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第722話
「はあ~~」
ソファに座ると同時に溜息がついた。
1時間近く話しを聞き、そして永瀬をエレベーター前まで送り課に戻らず少し冷静になろうと会議室に戻った。
テーブルには、2つの湯飲み茶碗。
話しを聞いた限りでは、採算は余り見込めないが先の事を考えれば……赤字ギリギリの薄利でやれない事も無さそうだと判断出来る。
やり方次第だな。
これからは、そっち分野にも進出する良い機会でもある。
決断出来ない理由は……仕事絡みだとしても、ミキと会わせたく無いと言う個人的な理由があるからだ。
仕事とプライベートは別だと、頭では解ってるがやはり心中穏やかでは無い。
‘ミキ’ と親しげに呼ぶ……やはり、そう言う事か⁉︎
過去に付き合った相手だろうか?
だが、あの男からは男に興味がある様には感じられなかったが……隠れゲイだろうか。
ある程度、興味のある相手かどうかはゲイの俺にはそれとなく解るつもりだが。
女にモテるだろうし…わざわざ男に……だが、ミキの容姿や性格を知れば男であっても惚れない事も無い…か。
学生時代のミキは真琴君からの写メを見た限りでは美人だが、まだ微かに幼さも残り大輪の花開く前の蕾って感じだった。
今よりもっと中性的で、そこらの女より綺麗だったな。
今は幼さは無くなり、大人の雰囲気と色気が出てまるで人形の様に美しくなってるが……万が一、付き合ってたとしても……あの2人の雰囲気から昔の事だろうとは思う。
永瀬はアメリカに在中だし、距離的にも会う事は無かったはずだ。
そこまでは俺にも予想がつく。
俺の中で昔の事を聞いて良いものやら?と、昔に拘る男だと思われるのも…。
俺も本気では無かったとしても付き合ってた相手は居たし、それに周りが放って置かないミキの事だ、これまでに付き合ってた相手が居てもおかしくないことも頭では解ってる。
俺は付き合ってた相手が居ても浮気もしたし1夜の相手もいた、ミキに話せる様な恋愛遍歴では無いが……ミキはそう言う事が出来る訳が無い。
俺と付き合う前に荒れてた時があったとは祐一に聞いた事があるが、その後は落ち着いて付き合う相手とは真摯に付き合ってたと聞いた。
その荒れてた時期と関係あるのだろうか。
その位、本気の相手だったと言う事か⁉︎
頭の中で想像と疑問が混濁する。
「はあ~~」
ここで一人で考えても仕方ない。
やはり、今夜にでもミキの口から聞こう。
今までの経験上、お互い誤解がない様にしておく事が1番だ。
俺は頭を振り仕事モードに切り替え、会議室を出て課に戻る事にした。
「上野さん、すみません。会議室のお茶片付けて貰えますか?」
経理から戻り自席に居る上野さんに声を掛けた。
俺の声に、一瞬ミキの肩がビクッと動いたのは俺の見間違えか?
外回りから戻ってた田口に声を掛けた。
「田口、ちょっと打合せブースに」
「はい、解りました」
その時、ミキがパソコンから顔を上げ俺をチラッと見て目を伏せた。
目を逸らした?
気の所為か?
俺は心がざわざわ…したが、そのまま田口と打合せブースに向かった。
打合せブースの椅子に座り、先程貰った会社パンフレットと資料をテーブルに置いた。
「さっきまでIP企画の人と話してた。今回の仕事の資料だ。田口も目を通りしてくれ」
パラパラパラ……会社パンフレットと資料を見始めた田口に先程の先方と話した内容の要点を伝えた。
・アメリカでIP企画を含めた3社合同で音楽フェスイベントを開催すると言う事。
・1年前から企画し進めて来年の4月に初めてのイベントをすると言う事。
・今回うちの会社に訪問したのは、フェス来場者に記念品として粗品を渡す企画があり、日本的な商品を考えてる事。
それで、うちの会社に交渉と商談に来た事を話した。
「へえ~~、面白いですね」
田口もそう言う印象を持ったようだ。
「ただ、初めての音楽フェスで今回は1日で5000人規模にする予定らしい。まだ小規模の開催ではあるが毎年開催を目指し、後々は10万規模にしグッズやショップ展開していきたいらしい。今回は初めてと言う事もありアーティストとステージに赴きを置き、記念品として粗品を渡しグッズは無しと言う事だ」
「まあ~~最初は様子見でしょうし、どうなるか解りませんが、後々大規模なイベントになる事を考えれば…仕事を受けても良さそうですけど」
パラパラ…資料を見て話す田口と、大まかには俺も同じ意見だった。
「俺も先々を考えれば利益が出るとは思ってるがそれもどうなるか解らない。なんせ今年が初めての試みだしな」
「じゃあ、課長はこの話は蹴るんですか?」
少し残念そうな顔をみせる田口。
「どうやら他の会社にも打診したらしいが色良い返事は貰えなかったらしい。まあ、どうなるか先の見通しがつかないからな。俺としては…今回は薄利だが赤字にならない様に、多少でも利益でる方向で受けようかと思ってる。毎年開催するなら粗品やグッズ等の仕事に繋げられるしな。万が一今回限りになったとしても、お前達にも課としても良い経験になり、これからの仕事に何らかの形で生かせると思う。IP企画に関わらずにアメリカには音楽フェスは大小と多くある。今回の件で、アメリカ支社に粗品やグッズの商談営業させるのも良いか?と考えてる」
これから先の展開を俺なりに話すのを、田口は神妙な顔で聞いて居た。
「流石! 課長ですね。ただでは起きないですね。
そこまで先を考えてるなら、勉強にもなるし赤字出さない方向でやりましょう。やってみたいです」
良し‼︎
「それでだ。今回、初めての試みと言う事で…窓口担当は田口で良いか?勿論、俺も打合せには極力参加するが」
「私は構いませんが…日本的な粗品って考えた時には、浴衣や着物.手拭いなどの生地を生かすなら香坂だと思いますが…竹細工とか書道関係なら佐藤かと」
着物や浴衣生地を加工し粗品製作したり手拭い関係なら確かに担当のミキだろうが……初めての試みで責任やら…やはり個人的には仕事であってもミキと会わせたく無いのも本音だ。
ここは…少しは個人的な感情も入れさせて貰った
「竹細工はコストが掛かる。なるべくコストを掛けないで日本的な物を作りたい。そうなると手拭いが1番良さそうだが……責任なども考えて田口に任せたい」
「解りました。まだ、何を粗品に考えるか?は、解りませんがそっちの方向で香坂をサブで使います」
「ああ、そうしてくれ。後日、返事をする事にしてるが、明日にでも皆んなが時間ある時に話し粗品の件も意見を聞こう。じゃあ、この話は受ける事で良いな」
「はい。楽しくなりそうな仕事ですね」
「ま、将来大きく化けてくれればな」
こうして仕事を受ける事にした。
担当を田口にしたのは……責めての俺の細やかな抵抗と譲歩からだ。
田口との打合せを済ませ、自席で本来の仕事にかかった。
これで、この仕事は受ける事に決めた。
あとは…今日の夜にでもミキから話を聞こう。
それは、これから永瀬と仕事で対峙する為にも必要だと感じたからだ。
勿論、ミキの今の気持ちを疑う事は無い。
それだけミキとのこれまでの付き合いの中で強い絆があると自負してるからだ。
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