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第726話

等々、この日が来た。 突然の再会から今日まで先輩からの連絡も無く、仕事の打合せで会うのはあれから2度目になる。 何だか朝からソワソワ…し、落ち着きたかったから午前中は外回りをし午後に帰社した。 時間が経つに連れ、ソワソワ…からドキドキ…に気持ちが変わってきた。 時間になり先輩を待つ為に、伊織さんを始め田口さん.佐藤さんと4人で、伊織さんから渡された資料を会議室の中で目を通し待ってた。 コン.コン…… 会議室のドアがノックされ……ドキドキ…が大きくなった。 平静を装い資料から目を離さないで居ると、上野さんから先輩の来客を伝える声が聞こえた。 「IP企画の永瀬さんがいらっしゃいました」 「済まない。通してくれ」 「はい。どうぞ、こちらです」 ドキドキ…ドキドキ…… 「すみません。ありがとうございます」 上野さんにお礼を言い会議室に入って来た。 「この度は、ありがとうございます。IP企画の永瀬と申します。宜しくお願いします」 堂々と張りのある声に懐かしく思った。 俺はそこで初めて資料から目を離し、先輩の姿を見た。 先輩と目が合い、俺に微笑み掛けられた。  ドキッ‼︎ 懐かしい笑顔に……。 「ご足労願って申し訳ない。まずは、うちの課の者を紹介しよう」 「今回、貴社との窓口になる田口だ」 「宜しくお願いします。お互い色々話し合って良い物を作りましょう」 田口さんが席を立ち挨拶した。 「次は、全体のサポートをしてくれる佐藤」 「先々に繋がる仕事になるようサポートします。 宜しくお願いします。佐渡です」 佐藤さんも立ち上がり挨拶した。 「業社との窓口になる香坂」 「宜しくお願いします。香坂です」 俺も立ち上がり挨拶する。 普通に話せたかな? どこかおかしく無かったか? ドキドキ…してた。 「うちの課はこれで全員です。人数は少ないですが少数精鋭って事で。改めて、今回うちに企画を持ってきたIP企画の永瀬さんだ」 「IP企画の永瀬です。今回は協力して頂き、本当にありがとうございます。初めての試みですが、アメリカ支社では切望しずっと念願だった企画です。是が非でも、必ず成功し将来に繋げます」 決意が顔に表れキリっとし自信ある声で話す。 変わらないな。 サークルの時も困難に立ち向かいリーダーシップを発揮してた。 先輩の ‘大丈夫。俺に着いて来い’ 的な自信がある声に皆んなも安心してたっけ。 でも、あの時よりもっと経験を積んで大人になった気がする。 懐かしさと自信溢れる目の前の先輩の事を考えてた時に、伊織さんの声にハッとした。 「さて、挨拶も済んだし本来の仕事の話しをしよう。永瀬さんも座って下さい」 「はい。失礼します」 座る前に、俺をチラッと見た気がした。 気のせい? 「IP企画さんから今回の話しがきて吟味した結果受ける事にしました。それから課でミーティングをし、大まかな所まで詰めました。資料にしましたから目を通して下さい」 「はい、ありがとうございます」 資料を受け取りパラパラ…真剣な目で先輩は見て 一呼吸し、資料をテーブルに置き笑顔を見せた。 「ここまで進めてくれて、ありがとうございます本来は、こちらから提案書を持ってくるべき所ですが、金額も金額なので……見合う物が、どんな物か見当もつきませんでした。それで今日は話し合って聞こうと思いノープランで来てしまいました。大変、助かります」 「ある程度決まってた方が話が進むかと思い、こちらから勝手な提案ですが、いかがですか?」 俺達は伊織さんと先輩のやりとりを黙って聞いて居た。 「私共としては申し分無い提案です。出来れば、タオルかハンドタオルもしくわリストバンド辺りを考えてましたが、手拭いとは考えも尽きませんでした。日本的で良い! 外国人受けすると思います」 「それは良かった。それでは記念日(粗品)は、手拭いでいきましょう。それでプリントの方は?」 資料には、富士山.侍.忍者.芸者.神社が例として挙げられてるけど……何を選ぶのかな。 それとも漢字でプリントかな。 先輩は悩んでるようだった。 「直ぐには決められないのであれば、1度持ち帰って社内で検討して下さって良いですよ。あくまでも日本的なものを例に挙げてます。他にも何か良いものがあれば提案して下さい」 伊織さんがそう話す。 「いや、この例にあるものの中から選ぼうと思っていますが、どれも良いので悩んで……。会社からは、私が一任されてますから」 それ程、信頼され責任ある仕事を任されてるって事なんだ。 やっぱり先輩は凄い。 それから少し考えてたようだ。 「そうですね~。富士山か忍者で迷ってます…… ん~~、どっちも捨てがたいが……やはり…富士山にします‼︎ 侍も忍者も芸者も外国人には人気なんですが、初回のフェスって言う事で日本を代表する富士山にします‼︎」 富士山か。 雄大で高みを目指す感じで、念願のフェスに対しての意気込みも伝わる。 そう言う所も先輩らしい。 「解りました。プリント画は、次回に田口との打合せまでには何枚か用意します。そこから選んで下さい」 「すみません、何から何まで。それで1点だけ良いですか?」 「はい?」 「このプリントは水墨画風と言う事は黒墨で?と言うことですよね?他に、色はつけられませんか?シンプル過ぎるかと…外国人は派手な方が目につきやすいので」 「言い難いですが、金額が金額なので我が社としても赤字では仕事はしません。赤字ギリギリの利薄でも一応利益は出せないと上の許可は下りません。ですから、プリント画で水墨画風が精一杯です。うちの課としては将来を見越して、今回仕事を受けてますので申し訳ないですが、そこは譲れません。そこが無理なら、今回の話しは無しと言う事になります」 やはり伊織さんは凄い! 言うべき事をはっきり言い仕事をする上で優位に持っていく。 仕事の面ではシビアで駆け引きも……流石だ‼︎ 改めて、上司として尊敬した。 「解りました。こちらも無理な頼み事は重々承知してます……貴社の提案で良いです。今回は…妥協し……必ず、来年.再来年と色を増やしていくと言う目標が出来ました」 ポジティブ思考は…変わってない。 先輩らしい。 「こちらもそう願ってます。それと、こちらからも1つ。商品の出荷ですが、弊社のアメリカ支社への出荷と一緒に送ります。その方が経費が抑えられます。アメリカ支社には月1~2で纏めて出荷してますから」 「フェスは4月を予定してますので、間に合えばこちらは構いません」 伊織さんと先輩のやり取りを、俺達は黙って聞いて居た。 「それでは、今回は顔合わせと大まかな打合せと言う事で。今後は田口が窓口になりますから、次回の打合せ日時を決めて下さい。田口、頼むな」 「はい」 「じゃあ、そう言う事で今日はここまで」 「今日はありがとうございます。これから宜しく頼みます」 先輩が立ち上がり、改めて話す。 そして小1時間程で打合せは終わった。 田口さんと先輩が次の打合せの日時を話し合ってた。 伊織さんは席を立たずに資料に何か書いてる。 俺と佐藤さんはここに居ても仕方ないと、席を立ち会議室を出ようとした、その時。 「ミ…香坂!」 俺を呼ぶ先輩の声に振り向いた。

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