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第723話

さて、何と言って話しを切り出そうか。 それとも、ミキから話してくるまで待つべきか。 ……たぶん…俺の予想では付き合ってたと思う。 でも…今となっては昔の話だろう。 俺から聞いて……誤魔化したり嘘をついたらショックだな。 ミキに限って、それは無いか。 問いただしたり攻める様な言い方はしないように気をつけないとな。 やはりタイミングと言い方か。 玄関先ドアの前まで、ずっとその事を考えてた。 良し‼︎ 取り敢えず、ミキからの出方を見て話してこないようなら、さらりと重くならないように聞いてみるか。 そう決め、玄関ドアを開けた。 「ただいま~」 リビングに入って行くと、いつものように良い匂いが漂う。 「お帰りなさい。もう直ぐ夕飯出来ますから、先にお風呂入って下さいね」 「解った。ミキは入ったのか?」 「俺は、先に入りました」 「そうか」 いつもと変わらない会話をし、寝室に行き着替え浴室に向かった。 シャワーを浴び湯船に浸かり寛ぐ。 ミキの雰囲気からは、いつもと変わらない。 やはり、別に昔の事だと波風立てないように話すつもりはないのか? それとも、俺が帰って早々その話しをするのも…と思ってるのかも知れない。 ん~~どうしたものやら。 悩んだ末に食事の時は聞くのは止め、その後のミキの出方で俺から話すかどうか決める事にした。 そして俺は浴室を出て、ミキが待ってるダイニングへと向かった。 今日も美味そうな食事が並んでる。 それもいつもの事。 食事をしながら ‘美味い.美味い’と言い食べる俺をにこにこ笑って見てるのもいつもの食卓風景だ。 夕飯を済ませ後に片付けを終えたミキは、リビングのソファに座りTVを見てる俺の前にコーヒーを手渡す。 これもいつもの光景だ。 何もかもが変わらない。 俺の隣にミキもコーヒーを持ち座った。 暫くの沈黙の後に、ミキから切り出してきた。 「あの~、伊織さん……」 「何だ?」 あの話しだろうか? ミキから話してくれるのか? そうだったら…俺は嬉しいが。 「今日…会議室でお茶出した時に……あの時にも言いましたが、大学の先輩でサークルでお世話になったと言うか.仲良くしてもらってた先輩なんです。マコも一緒のサークルで先輩の事は知ってます」 同じ大学でサークルで仲良くして貰った先輩……か。 嘘では無いが、誤魔化してるようにも聞こえた。 「ああ、あの時にも同じ大学の先輩後輩だと言ってたな」 「…はい………その…仲良くして貰ってたのは、本当です………でも……あの……その内に……付き合うように……なりました。サークルに入って1年近く経った時かな。先輩に告白されて」 言い難そうだが、ぽつりぽつり…正直に話してくれた事に安堵した。 ミキの中では、今は何とも思ってない終わった事.昔の事だと、そう言う気持ちで俺に話してくれてると思った。 「正直に話してくれて、ありがとう。実は…俺もそうじゃないか?と思ってた。永瀬が無意識に ‘ミキ’ と口走った事でな。ただの仲良い先輩後輩ではないだろうと」 「そう呼んでたのは…気が付きませんでした」 それは気が動転してたからか? それとも……あいつにそう呼ばれる事に慣れてるからか? よせ! 変に疑うのは止めよう。 こんな事で疑うと全てが疑心暗鬼になってしまう ミキが正直に話してくれた事で、疑う余地など無いはずだ。 「伊織さん…先輩とは……先輩がアメリカ研修に渡米してから今日まで会ってません。それは本当です」 「聞いて良いか?なぜ、別れた?やはり遠距離が原因か?」 「別れた理由は…俺にも解りません。先輩が大学3年の終わりに告白されて、社会人になっても1年位は付き合ってました。お互い学生の時程頻繁には会えなくっても週1~2位で会ってました……。アメリカ研修制度で社内で選ばれるように仕事を頑張ってたのも知ってました……大学時代から、出来れば海外でも仕事してみたいと言ってたので俺も応援してました」 大学3年から社会人1年辺りまでか。 2年か2年半位の付き合いか。 前に、祐一が付き合っても3ヶ月か半年のスパンだと聞いてたが……そう考えると長いな。 それくらいお互い本気だったと言う事か。 「それで?」 「無事にアメリカ研修選考に選ばれて、先輩も俺も喜びました。先輩の夢が1つ叶ったと嬉しかった。当初は1年の予定だったので、アメリカと日本で距離はあるけど…先輩となら離れても遠距離でも大丈夫と……その時の俺は信じてました……でも、アメリカに行ってから最初の1~2ヶ月はたまに電話してメールは毎日してました……3ヶ月位経った時に……突然電話に出なくなりメールも返信が無くなり……最初は忙しいのか?とメールも日にちを置きしたり電話も留守電に入れたりしてました……でも、待っても待っても音信不通で……その内…俺は何も解らなくってパニックになりました。それでも信じて……電話やメールする回数を減らしても連絡したいとか少しでも繋がって居たいとか思ってましたが……何も返ってこない音信不通の状態に……精神的に参って……今度は電話やメールするのが怖くなって……自然消滅って事なんですかね。別れた原因は…未だに俺にも解りません」 自然消滅……はっきりと別れの言葉が無かったって事か。 それは引き攣るよな。 それでか、一時荒れてた時があったと祐一が言ってたな……原因はこれか。 「遠距離はダメですね。好きな相手が側に居て笑ったり喧嘩したり泣いたりお互いの気持ちが見える距離に居ないと…片方だけが信じてても続かないと思いました」 ミキの話しを聞いて、今は昔話のように話してる事に安堵した。 そして俺と付き合った当初に ‘離れないで、ずっと側に居て下さい’ 何度も確認された事や ’皆んな俺から離れて行く’と、辛そうに話してた事を思い出した。 てっきり亡くなった家族の事だと思ってた…いやそれもあるだろうが、信じてた永瀬の事も含まれてたんだろう。 やはり、その当時のミキの永瀬への本気度が解った。 「俺はミキを離さない‼︎ 何があっても側に居ると誓う。俺の方がミキ無しの生活は考えられない」 これまでも何度も言った台詞だが、ミキの話しを聞いて改めて誓うようにミキの両肩を掴み目を見つめ真剣な面持ちでミキに伝わるように話す。 「誤解無いように話しておきたかった。もう一度本気で人を好きになれたのは伊織さんだからです この人なら信頼して信じていけるって思わせてくれました。俺は伊織さんを愛してます!」 あ~~、その言葉だけで充分だ‼︎ 俺の心に響いた。 「俺も愛してる‼︎ 絶対に離さない‼︎」 ガバッとミキの体を強く抱きしめた。 ミキが正直に話してくれた事で、心にあった少しの蟠りが消えていった。

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