国せずに?」
「私がアメリカ研修で学び得たものを、やはりアメリカの本場で研修と言う形じゃなく会社としても挑戦したいと考える様になり、研修の受け入れと日本との遣り取りだけのアメリカ事務所を、本格的に活動を広める為のアメリカ支社にする様に本社に掛け合い、立て直しと言いますか.立ち上げをし、起動に乗るまで2~3年掛かりました。今ではコンサート.イベントTV関係やパーティーなどアメリカで単独で受けたり共同で参加させて貰ったりできるまでになりました」
「凄いですね。若いのにしっかりしてる」
「私1人の力ではありません。その当時から、研修してた何人かの先輩や同僚達とで。それと、後輩達の良い刺激になると思い研修制度もそのままにしてます」
ここまで話して、若いのにしっかりとし自分の意見もはっきりと言い意欲もありリーダーとしての素質もあると好印象を持ち、向上心と意欲がある永瀬を部下に欲しいとも思った。
外見も第一印象通りイケメンの部類に入るだろう
男らしい顔つきで、それでいて清潔感があるのが爽やかさを感じる。
この外見で仕事も出来るなら、さぞや女にモテるだろうと思った。
「こちらが我が社のパンフレットと今回お話を聞いて頂く内容の資料になります。目を通して頂きますか?」
テーブルに今回の商談の資料を置き渡された。
目を通そうと資料を手にした時だった。
コンッ…コンッ…
上野さんか。
「入れ」
「失礼します」
声で、ミキだと解った。
まだ、上野さんは経理から戻って無いのか。
それで、ミキが気を利かせお茶出しをしてくれたようだ。
そう言う所がミキらしい。
「どうぞ」と、テーブルに2つお茶を置き立ち去ろうとするミキに労いの言葉を掛けた。
「香坂。ありがとう」
「いいえ。では、失礼しま…」
邪魔になってはいけないと思い、今度こそ立ち去ろうと、言葉を発した俺に被せる様に立ち上がり突然、腕を掴まれた。
「ん…香坂?……えっ! もしかしてミキ…か⁉︎」
急に腕を掴まれ、自分の名前を知ってる事に驚き顔を上げ見ると、そこには…もう会う事は無いと思ってた人が居て……驚きと同時に心臓がバクバク…ドキドキ…した。
「…先輩?……永瀬先輩…どうして?ここに」
頭が混乱し動揺してた。
「俺の方こそ聞きたいよ。ミキの勤めてる会社だったのか~、奇遇だな。ミキ、元気だったか?相変わらずマコと一緒か?」
昔と変わらない笑顔で話す先輩。
動揺してるのは俺だけ?
「はい。ここに勤めてます。マコも元気です」
2人の会話に、俺は堪らず話しの間に入った。
「香坂、知合いか?」
「あっ‼︎ はい。大学の先輩でサークルでお世話になりました」
成る程、大学の先輩後輩か。
サークルでって言う事は、道理で真琴君の事も知ってるわけだ。
だが……‘ミキ’と、こいつから出た言葉に、俺は嫌な予感がした。
信頼してる人や心を許した相手にしか呼ばせない事を知ってるからだ。
ただの先輩後輩では無いと……どう言う関係か?
気になる‼︎が、今は仕事中と考え顔には出さなかったが心穏やかでは無かった。
「すみません、つい懐かしくなってしまい。ミキ今度、ゆっくり話しでもしよう。飯でも食いながら」
「……はい…マコと一緒なら」
「マコも一緒で良い。また、連絡する。あとで、携帯の番号教えてくれ」
「…番号は変わってません」
「解った。連絡するから、近々マコと3人で飯に行こうな」
「はい。それでは失礼します」
暫く2人のやり取りを黙って聞いて居た。
そしてミキが会議室を出て行き、世間話でもするかのようにさり気なく永瀬に聞いてみた。
「大学の先輩後輩だったんですか。いや~世間は狭いですね」
「私も驚きました。入って来た時から、何となくミキに似てるなぁ~と思ってたので ‘香坂’ って聞いて、やっぱり…と。こんな所で会うとは、正直驚いてます」
本人は気が付いて無いかも知れないが ‘ミキ’と何度も言ってる事に。
それが凄く気になる。
「香坂の事、ミキと呼んでたんですか?可愛いらしいニックネームですね」
探りを入れる様で嫌だったが、聞かずには居られなかった。
「あれ?呼んでました。すみません、つい。大学の時から呼んでたので、顔を見て学生時代に戻ったのかも。気が付きませんでした」
無意識に呼んだってわけ…か。
「そう言うもんですかね」
少し嫌味だったか?
「すみませんでした。仕事の話しをしましょう」
仕事中だと思い直し、それからは本来来た目的の仕事の話しを始めた。
熱く話す永瀬はこの仕事が好きなんだと解る。
詳細を聞いて面白いとは思ったが……。
社内で検討し連絡すると言う事で、その日はお引き取り願った。
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