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第729話
駅の改札付近で、先輩を見つけ合流した。
「よっ! ミキ。ミキの会社で会って以来か」
「はい」
そして俺の背後に居るマコに気が付き
「お~~、マコ! 元気だったか?」
マコは俺の背後から顔を出し、先輩と対面した。
「元気ですよ。先輩こそ元気でしたか?」
少し堅さがあるマコだけど普通に挨拶した。
「おう! 元気.元気。ここじゃあれだから移動しよう」
前を歩く先輩の後を、俺とマコと並んで着いて行く。
良かった~~。
取り敢えず、先輩に対して変な態度取ってなくって。
電車で話したけど、実際に先輩と会うまでマコの態度が不安だった。
駅構内を出てキョロキョロ…辺りを見回す。
「まだ飯食う所とか解んないんだよな。俺が居た時とは、すんげぇ~変わっちまったからな。ファミレスじゃ~な。あっ! あそこ行こうぜ」
先輩が指差した場所は、学生時代に良く行った居酒屋チェーンだった。
俺もマコも「懐かしい~~」と言って、そこに入る事にした。
先輩、仕事の時と違って砕けた口調だ。
何だか学生時代に戻ったような、そんな気になった。
マコも少し構えてたのか?そんな先輩に懐かしさを覚えたみたいで顔から強ばりが取れた。
居酒屋は結構混雑してたけど、運良く席に着く事が出来た。
4人席に俺とマコは隣同士で、先輩が前に座り対面で座った。
「懐かしいなぁ~~。メニューは流石に変わってるか?」
メニューを取りテーブルに広げ、俺達にも見せた
「やっぱり変わってるな」
「そりゃそうですよ。もう何年も経ってるんですから」
「そうだよな。あっ! これは、まだあった。頼もう.頼もう。あと好きなの頼めよ。飲み物は取り敢えず、生で良いよな」
マコのちょっとした嫌味もスルーし、先輩は懐かしがってた。
適当に料理を頼み生ビールが届いた。
「じゃあ、懐かしい再会に! 乾杯‼︎」
先輩の音頭で俺達もジョッキを合わせた。
グビグビグビ……
「ふう~~美味い! 仕事の後の一杯は、やはり美味いな」
「先輩、オヤジ臭いですよ」
「もう、俺もオヤジの域だよ」
またマコの嫌味なのか.ブラックジョークなのか.解らないけど、俺は焦り雰囲気を悪くしないように取り繕う。
「そんな。先輩は全然オヤジじゃないです。学生の時より、ずっと大人の雰囲気が加わり相変わらず格好良いです!」
「ミキは相変わらず優しいな」
そう言って笑い掛けた。
変わらない笑顔。
俺は自分の発言にハッとした。
……変な事を言った。
透かさずマコが話題を変えた。
「先輩は、日本には仕事で?」
「ああ、出張って形だな。かれこれ2週間は経つかな。あと1ヶ月半は居るかな。今の仕事が一段落したら、また渡米する。あっちでも仕事待ってるしな」
えっ!
あと1カ月半だけ。
先輩の滞在期間は聞いて無かった……。
そうか、そうだよね。
日本に戻って来たわけじゃなく、あの仕事の為に…。
そうか、また渡米するんだ。
先輩の短い滞在期間を聞いて…少し落胆してた。
「そうなんだ。忙しいんだね」
「まあな。マコは、今はどんな仕事してるんだ?」
「僕は普通のサラリーマンです。総務部で仕事してます」
「へえ~~、マコがね~~」
「その反応って、どう言う意味?」
「いや、マコは見た目より案外しっかりしてるしな。そう言う意味では合ってると思ってな。でも
てっきり児童図書関係の出版社とか児童施設関係にいくのかと思ってた」
「確かに、子供は好きだけど、何で?」
「だってよ~。マコが施設で絵本読む時ってさ。声色変えたりして、子供達楽しそうだったから、てっきりそっち方面かと」
「声色変えてたって言っても、ちょっとですよ。男か女か解る程度にしてただけです」
「いや、違うな。子供の声とか老人の声とかも変えてた。あとは……動物の鳴き真似とかもしてなかったっけ?似てるようで似てないのがウケてた~~」
「それって褒め言葉ですか?先輩だって、劇の時に妙に力入ってなかった?王子様役とか大袈裟に演技しちゃって~~」
「やっぱ、子供でも女の子は女だしな。夢を与えてやらないと~。俺の王子様を見て、子供達もうっとりしてたな」
「……先輩を見てたんじゃなく、お姫様役のミキを見てたんですよ~。相変わらず、自信家ですね」
「えっ! そうなの?俺じゃなく、ミキ?」
「そうです。あんなに綺麗なお姫様は居ませんからね。お伽話から出て来たようで…子供達もうっとりでした」
ちょっと危惧してたけど、学生時代の話で和み始めた事にホッとしてたけど……矛先が俺の話しになって……ちょっと恥ずかしい。
「俺のお姫様役の話しはいいでしょ?嫌だ.嫌だって言っても、いつも俺になっちゃうんだもん。サークルには、他にも可愛い子や綺麗な子が居たのに~~。絶対、皆んな俺を揶揄ってたんだ。女装してる俺の身になって欲しかったよ~」
「「ミキ以外、考えられない」」
声を揃えて話す先輩とマコは意見が一致して笑い出す。
それからは大学時代の共通の話しで盛り上がり、食べて飲んでと楽しく過ごした。
まるで、昔の3人に戻ったようだった。
居酒屋で2時間程過ごし、それからBarに向かった。
Barでは、先輩が日本に戻ってからの日本の変わり様に「浦島太郎にでもなった気分だよ」と笑いカルチャーショック話しに盛り上がり、会社以外の人と久し振りに飲んだと話し、俺達も知ってる先輩の同級生のサークル仲間の話をし、その時には、ほろ酔い気分で終始和やかに過ごしてた。
「また、機会が合ったら飲もうな」と言い、先輩とは駅で分かれ、俺とマコは帰りの電車に乗った
行きの電車とは違ってマコもほろ酔い気分もあり「楽しかったね」と、和やかな笑うから俺も笑い返した。
マコには来る時にお願いしてたけど、どうなる事かと心配も多少あった、今のマコを見て ‘誘って良かった’ と胸を撫で下ろした。
先輩との居酒屋での思い出話しを、また2人で面白おかしく話す。
俺の最寄り駅が近づくにつれマコが「僕もちょっと心配だったけど…ミキじゃなく先輩の方ね。でも、今日一緒に来てみて、あの様子なら大丈夫そうだね。けど、絶対に2人で会う事は止めた方が良いよ」
何が心配だったのか?
俺にはマコの遠回しな言い方が良く解らなかったけど、2人で会う事は俺の中でも考えて無かった
「うん。もし、また誘われる事があっても、ちゃんとマコを誘うよ。でも、懐かしさで1回会っちゃえば、案外満足してもう誘わないかもね」
「それはどうか解らないよ。第一、ミキには成宮さんが居るんだからね」
どうしてマコがそんな当たり前の事を言うんだろう。
酔いがある頭では、マコの話す事に思考が追いつかない。
「もちろんだよ。俺には伊織さんが居るし先輩はもう懐かしい大学の先輩だよ」
「解ってるなら……良いけど」
ミキの押されると流されやすい所とか強引な相手に弱い所……自分で解ってるのかな?僕はそこが凄く心配だった。
先輩は……良い意味でも悪い意味でも、自分に自信があり少し強引だからだ。
本当に解ってるのかな?
自分がそう言うタイプに弱いって。
成宮さんも…先輩も……2人共…ミキが好きなタイプだと……。
あ~、心配だな。
何事も無ければ良いけど……。
今のミキは幸せだから……先輩の出現で変な風にならなければ良いけど……。
マコが俺を心配して、そう思ってた事は知らなかった。
そして俺は先に電車を降り、マコと手を振って分かれた。
俺と先輩が付き合ってた時の話しは1度も話題に出なかった。
それは…3人共わざと避けてた気がした。
でも、1度だけ……Barで飲んでた時に……。
「本当に、ミキとマコは相変わらず一緒だな。大学の時も終始一緒だっただろ?」
「そうだよ。だって、僕がミキの側に居たかったのもあるけど、ミキはお人好しで優しいから悪い奴に騙されそうで……僕が蹴散らして守らなきゃ心配だった」
俺もいつもマコに感謝し、そんなマコの気持ちが凄く嬉しかった。
「本当に、昔っからミキの騎士(ナイト)だったからな。俺もそれで随分助かった。マコがミキの側に居れば安心できた」
その時にドキッ!と胸が鳴った。
意味深な先輩の発言に…ドキドキ…した。
どう言う意味?
「ふん! 僕を褒めても何も出ないから」
「そりゃそうだ」
照れてそんな言い方をしたマコに先輩は笑ってた
先輩とマコに合わせて俺も笑ってたけど、心中穏やかでは無かった。
それからはその話題に触れずに他の話を始出した
けど、俺のドキドキ…は暫く止まらなかった。
先輩と偶然会ってから……そんな事が度々ある。
何なんだろう。
そんな事を想いながら、伊織さんが待つマンションに向かった。
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