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第728話

「ミキ~~♪」 金曜の夜に、俺の会社の最寄り駅で待合せしてたマコが俺を見つけ手を振ってる姿を見て、俺も手を振り返し小走りでマコの側に行く。 「ごめん! ちょっと遅れた~~」 「大丈夫だよ。先輩との待合せには、充分時間あるし。じゃあ、行こっか?」 「うん」 並び歩き駅の改札口に向かい、先輩との待合せ場所まで電車に乗った。 混む電車の中で、横並びに吊革に捕まり小声で話してた。 「マコ、無理言ってごめんね」 「大丈夫だよ。ミキ1人では行かせられないよ。それにしても奇遇だね、まさか仕事で会うなんて」 「うん。俺もびっくりしたよ」 「でも先輩さぁ~、今更ミキをご飯に誘うなんて 何だか…僕としては納得いかないけど。自分のした事どう思ってるんだか?」 マコは顔を顰(しか)めて機嫌悪そうに話す。 「もう終わった事だから。それに年数だって経ってるし、先輩も懐かしい後輩として誘ったんだよお願いだから、先輩の前でそう言う顔しないで。ね?マコ」 「ミキはお人好しで優し過ぎる! ガツン‼︎っと言ってやっても良い立場だよ?」 「……もう先輩も俺も終わった事だし。マコが行かないって言ったら俺も断ってた」 「そうなの?ミキが頼むから……でも、断ったとしても先輩はまた誘ってくるよ。昔っから、押しが強いしね。ミキはいつも押し切られてたじゃんだから、心配なの‼︎」 「確かに俺は優柔不断だから、そう言う人には弱い自覚はある。でもね、今の俺には伊織さんが居るし。先輩も純粋に懐かしい後輩と会うつもりなんだよ。変な勘繰りは止めよ?」 「それなら良いけど。先輩はそう言うの上手いからね。サークルの時だって、皆んなの前では僕とミキを可愛いがる振りして、裏ではミキを特別扱いしてるんだよね~。僕を隠れ蓑にしてさ」 「それは……でも、良く3人で居たじゃん。マコだって先輩の事尊敬して憧れてたじゃない」 サークルに入ったばかりの時には、マコしか知ってる人が居なくって……そんな俺に何かと声を掛けてくれてたのが先輩だった。 リーダー的存在で皆んなを引っ張っていく姿や強引な所もあるけど、気遣いや優しさを見せていつもポジティブで自信ある先輩に俺もマコも憧れてた、ううん…サークルの皆んなが憧れてた。 「まあ、そうだけど。あの件があってからは、先輩への見方が変わった。自分勝手だと思う‼︎」 それは渡米してから先輩と連絡取れずに自然消滅した事を言ってるのは解り、俺も何が原因だったのか?今でも解らない。 「マコ、それこそもう終わった事だよ。お願いだから、本当に今日はその事を蒸し返さないで。仲良く3人で会おう。お願い‼︎」 折角、3人で会うのに気不味い雰囲気になるのも嫌だった。 マコは…たぶん俺がずっと待ってて、それでも音沙汰無い先輩に待ちくたびれて自暴自棄になってた時を知ってるから…先輩を許す事が出来ないんだろう。 確かに……あの時は凄く辛かった。 あの時の俺は離れても先輩とはずっと続くと若さ故にそう思ってたから……それくらい好きだった 「ミキがそう言うなら。それにしても、あの成宮さんがよく先輩と会うの許してくれたね?成宮さんも先輩との事は知ってるんでしょ?」 「うん。先輩と会社で再会したその日の夜に全部とはいかないけど、付き合ってた事は正直に話した。今日はマコが一緒ならって」 「へえ~~、僕は信頼されてるんだ~」 「うん‼︎ 俺もマコにはいつも感謝してるし信頼もしてるよ」 マコは嬉しそうに笑った。 「先輩、変わってなかった?」 「うん! 大学生の時より大人になって、更に格好良くなってたよ。仕事にも意欲的で自信が漲ってて仕事出来る人って感じ。でもね、笑い顔とかは学生の時と変わってなかったから懐かしかった」 「ふ~ん。デブでハゲてれば良かったのに」 「マコ‼︎ そんな事言わないの!」 話題が変わって、先輩の今の印象を正直に笑顔で話す俺のちょっとした変化も見逃さないマコは訝しげに俺を見てた事は気が付かなかった。 そんな事を話しながら、先輩との待合せの駅に近づく。 ……先輩と再会した時にあったドキドキ…の事は マコには言ってなかった。 また胸がドキドキ……してる。 それが何なのか…。 会社で仕事絡みで会う先輩と違って、プライベートで会うからだとそう思ってた。

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